11 橙と傷②

 家に着くと携帯の電源を落として布団にもぐりこんだ。


 なんだか西山くんと別れた日みたいだと雪帆は思う。こんな時にまで西山くんを思い出している。


 じわっとにじんだ涙を隠すように雪帆は目をつぶった。

 

 学校に行きたくない。


 熱でもないかな、と試しに体温を測ってみたけど、いつも通り平熱。体調が悪いわけでもないのにこれ以上休むなんてことはできなくて、せめてばったり会わないように時間をずらして家を出た。


 人が少ない通学路は久しぶりだった。春休み明けの日みたい。

 

 なにをしていても西山くんを考えてしまうんだな。

 

 もう仕方ないことなのかもしれない。

 

 授業が終わるごとに教室を出て、綾斗が来なさそうな場所で時間をつぶして、休み時間が終わるころに教室に戻るという変わった行動を繰り返した。


「なんか、あったの?」


 雪帆の不思議な行動を見てそう声をかけるのは自然なことだ。


「喧嘩中」


「元カノのことで?」


「美波は知ってたんだ」


「まあ、隆太とは付き合い長いし」


「そっか」


 気を緩めた途端に涙が浮かぶ。泣いたってどうにもなんないんだけどな。


 二人に見られないように顔を俯かせると、夏目さんが雪帆を優しく抱きしめた。


 柔らかい体と伝わる体温が雪帆の涙腺を緩める。


 子供みたいに泣く雪帆を二人は優しく見守って涙をぬぐってくれた。


 強がっていたけど、雪帆はやっぱり悲しかったんだ。やっと西山くんから綾斗に気持ちが向いてきたのに、その綾斗が他の人を想っているなんて知りたくもなかった。


 雪帆の気持ちはいったいどこにいけばいいんだろう。

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