6 太陽と青②

 蝉が鳴いて日差しが降り注ぐ道を、雪帆はゆっくりと歩いていた。


 家が近いもの同士行動して海で集合しようと言ったのは美波で、グループ分けも美波の彼氏とその友達、西山くんと夏目さん、美波と雪帆、と自然にまとまった。


 夏目さんと西山くんが不満そうな顔をしていたのを美波は見てみないふりを貫いた。西山くんには悪いけど、雪帆もたまには美波と行動したかったんだ。


「雪帆」


 こっち。と言うように手を振る美波。木陰で暑さをしのいでいる姿を見て、美波はやっぱりきれいだなと雪帆は思った。


「水着、ちゃんと持ってきた?」


「持って……来たよ」


 海に行くことが決まると水着の話は避けられない。「どんなの着よう」とはしゃぐ二人を見ながら、「そういえば学校指定のしかもってないかもしれないなあ」と雪帆がこぼした瞬間、放課後に買い物することが強制的に決まった。


 もしかしたら、家を探せばなにかしらあるかも、なんて苦しい言い訳が通用するはずもなく、どうせなら新しい水着で楽しもう、という二人の言葉に跳ね返された。


 ショッピングモールのテナントを渡り歩き、「あれもいい」「これもいい」と雪帆に渡しては試着をさせる夏目さんと美波。


 楽しそうでなにより、と思いつつも、着せ替え人形の気分の雪帆。


「二人は選ばないの?」


「私らはなんとかなるから」


「雪ちゃん次これね」


 話を聞いてくれ。


 結局雪帆のファッションショーで終わった。


 派手だという雪帆に、これくらい普通だと押し切られた水着。さすがに肌を出し過ぎだ思うんだけど。


 あれを着るのかと考えているとバスが到着する。エアコンきいた車内は夏休みなのに比較的空いていて、美波と雪帆は二人席に腰をかけた。


 揺れる心地よさが眠気を誘い、雪帆は静かに目をつぶる。


 キラキラと眩しい光に目を覚ますと、窓の外に海が広がっていた。


「そろそろ降りるよ」


 固まった腰と背中を伸ばしながら美波のあとに続いてバスを降りると、冷えた体を熱気が包む。


 せっかくバスで涼んできたのに、と熱を放ち続けるアスファルトを睨む。


「いた」


 美波の言葉に顔を上げると、その視線の先に雪帆たちを待つ四人の姿。西山くんと夏目さんの他に見ない顔の二人。どっちかが美波の彼氏だということはわかるけれど、どっちがどっちなのかわからない。


 一人が雪帆たちのところに笑顔で駆けてきた。


「暑いねー荷物持つよ」


 そう言って真っ先に美波の手から荷物を取る。


 美波が少し頬を赤らめていた。普段そんな顔をあんまり見せないのに、この人の前ではごく普通の女の子だ。きっとこの人が美波の彼氏なんだろう。


 美波の荷物を持ったその人は、貸して貸してと雪帆の荷物も持とうとする。言われるがまま荷物を渡す雪帆。


「俺、小川隆太ね。隆太って呼び捨てでいいよ」


 にこーっと人懐っこい笑顔だった。


 誰に対しても分け隔てなく接してくれる。多分、こういう人がクラスの中心にいて、人気者になるんだろうな、と前を歩く隆太を見ながら思う。


 軽くなった身で海へと進む。


「あ、俺からなんて呼べばいい?」


「え、あ……なんでも」


「んー、じゃあの子が呼んでたように雪ちゃんでいいかな」


 きっと夏目さんのことだ。


「はい」


「敬語とかいいからね」


 突然そう言われてもすぐに返せない雪帆は、ただ笑って頷いた。


 もっとうまく喋れればいいのにと、自分を責める。悪い人じゃないことはわかっているのに、人見知りが邪魔をしてうまく話せない。


「綾斗」


 隆太が名前を呼ぶとゆっくり近づいてくる。


「俺の友達」


「久我綾斗な、めんどくせーから綾斗でいいよ」


 自己紹介にしては短い言葉で、隆太とは違ってにこりともしなかった。


 けど不思議と不快感はなく、雪帆の中に綾斗は気になる人というくくりに収まった。


「みんな揃ったね。女の子たちは着替えておいで、俺らでパラソルとか準備しておくから」


 行ってらっしゃい。と準備するものには手を触れさせようとしない隆太。女の子がするもんじゃないよーと気を遣ってくれている。


 会話ができなかった西山くんに、雪帆は静かに手を振って更衣室に向かう。


 ふと視線を動かすと、綾斗と目が合った。


 雪帆の目に映った綾斗が優しく微笑む。


 その瞬間、雪帆の時間が止まったみたいだった。

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