5章

1 瞳と花火

 本格的な暑さは過ぎて、日が沈むと涼しくなる日が増えてきた。


 過ごしやすい時間を感じながら、雪帆の心は寂しさでいっぱいだった。


 唯一嬉しかったのは隆太が目を覚ましたことだ。


 雪帆と綾斗が別れた一週間後そのことを知り、お見舞いに向かった。


 病室には元気そうな隆太がいて、今後はリハビリと勉強を両立しつつ、予備校に通うと話していた。


 綾斗とはあの日から会っていない。学校に戻ってきたらしいと、美波から聞くまで退院したことすら知らなかった。


 学年が違うとこんなにも情報が届かないものなんだと、雪帆は今さらながら知った。一瞬寂しさを感じたけれど、涙はもう出てこなかった。


 綾斗とはきれいに終わった。


 それが一番大きい。あの時はあんなに悲しくて苦しかったのに、時間がたってしまえば自然と癒えていく。なにもかも元通りの日常だ。


 ただ、戻らなかったのは西山くんだ。


 隣のクラスで、前はあんなにもすれ違っていたのに今はもう背中でさえ見なくなっていた。きっと避けられているんだろうな。


 もう一度話をしたい。


 今さらそんなことを雪帆が一人で思っても遅いのはわかっていたけれど、どうしても考えずにはいられなかった。


 焦りを感じながらも行動を起こすことはできず、ただ日が過ぎていくだけだった。


 廊下に貼られた夏祭りのチラシを目にした時、西山くんが二人で行こうと言ってくれたことを思い出した。「浴衣着てきて」と優しい笑顔で言った西山くんは、誰かと行くんだろうか。もしかしたら、雪帆に言ったその言葉を、知らない誰かに言ったのかもしれない。


 少し前の雪帆自身が望んだことを、今は起きてないように、といつの間にか願っていた。


 誰に見せるわけでもないのに、雪帆は家に帰ると浴衣を出していた。もしかしたら、と考えてしまう。それはもう止められない。ならいっそのこと、完全に可能性がゼロでないなら、それが実現するように雪帆だけでも行動するしかない。


「お母さん、浴衣着付けして」


「浴衣着ないって言ってなかった?」


「うん、でも着ていきたいの」


「そう、わかった」


 とびきり可愛くしてあげる。雪帆の気持ちを全部くみ取ったように、そう言った。

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