9 太陽と青⑤
夕日が沈んできたころ、パラソルをたたんで服に着替えた。
せっかくだし帰りはみんなで電車にしようと話が持ち上がる。
雪帆と美波は正直バスのほうが家の近くまで行ってくれるが、時刻表を見る限りしばらく来ないようだったし、せっかくならとみんな電車に乗りこんだ。
電車の心地いい揺れに身を任せて、雪帆と西山くん以外は眠りについていた。
「みんな寝ちゃったね」
「眠たかったら俺の肩使っていいよ」
「ううん、せっかくだから起きてる」
「なら俺も起きてよ」
夕日に照らされる街の中を電車が走り抜けていく。
普段電車に乗らない雪帆はなにもかもが新鮮だった。
最初にしたデートみたいだ。
家に帰りたくない。
海で遊んで疲れているはずなのに、すぐに戻って西山くんと二人の時間を過ごしたい。
そんなわがまま言えるはずもない。
各駅に止まって行く電車。綾斗、夏目さん、美波と隆太の順で電車を降りていく。
「夏祭り、あるじゃん」
「神社の?」
「そう、それ。一緒に行こ。浴衣着てきて」
「いいよ、またみんなで─」
「二人で」
「……」
「いや?」
「すごく嬉しい」
西山くんからそんなことを言ってもらえるなんて思ってもなかった。
二人で過ごしたいと雪帆は一言もこぼしたことも態度に出したこともなかったのに、どうして言ってくれたんだろう。もしかして西山くんも雪帆と過ごしたいと思ってくれていたんだろうか。
トンネルをくぐる。
明るい所から一気に暗い所に移ったせいで目がチカチカする。なにも見えない。
横にいる西山くんが身体を動かした。
なんだろう。
そう思った瞬間に、唇が重なった。
ぱっと車内が明るくなる。
トンネルを抜けて夕日でまた赤く染まる。
横を見れば夕日に負けないくらい顔を赤くした西山くん。
照れ隠しに拗ねたような顔も、すぐ赤くなるくせも手を握る強さも、全部全部愛おしくてたまらない。
今までで一番短く感じる夏休みが始まる。
『俺、ちょっとのあいだバイトすることにしたんだ』
「え」
宿題どう? 進んでない。なんて会話から変わってその一言。
一緒に宿題やろうか、みたいな言葉を期待していた雪帆はがっかりした声を隠せない。
『ほんの三週間だけどね』
「そっかあ」
明日が初出勤だからと電話は終わった。
ほんの三週間。
三週間後は始業式だ。
一人の夏休みは長く感じた。
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