第7話 戦闘

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        謹賀新年

□□□□□□□□□□□□□□□ 青山 有


旧年中は応援頂き誠にありがとうございました

改めて御礼申し上げます

今年もどうぞよろしくお願いいたします



―――― 本文 ――――



 伊織の駆る騎馬とアルマの操る馬車が土煙を上げて交戦地点へと迫る。

 襲撃している盗賊側と応戦中の馬車隊、どちらも彼らに気付いたようで二人の方を見て何かを叫んでいた。


「気付かれちゃいましたねー」


「そりゃま、気付くよな」


 それでも速度は緩めない。


「念のため確認しますが、襲撃している側と応戦している側のどちらの味方をしますか?」


 アルマの質問に伊織が一瞬躊躇う。


 襲撃している側を盗賊――、悪と仮定したがそれも不確かである。

 そもそも、襲撃しているから悪で襲撃を受けているから善とは限らないという思いが伊織を逡巡させた。


 次の瞬間、襲撃している側から火球が放たれ、アルマの操る馬車をかすめ、彼女が小さな悲鳴を上げる。


(決まりだ!)


「襲撃している側を敵と見なす! 襲撃している方を撃退して、襲撃を受けている方を助けるぞ」


「分かりましたー」


 馬車の手綱を右でで操りながら左手に開いた本型のデバイスを操作する。


「馬の正面に重力障壁を展開! 全方位に各種センサーを発動させます」


(なんだ? 急に何を言い出した?)


 驚く伊織をよそにアルマがさらに続ける。


「正面左手の森から襲撃側と思われる熱源反応六つ」


 襲撃者が六人いることをアルマが伝えた。

 さらに、彼女の声が続く。


「正面右手の森に熱源反応五つ。いずれも人種ひとしゅかそれに類する反応と判断します。こちらは襲撃側の伏兵と思われます」


(なんだかよく分からないが、急にデキる女に見えてきた)


 もちろん伊織の錯覚である。


「馬車隊を挟撃する作戦か」


 馬車隊の意識と戦力は左側の森に引きつけら、右側への備えはされていなかった。


(挟撃されたら一気に崩れる)


 伊織の思いを読み取ったようにアルマが言う。


「右手の森に潜む、襲撃側と思われる熱源を攻撃します。照準を展開。五つのターゲットをロックオン」


「もう、ロックオンしたのか?」


 敵と思われる存在の確認から複数のターゲットをロックオンするまでの速度に驚く伊織をよそにアルマが御者席の上に立ち上がる。

 いつの間にか右手に持っていた手綱を口でくわえ、右手はスカートのすそをつまみ上げていた。


 左手で本型デバイスを持ったまま、右手でスカートを膝の上までめくり上げた。

 刹那、スカートの中から複数の小型ミサイルが飛び出し、襲撃側の伏兵と思われる熱源が潜んでいる街道右手の森へと吸い込まれる。


 衝撃が空気を震わせた。


「全弾命中。ターゲットの無力化を確認しました」


「ちょっとまてー! まさか殺したのか?」


 蒼ざめる伊織にアルマがのんきな口調で言う。


「エネルギーショックで一時的に動けなくなっているだけです」


「でも、ミサイルが飛んでいかなかったか?」


 死に至らしめる攻撃でなかったことに安堵するが、それでもミサイルを目にした不安は残る。


「いま使用したミサイルは命中した瞬間に気化して空気中に霧散するので大丈夫です」


 超科学の兵器を使った証拠は残らないので安心して欲しい、と的外れなことを言った。

 それでも、彼女の説明に伊織は安堵する。


「エネルギーショックの有効時間は?」


「十分間は動けないはずです」


「五分以内に片付ける」


 そう言った瞬間、襲撃側に向けて矢が放たれた。

 アルマである。


 矢は命中こそしなかったが牽制にはなったようで、襲撃側の意識が分散する。


 伊織が御者席を見ると、御者席に立ったアルマが再び手綱を口にくわえて二本目の矢を放とうと弓を引き絞っているところだった。


(普段はドジ娘だけどやるときはやるじゃないか)


