3 夕焼けと透明
「昨日、誰と帰った?」
「誰って」
翌朝教室に行くと、雪帆の席に座って待っていた西山くん。
挨拶の前に飛んできた言葉が雪帆の思考を止めた。
言葉につまっている雪帆を椅子に座らせ、机に腰をかける西山くん。足が雪帆の体を挟むように広げられ、逃げられない状態を作る。
なんだか尋問みたい。
なにか悪いことした覚えもないのに、どうして責められているんだろう。
「綾斗と隆太」
「なんで?」
「下駄箱で会ったから」
偶然、とは言い切れないけれど、約束をしたわけでもない。ましてや綾斗が待ち伏せしていたという証拠もない。
「そう……」
はあ、とわざとらしい溜息。
つぐんだ口はなにか言いたそうに見える。それに気づいていてもなにもできない雪帆は、ただそこに座って西山くんの言葉を待つしかない。
雪帆を一目見て顔をゆがめた西山くん。
「具合、悪いの?」
そんなことじゃないことは頭ではわかっているのに、なんと言っていいのかわからない。
そんな雪帆を西山くんがぎゅっと抱きしめた。強く、雪帆が痛がるくらいに。
泣きそうな声でごめん、と小さく呟いた西山くん。その謝る意味が雪帆にはわからないが、慰めるように西山くんの頭を撫でると抱きしめる力が少しずつ弱くなっていく。
「ごめん、ごめんね雪帆」
「どうして謝るの?」
「雪帆は悪くないってわかってるのに、当たっちゃって」
雪帆が悪くないなら西山くんだって悪くないはずだ。どうしてこんな会話をしているのか理解してないけど、雪帆が嫌な思いしてないんだから、こうやって苦しそうに謝る必要もない。
「ごめんね、雪帆。好きだよ、好き、大好き。雪帆は? 俺のことまだ好き?」
「好きだよ」
まだ、という言葉に引っかかりつつも答える。
雪帆は西山くんが好きだった。他の誰よりも想っていた。
だからこそ、今なぜこんなことになっているのか理解できなかった。
「ありがと、俺も好き」
腕の力がゆるんだと思った瞬間にされたキス。
いつもならどきどきと心臓がうるさいのに、今日のこの瞬間だけ何故かなにも感じなかった。
西山くんの気持ちが見えない。
不安が雪帆を包み込む。
西山くんにこの暗い気持ちを取り除いて、優しい言葉で包んでほしい。
好きな人に不安な気持ちを取り除いてもらいたいなんて、よくないことなんだろうか。
きっと今の雪帆の気持ちを、西山くんが気づくことはない。
それから雪帆は綾斗との会話を西山くんがいない所でして、姿が見えた瞬間に切りあげるようにした。
綾斗と一緒にいることが嫌だと西山くんが言うのなら雪帆はそれに従う。
好きな人のためならそれくらい簡単だ。
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