2 瞳と花火②

 お祭りという行事は人が集まるもので、慣れない浴衣に身を包んだ雪帆は、人混みにもまれながら美波と歩いていた。夏目さんも一緒に来るはずだったけれど、先約がある、と断られてしまった。


「今年はなんか人多いね」


「噂を聞いて来た人もいるんじゃない?」


「ああ、花火の」


「花火と同時に告白かキスすればなんとかって」


「永遠に結ばれるだっけ? もう昔に聞いたからあんま覚えてないな」


 すれ違う人に恋人同士は多く思えた。


 昔からある信憑性のない噂でも人を集める効果はあるんだと知らされる。ああいいなあ、そう思いながらぼんやりと眺める。


 その雪帆の目が留まったのは一瞬のこと。


 雪帆の視線の先に夏目さんがいた。


 赤くきれいな浴衣で髪を束ねた夏目さん。いつもよりきれいだった。


 すっと近くにいる人を見る。


 誰と来ているんだろう、そう思うのはなにも不思議じゃない。とても自然なことだった。ただ、この今だけは、その考えが浮かばない方がよかったと、雪帆は後悔することになる。


 西山くんがそこにいた。


 夏目さんを西山くんとその友人が囲んで談笑していた。見たくなかった光景。なのに、体も目も、雪帆のなにもかもが止まってしまっている。


 どうして、よりによって。


 そんな汚い考えが雪帆の頭の中を埋め尽くす。


 でも、そこにいる二人は誰が見てもお似合いのカップルとしか見えない。


 西山くんが雪帆に気付いた。


 一瞬、目が合った。


 たったそれだけ。なんの変哲もないことなのに、その特別意味もないはずの行動が雪帆の心を大きく揺さぶった。


 もう終わった関係だ。あの時差し伸べてくれた手を雪帆は取らなかった。


 幸せになってほしいと願ってきちんとさよならしたはずなのに。


 西山くんが雪帆に向けた視線はあの時と全く変わっていなかった。


 なにごともなかったかのように夏目さんと西山くんが二人で歩き出す。


「雪帆」


 美波が名前を呼ぶ。


 すべてを見ていて、雪帆がなにを考えているのか美波はわかっていた。


 だからこそ今、名前を呼んだんだ。


 ついて行くなと言うように。


 雪帆自身もわかっていた。冷静に考えれば出る答えは一つだ。でも、それがまだ真実だと知らされたわけではない。夏目さんなら言ってくれるはずだと、甘ったれた考えをずるいとわかっていながら、その頭は捻り出し足は二人を追いかけていた。


 この瞬間を逃したら、きっともう西山くんと話すことができなくなってしまう気がした。


 暗い林を抜け、神社裏の近くに出る。二人を見つけ、やっぱり追いかけなきゃよかったと瞬時に思った。


 美波が呼び止めてくれた時に目で追うのをやめていれば。


 むしろ、周りなんか見渡さなければ、きっとこんな、キスをしたあとのような距離の二人を、見ることはなかったんだ。

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