5 太陽と青

 西山くんと勉強したおかげか、返却されたテストをぐしゃぐしゃに丸めて机の奥に押し込むことはなくなった。


「点数が上がってよかったね」


 よしよしとペットのように頭をなでられる。


 ここが教室でなければぎゅっと抱きしめてほしいと思う雪帆。


 そんな自分を恥じた。


 テストが終わって浮かれた気分の教室で「ねえ海に行こう」と誰かが言い出す。計画はとんとん進んでいき、日時もいつの間にか決まっていた。


「もう二人呼んでいい?」


「いいよ、多い方が楽しそう」


「誰呼ぶの?」


「男一人じゃ寂しいかと思って、私の彼氏とその友達」


「美波ちゃんの彼氏見れるんだーやったー」


「楽しみだね」


 西山くんはそう言って笑った。


 夏休みを楽しみにするのは久しぶりだった。


 早くその日が来ないかとわくわくした。それは本心だった。けれど、隣にいる笑顔の西山くんを見て、せっかくなら二人でも、という考えが浮かんでしまう。きっとそんなことを考えるのは自分だけなんだと、雪帆は寂しさをひっそり抱えた。


 初めてのデートも含めて、雪帆は西山くんに対して不満と寂しさを抱いていた。


 嫌だと思うところがあるわけじゃない。西山くんの全部が好きだった。


 ただ二人の時間が欲しい。それだけだった。


 二人で話し合ってお互いのことを考える。


 なにが好きでなにが嫌いで、これからなにをしたいか。それを伝え合うだけでよかった。


 そういう時間が西山くんとのあいだに持てていないのが雪帆は少し不安だった。


 付き合い始めてから下校は一緒にしていて、それはもちろん楽しみにしていた。でもそれじゃ、付き合う前となにも変わらない。学校から雪帆の家に行くだけの帰り道。放課後どこか行こうかという会話もなく雪帆を送って終わり。それが毎日。


 せっかく付き合ってるなら寄り道だってしたいし、たまには美波や夏目さんと帰りたい日あるた。それをなにも言わずにくみ取ってくれ、なんて思ったりはしなかったけれど、せめて言う機会や時間が欲しかった。


 わがまだと指摘されたくなかったから、美波と夏目さんに相談はしなかった。そもそもどうやって言ったらいいのかわからなかったし、迷惑もかけたくなかった。

どうしたらいいんだろうと、答えが出ないことをわかっていながら一人で悩んでいるうちに時間は過ぎていく。

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