5 銀色と欠片⑤

「夏目さんに果物もらったよ」


 ビニールときれいに結ばれているヒモを解く。


「……ヒモ、とっといて」


 綾斗が声を発した。久々に聞くその声は少し枯れていた。


「……なにに使うの」


「いや、別にきれいだから」


 不思議に思いながらヒモを綾斗に渡す。じっと見つめる綾斗は、するり、と飾りの部分もあっさり解いてしまった。きれいと言っていたわりにはあっけない。


「なにか食べる?」


「お前さ、学校行けよ」


「……なに、いきなり」


「俺以外見ろってことだよ」


 気づけば果物が入ったバスケットを綾斗に投げつけていた。夏目さんとの話を聞いていたんだろうか。罪悪感と後悔で心臓がどきどきうるさい。


「なんでそんなこというの」


 雪帆はもう二度と外せないような重い鎖を自分で付けたばっかりなのに。それを責めるような言葉を綾斗は簡単に口にした。まるで嘲笑うかのように。


「なんか言ってよ」


 綾斗は口を開かなかった。


 いつもそうだ。


 雪帆の気持ちをぐちゃぐちゃにかきまわして、せっかく覚悟して決めた気持ちもめちゃくちゃにする。


 綾斗のそばにいると決めたのに、それを肯定するような言葉はなにひとつくれやしない。気持ちを引き寄せようともしない。


「もう、いいよ」


 雪帆は病室をあとにした。

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