3 銀色と欠片③

 週末を待って綾斗と雪帆は海に行くことにした。


 二人じゃ寂しいからと美波と隆太も誘った。笑顔で行くと答えてくれたときは少しほっとした雪帆。それがなぜほっとしたのかはわからない。


 夏休みも過ぎて、海に来ている人はぐんと減った。泳ごうとしているのは雪帆達を含めて三つのグループしかいない。


 日差しは相変わらず強くて、日焼けをしたくなかった雪帆は、着替えもせずパラソルが作る陰に座り込んでいた。西山くんが可愛いと真っ赤な顔で言ってくれた水着は鞄の中に入ったまま。


 海の波がなんだか高く思えた。


「奥の方行ってくる」


 水分補給に来た綾斗が、ペットボトルから口を離してそう言った。


「やめなよ、まだ完治してないんでしょ」


 どこを怪我したなど聞かせてはくれなかったけど、身体を動かすと痛そうな顔をしている時があった。


 心配な雪帆は止めようと綾斗の腕を捕まえるが、無言で振り払われる。


 付き離された感覚が襲う。初めて雪帆は綾斗に拒否をされた。ただただショックだった。なにもかも受け止めてくれた綾斗がこんなことするなんて思ってもなかった。


 雪帆を置いて海に向かって行く綾斗。その背中がなんだか少し小さく見えた。綾斗がどんどん遠くに行く。沖に向かってどんどん進む。


 そんなところまで行く必要なんかないのに。


 このままじゃ、見えなくなってしまう。


 嫌な予感がした。


 立ちあがって海へと駆ける雪帆。海から上がってきた隆太が急いで雪帆を止める。


「待って待って、雪ちゃんそのまま入っちゃ駄目だって」


「でも!」


「なに、どうかしたの?」


「綾斗が沖に」


「今日泳ぐなって言ったんだけどな」


「怪我だって治ってないと思うし」


 海を見る。


 その先、綾斗がいるはずのところに姿はない。


「ねえ綾斗が」


「とりあえず雪ちゃんは人呼んできて、俺が先に海に行くから」


 ね? と落ち着かせるように隆太は言った。


 その優しさに甘えて、隆太に任せたことを雪帆は後悔する。

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