4 ノートと黒②

「終わった?」


 無言でうなずく雪帆。確認する西山くんをじっと見つめる。


 西山くんはたまに想像もできないようなことを言う。


 冗談かどうかもわかんない。


 今さっきのは本気にしていいのか。


「あってる、よかったね」


「ホント?」


 柔らかく笑った西山くんに力が抜ける雪帆。


 なんだ、冗談だったんじゃん。安心して問題集を覗き込むように見る。


「雪帆」


 急に名前を呼ばれ、とっさに顔を上げる。


 次の瞬間、返事をする間もなく口をふさがれた。


 瞬きをする前に絡まったまつげがほどけ、西山くんの顔が離れていく。

 

 うっとりと潤んだ西山くんの瞳が目の前にあって、真っ直ぐに雪帆を見つめている。赤く染まった顔と、その瞳が抱える愛おしい気持ちが伝わる。


 西山くんが持つ熱が移るように頬を赤らめる雪帆。


 静かな部屋に二人の息づかいだけが響く。


「目、閉じて」


 放った言葉が優しく雪帆の瞼を閉じさせた。


 柔らかいものが唇に触れ、ゆっくりと離れていく。


 二人の体温がほんのり残った雪帆の口を、西山くんが指でなぞる。


 その指がしようとしている先というものを雪帆は少し怖かった。西山くんのことは好きだけれど、まだそこに進めるとは思っていない。


 雪帆の身体が強張るのを感じ、ふっと優しく笑ってぐしゃぐしゃと少し乱暴に頭を撫でる西山くん。


 照れ隠しなのはなんとなくわかっていた。


 けれど、今はそんなんじゃなくてただ優しくして、雪帆が抱える怖いという気持ちを取り除いて欲しかった。

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