4章
1 銀色と欠片
事故にあった。そんなメールを受信したのは夜中。携帯の明かりに目を覚ました雪帆は、すぐに綾斗に電話をかけたが、出ることはなかった。
「ごめん、私も隆太も知らない」
美波ならなにか知っていると思ったのに。隆太も最近は会ってもないという。勇気を出して家を尋ねても誰も出てこなかった。
ただ携帯を見つめて連絡を待つ日が続いた。
綾斗と連絡取れたのは、それから一週間経ったころ。
「俺、明日から学校行くから」
連絡取れなかった理由も、事故にあった経緯も、なにも触れずにただそれだけ電話で告げた。
そうじゃないでしょ。
もっと言うべきことがあるでしょ。
いつもと変わらない綾斗に腹が立つ。
溜息を吐いて机に伏せた。
助けを求めるように手が無意識に動く。
引き出しの奥、大事にしまっていた箱を取り出す。蓋を開けると、きらきらと光を飛ばして輝くネックレス。西山くんがくれた物だ。今これを取り出してなにをするつもりなのか雪帆にもわからない。でも、ただ眺めているだけでも安心できた。西山くんを思い出して安心するなんてよくないとはわかっていたけれど、今の雪帆にはなんでもいい、支えがほしかった。
「雪ちゃんそれなに?」
とっさに首元を隠す雪帆。
にこにこと言葉を待っている夏目さん。そんな目で見ないでほしい。
「可愛いね、もらったの?」
買ったの? と普通は聞くものなんじゃないだろうか。
雪帆は休日でもアクセサリーの類は付けないから、そもそも自分で買うことはないと思ってからだろうか。綾斗がいるからそう聞いたのかもしれない。
「誰? あのひと? でも、そんな可愛いのあげそうに見えないなー」
名前で呼ばない行動が、なんとなく西山くんにかぶる。
ここで夏目さんに言う答えは嘘だろうが本当だろうがどっちでもいい。
それを知ることはできないんだし、確かめるようなことをするとも思えない。なら綾斗から、と言った方がすんなり話は流れる。例え嘘だとしても。
でも、それだけはしたくない。
「……西山くんに、もらったの」
ばさばさと、物を落とした音がした。
真後ろだった。
雪帆の後ろで、西山くんが、手荷物を床にぶちまけていた。
聞かれた。夏目さんとの会話を全部。
「バカ、なにやってんだ」
「お前なんで鞄閉めてねーんだよ」
「ペンこっちまで転がってんぞ」
友達が囲んで西山くんの世話を焼く声が聞こえる。近くにいるなら手伝うべきだと思っても、雪帆の足は少しも動かない。ただその姿を見ているしかできない。
かつ、と足になにかが当たる。視線を下げれば赤いボールペンが転がっていた。きっと西山くんの物だ。拾って渡さなきゃ。簡単なことなのに、少しでも体を動かそうとすると涙が出そうになる。
動けない雪帆の代わりに夏目さんがペンを拾う。
ああ、そうだよね。夏目さんが渡した方が早いもんね。
「はい」
ぎゅっと手を握ってくる夏目さん。雪帆になにかを渡す。
「え、なに」
にこーっと笑ってすっと西山くんに駆け寄る。
ねえ、これ。
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