第35話 ガンバ大会

 俺と山本君は、この数日間でかなりの成果を伸ばす事ができた。俺らは、芽依香主催の特別合宿があったからだと感謝している。


 そして、大会当日になると山本君は楽しそうに卓球を謳歌している事に気づいた。俺と山本君は、ゲームの話だけではなく試合の作戦会議など奏ちゃんと三人で話していた。


「試合用紙が届いたぞー」


 岡本先生に呼ばれたので、全員が先生の元へと駆け足で集まった。男子卓球部の予選リーグは、全部で四つ存在しており一つのリーグにグループが八つも配置されていた。そして、一つのグループに三校から四校が選ばれていた。


 一軍は、第二リーグのFグループに所属していた。相手は、城南区にある戸佐とさ中学校の一軍と、東区にある老賀ろうが中学校の二軍であった。


 俺ら二軍は、第四リーグのHグループに所属していた。相手は、同じ早良区である鷲取中学校の二軍と南区にある蒼泉中学校の三軍と、博多区にある猛司もうじ中学校の四軍が俺らと同じグループに所属していた。生前と、全く同じ組み合わせではあるが相手がどんな奴だったかまでは覚えていない。


 一軍しかいない女子卓球部は、第一リーグのCグループに所属していた。相手は、西区にある滝澤たきざわ中学校の二軍と博多区にある白丸しろまる中学校の二軍だった。


 先に女子と一軍が呼ばれており、試合の準備を始める事になったが俺ら二軍は呼ばれるまで待つ事になった。


 一試合目は、戸佐中学校VS福西中学校との一戦である。成宮先輩が一番で、二番に木下先輩が出場していた。女子は、滝澤中学校との一戦を交わしており、安永さんが一番で二番に野田さんが出場していた。


「貴方達の試合は午後から出そうよ。だから、それまでに作戦会議でもしておいたら?」


「そうだな。午前中は暇だし、先輩達の応援をしながら山本君と話すとしよう」


 この大会は、朝の九時半から試合が開始された。九時に開会式が始まり、それから男子の第一リーグと第二リーグ、女子の第一リーグが本部から呼ばれた。女子の部は、第一リーグしかないので午前中が終われば決勝トーナメントも終わるだろうと予測した。


 俺らは、先輩達の戦いを観ながら作戦会議をしていた。成宮先輩が相手しているのは、ゴリゴリのカットマンであり戦いにくそうにしている。


 相手は、成宮先輩のドライブやスマッシュをカットして上手くコートに入れている。しかも、成宮先輩も慎重に攻撃を繰り出しているのでラリーがかなり続いている。


「こうなっても、山本君はブロックに専念した方が良いな」


「わ、分かった」


 俺らは、相手にカットマンが居た場合の話をしていた。山本君は、粒高と言って相手が出した回転力を無効化にするラバーを張っているので俺が攻撃しやすい様に繋いでいくと言う作戦を立てた。


 一方で、木下先輩の相手は攻撃型の選手であった。しかも、相手の攻撃はどれもレベルが高くて圧倒されている。木下先輩は、攻撃を交えつつ相手の攻撃をブロックで返してミスを誘っていた。


 しかし、ミスをする事なく攻撃が決まり続けているので木下先輩のメンタルはかなり擦り減っていると思われる。


 そして、そうこうしている内に試合の結果が決まった。成宮先輩は、セット数が三対二で勝利しており木下先輩は三対一で敗北した。


 お互いが一点を取った所で、次のメンバーが立ち上がった。ダブルスメンバーに坂本先輩であった。坂本先輩は、昨日から調子が良いと言っていたので点を取り続けていた。


 しかし、ダブルスメンバーがよろしくなかった。舞谷先輩のカットを、悉く打ち砕かれてしまい、その次の堤先輩が打ち返せずに点を取られていく。それだけでなく、二人とも自滅しているのでなかなか攻略ができないでいた。


 坂本先輩は、相手にセット数を取られる事なく三対零で勝利を収めた。しかし、ダブルスメンバーは作戦を変更しても負けてしまった。舞谷先輩は、基本的にカットに専念している戦術なのだが三セット目には攻撃を加えていた。だけど、負けてしまい五番の富永先輩が出場する事になった。


 富永先輩の攻撃スタイルは、積極的に攻撃してラリーをなるべくしない様にしている。ラリーが続くと、イライラするとの事なのでミスを恐れる事なく積極的にスマッシュを決めていくスタイルである。しかも、相手は同じ攻撃型なので早く決着はつきそうだ。


