5 王子と姫②
「それで夏目さんと仲よくなったの?」
「仲よくなった、のかな?」
どちらかと言うと、懐かれたの方がしっくりくる気がする。
「で、アンタはこの空間に混ざろうとしてるの」
「キツイかなあとは思ってるけど、混ざるつもりで来ました」
手に持ったビニール袋を、顔の高さまで上げてにこっと笑う西山くん。近くの椅子をずるずる引き寄せて雪帆の横にちゃっかり座った。
お昼休み、一緒にご飯を食べようと美波と雪帆を誘ったのは夏目さんだ。そこに西山くんがあとから来て混ざろうとしている。人気者が集まるとこんなにも人の目を集中させるものなのか、と雪帆は思っていた。大勢で食事をすることは楽しい。でも、今はそんなのんきな気分にはなれない。
「なんで雪ちゃんの隣に座るの?」
「ここしか空いてないんで」
「真正面に西山くんの顔がある状態でご飯を食べろというの? 私は雪ちゃんを見てご飯食べたいのに?」
「だったら時田さんに譲ってもらえば?」
「美波ちゃんをどかしてまですることじゃないじゃない」
「え? なに、じゃ俺はどうすればいいの?」
「帰ったらいいんじゃない?」
すっと笑顔のままで廊下を指さす。
「ええー」
可愛い顔してきつい言葉を、と思いながらなにも言えない雪帆。
「なかよく食べないなら解散」
美波の言葉にすっと口をつぐむ二人。その姿に笑みをこぼす雪帆。
「雪ちゃんのお弁当かわいいー」
「かわいいー」
「女子限定なので入ってこないで下さい」
「えーなにそれ、俺もきゃっきゃしたい」
いつもより騒がしく昼休みは終わった。
放課後、人が少なくなった教室で西山くんがいつも通りに雪帆を迎えに来る。
「大変なことにならなくてよかった」
「心配した?」
「うん、まあ。でも俺が出てもさ、時田さんが言った通りになったと思うし」
「じゃあなんであんなこと言ったの?」
それはさ、と口ごもる。
見つめる雪帆に負けたように口を開く。
「好きな人にはさ、かっこいいって思ってほしいから。漫画でよくあるじゃん、助けるシーンとか。ああいう風にはいかなくても、少しでも俺のこと意識してくれればって」
ああ……と声が漏れる雪帆。
「上本さんさ、たまに俺が好きでいること忘れてない?」
「今までこういうことなかったから、つい、友達みたいに」
「なかよくしてくれるのは俺も嬉しいよ。一緒に過ごせる時間が増えるし。でも、俺は上本さんを落とそうと考えてるからね」
「なんだか、ずるいね」
「なにが?」
「たまに男の子っぽくするの」
俺はいつでも男だよ。そう言って西山くんは笑った。
もちろん女の子だと思ったことはない。
ただ、女の子と同じように接することができるから、頭から抜けてしまうだけだ西山くんにとってそれはひどいことなのかもしれないけれど、雪帆にとって、西山くんはいつもそばにいる存在になりかけているのかもしれない。
友だちみたいな。
でも、時々見せる男の子らしさが、雪帆の中にある友達格付けに当てはまらなくなる。
性別の違いを痛感する。
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