8 太陽と青④
「あ、気がついた?」
ぼんやりとした視界に映る美波。よかったと安堵の息を漏らす。
なにが起きたのかわからない雪帆は、ただかけられる言葉を受け止めるだけ。
綾斗を見ていて、それからどうなったんだっけ。
「いきなり飛び込んでくるとかバカかよ。溺れるに決まってんだろ」
頭を叩かれるような声がした。眉間にしわを寄せて苦しそうな顔をしながら、雪帆を睨んでいる綾斗。怒っていることはなんとなくわかった。
でもその理由が雪帆にはわからない。いきなり飛び込むのはよくなかったけど、そこまで怒ることなんだろうか。
「もう二度とすんじゃねーぞ」
吐き捨てるように言ってその場を去った。
「ごめんね、俺がちゃんと止めればよかった」
「いやそんな。私も、夢中になっちゃって」
海水で乾いた喉で答える。
夏目さんが心配そうに水を差し出してくれる。
ありがとうとお礼を言って、ごめんねともつけくわえる。心配と迷惑をかけた。せっかく楽しい夏休みも嫌な思い出ができてしまった。
「あいつが一番心配してたからさ、きつい言葉かけちゃったんだろうけど許してやって」
許すなにも、雪帆がした行動によって招いたことだ。隆太が綾斗をかばうようなことを言う必要はない。たしかに、あんなに怒らなくてもとは思ったけれど、心配したからという理由ならきつい言葉が降りかかるのも仕方ない。なのに、なんでそんなことを言うんだろう。
なんだか少し気になるけれど、蒸し返すわけにもいかない。
十分回復してもう大丈夫だから遊んできて、と雪帆はみんなに言った。
せっかく海に来たんだし、このまま時間がたってしまうのはもったいない。なにかあったら言ってすぐ来るからと言葉を残して、心配そうな夏目さんも美波と一緒に海へと行った。
休憩所に一人残る雪帆。
そこに西山くんがやってきた。
「大丈夫?」
「うん、ごめんね」
貸してくれたパーカーも脱いでしまった。
なんだか西山くんには申し訳ないことばかりしているような気になる雪帆。言葉が続かない。
「パーカー、無理やり着させてごめん」
びっくりした。
まさか西山くんからその言葉が出るなんて予想もしてなかった。
「いや、そんな。私も見せれる体じゃないのに……」
「違う、そんなことないよ」
「ホントはワンピースがあってね、でも美波と夏目さんが許してくれなくて」
えっと、なんていうか。
言い訳だとわかっていた。でも、自分からこんな格好になったわけじゃないと、西山くんにわかってもらいたかった。
「だから、違うんだって」
ぎゅっと手を握られて言葉が止まる雪帆。
「可愛い、よ。すごく、ホントに」
太陽に負けないくらい真っ赤になる西山くん。それにつられるように頬が熱くなる雪帆。
「付き合う前からずっと可愛いなって思っていたけど。最近はもうなんか、俺の想像超えてくるから、ちょっと追いつかないっていうか」
西山くんのすべてが熱かった。
夏真っ盛りの海で、ここが一番熱いんじゃないかと思うくらいだった。
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