2章

1 赤とふたり

「おはよう」


いつもの朝、いつもの学校でいつもの朝の挨拶。なのに、なぜか特別に思える。


「おはよう」


照れながら返した。


ぽんぽんと雪帆の頭を撫でる西山くん。


なんだかきゅうっと胸が苦しくなる。


「朝からいちゃついてんな」


 笑う美波のあとから夏目さんが下駄箱に入ってくる。


「おはよ」


「おはよー」


 簡単に朝の挨拶をかわす。


「いこ」


 教室に向かう二人に、雪帆もいつものようについて行こうとした。自然に体が動いたから、西山くんがいても全く不思議には思わなかった。今までずっとそうだったから。


 それを止めたのは西山くんの手だった。


 雪帆の手を握ってさっきまでいた隣に引き戻す。


 そこにいたみんなが驚いていた。その中で一番驚いているのは雪帆自身だった。


「ごめん、俺のだから」


 少し照れながら主張した。その瞬間真っ赤に染まる雪帆と西山くんの顔。


「ああ、そうなんだ」


 全部理解したように、おめでとうと言った美波。先行ってると告げて教室に向かった。そのあとについて行く夏目さん。少し寂しそうに雪帆に手を振った。


「あ、えっと」


 言葉に詰まる西山くん。前の方がうまく喋れていた気がする。


「俺のとか言ってごめん。でも、もうちょっと一緒にいたくて」


 赤い顔して申し訳なさそうに言った。その姿を見て、雪帆はぎゅーと心を鷲掴みされるように苦しくなったと同時に、西山くんを無性に抱きしめたくなった。


 そんなことをこんなところでしたらだめなんだけど。


 どきどき、と積み重なる気持ち。嬉しい、と雪帆も赤くなり答える。目の前に好きな人がいる幸せをかみしめる。


「土曜日、空いてる?」


「空いてるけど」


「なら、どこか出掛けませんか」


 もごもご。


 今までは見せなかった西山くんの表情を、ついまじまじと見てしまう雪帆。


「……なに」


 顔を隠して拗ねたように言う。


「昨日とはなんだか感じが違う気がして」


「そりゃそうだよ、前までは俺の片思いだったけどさ、今は俺の彼女でしょ」


 西山くんが言った、彼女という言葉。


 それが二人の関係が変わったことを実感させた。


「好きな人が自分のこと好きって言ってくれるなら、もっと好きになってほしいって力入っちゃうのは仕方ないよ」


 雪帆はそのままでもいいんだけどな、とふと思った。


 そんなこと言ったらどうなるんだろう。


 前の西山くんも好きだった。でも今の方が、


 ずっと好きだと雪帆は思う。

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