 伊織は御者席にあるアルマの颯爽とした立ち姿に頼もしさを覚える。

 しかし、直ぐに目を逸らした。


「アルマ、スカートがめくれているぞ」


「え?」


 アルマの長いスカートが矢筒やづつのベルトに挟まれて腰までめくれ上がっている。

 異空間収納ストレージから取りだした矢筒を腰に装着する際にスカートを一緒に挟み込んでいた。


「キャー! イヤー、イヤー! 見ないでくださいー」


 また涙目で我を失った。

 彼女の叫び声に呼応するように馬車が右に左にと大きく揺れる。


 口にくわえていた手綱を落とし、操り手のいなくなった馬車の御者席で暴れるのだから当たり前である。


「見ないから落ち着け!」


「う、うう……、お、おち、落ち着きますー」


「俺は騎馬で先行するから、お前は後から来い」


 伊織が騎馬の速度をさらに上げた。

 迫る伊織に向けて幾本かの矢が飛来し、そのうちの一本が彼の直ぐ横を掠める。


(当たっても無傷なのは分かっていても怖いな、これは)


 彼の祖母である志乃からの贈り物のなかに「自動防御スライム」があった。

 それは魔法と超科学が融合した防護アイテムの最高傑作と評されている。


 不可視のスライムを誰にも気付かれないほどの薄さで全身にまとって、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃から身を護ることができた。

 欠点は高額であることと耐用時間が1000時間と短いこと。


 自動防御スライムを見たときのアルマの驚く顔が脳裏に蘇る。

 呆然としながら、「国の要人が他国へ赴くときに身に着けるような代物ですよ」とつぶやいていた。


(贈り物を見る限り、俺は過保護なくらい祖母ちゃんに大切にされているようだな)

 

「加勢します!」


 伊織が襲撃を受けている側に大声で叫ぶと、応戦している者たちから歓声が上がる。


「助かる!」


「気を付けてください! 森のなかにもいます!」


 街道に姿を現しているのが三人、森のなかにいるのが三人。

 把握しているが伊織がそれに応える。


「承知!」


 最も手近にいた襲撃者に向かって伊織が馬ごと突撃を掛けた。

 帯剣していたが馬上で剣を振ることなどまだできないので、文字通り両手で手綱を握ったまま馬の突進力に任せの突撃である。


「グア!」


 襲撃者の一人が吹き飛んだ。

 まさかそのまま突っ込んでくると思っていなかったのだろう、馬の突撃を受けた襲撃者の驚く顔が伊織の目に焼き付いた。


「街道の襲撃者をお願いします」


 馬から飛び降りた伊織は馬車隊の人たちにそう言い残して森のなかへと飛び込む。


「一人来るぞ!」


「別働隊は何をやっているんだ!」


「合図をだせ!」


 別働隊が動かないことに襲撃者たちが焦りと混乱を覚えだした。

 そこへ伊織が彼らの不安を煽るように言う


「別働隊なら制圧したぞ」


「ふざけたことを」


 伊織に向かって矢が放たれるが、腕に当たって弾かれた。

 射手は混乱しながらも二射目を伊織に向けて放つと、今度は見事に彼の左胸に突き刺さる。


「いい腕しているじゃないか。だが、無駄だ」


 伊織の口元に勝ち誇った笑みを浮かべると射手との距離を詰めるべく森のなかを走る。

 森に不慣れな伊織が接近する前に射手が第三射を伊織に放った。


 今度は見事に頭部に命中した。

 しかし、伊織は怯むことなく走る。


「なんだと!」


「寝てろ!」


 混乱する射手の側頭部を刃引きの長剣で思い切り殴りつける。

 素人の振るう長剣だったが、混乱していたことが幸いして見事にヒットした。


 鈍い音を立てて射手が昏倒する。


「次はどいつだ?」


 伊織が次の襲撃者に狙いをさだめたそのとき、


「退け! 失敗だ、逃げるぞ!」


 襲撃者の一人が号令を発する。

 その号令を合図に街道にいた者たちも含めて一斉に森の奥へと消え去った。


「倒れた仲間は置き去りか。盗賊らしいと言えば盗賊らしいのかな」


 そんなことをつぶやきながら、馬車隊のいる街道へと足を向けた。

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