 それにしても、俺は生前と違って富永先輩に試合で勝てたなと思った。たまに負けるぐらいで、実力が足りないからと言って差別される事はない。


 そう考えていると、富永先輩の雄叫びがここまで聞こえた。三対一で勝利を収めた富永先輩のお陰で、一軍は戸佐中に勝つ事ができた。


 次の試合は、戸佐中学校VS老賀中学校との一戦なので少し休憩を挟む事になった。この戦いは、一軍と二軍の一戦なので力の差は激然だと感じた。


 観ていると、戸佐中の一軍も引けを取らないと言う事が分かる。ただ、一番で出場した奴を中心としたワンマンチームなので先輩達に負けても無理はない。そうこうしている内に、戸佐中が三対零で勝利を収めた。試合が終わった所で、先輩達は老賀中との一戦を始めた。


「結構な激戦だね」


「あぁ、先輩達は頑張ってるよ」


「えーと、ごめんね。僕は女子の方を言ってるの」


「あ、そうなのか」


 奏ちゃんに言われた事で、女子卓球部に目を向けた。お互い譲る事なく、滝澤中学校との一戦は最終戦まで持ち込んでいた。


 安永さんと野田さんの勝利で、リーチしていたのだがダブルスと四番で出場した寄能さんが負けてしまい、五番のわたりさんが出場していた。


 渡さんは、木下先輩や山本君と同じ班の選手である。この人も、生前では貢献したレギュラーメンバーの一人である。


 しかし、俺は今の試合とは全く関係のない疑問を思い出してしまった。それは、野田さんと安永さんが大喧嘩をせずにここまで来ていると言う事だ。


 過去に移動して一回目の時に、彼氏の悪い噂を聞いて忠告した安永さんに対して野田さんは苛立ちを覚えてしまい喧嘩となった。だが、その彼氏の性格を俺は知っている。


 予測だが、落ち込んでいる野田さんを狙って不純な事を企んでいたと思う。しかし、今の野田さんはとても明るいので彼氏が付け入る隙は全く見えてこない。だから、安永さんも彼氏に関して心配する事は無くなったのかもしれない。


「まさ君、どうしたの?」


「ん? あ、すまん。少し考え事をしてた」


 奏ちゃんに声をかけられた事で、女子の試合が終了していた事に気づいた。渡さんの踏ん張りにより、なんとか滝澤中学校に勝利する事ができた。なので、女子達は少し休憩する事ができていた。


「面白くなってきたな」


「そうだね。僕らも頑張ろうね」


 先輩達の試合を観ていて、凄く面白くなってきた。老賀中も二軍とはいえ、先輩達に張りあえる程の強さだと感じた。一番の成宮先輩に惜しい点差で敗北したり、二番の富永先輩と接戦を繰り広げたりとこの試合に魅力を感じた。


 ダブルス戦では、相手の掛け声の迫力に先輩二人は押されている感じがした。特に、堤先輩のミスがとても多くて気になる。しかも、舞谷先輩のフォローも無いので精神的にも負けている。


 だが、四番で出場している坂本先輩が元気良く点を取っていく。隣の台にいる相手のダブルスメンバーに、負けない程の勝利の雄叫びを上げていた。


「本気になった部長、初めて見たな」


「普段、まさ君が練習試合でも一生懸命に声を上げているからだよ」


「俺を、参考にしてくれてるのかは分からないな。でも、今の部長はカッコいいと思う」


 普段の部長は、こんなに本気に勝利の雄叫びを上げる程の人では無い。しかし、気持ちが舞い上がっているのか人一倍に目立っていた。


 ダブルス戦では、負けた様子だったが坂本先輩のお陰でこの試合は三対一で勝利した。その事により、先輩が所属しているグループ戦は終了する事になった。


「もう十一時だね」


「あぁ、もうすぐ俺らの試合が始まるな」


「久しぶりだな」


 俺と奏ちゃんは、本部の人から呼ばれる事を予想して準備していた。すると、背後から聞いた事のある声がした。振り向くと、鷲取中に所属している一法師が立ち尽くしていた。


「え!? なんで一法師君がここに?」


「いやぁ、今日は清瀬君との勝負だったから楽しみでな。つい、声をかけちまった」


「そうだな。それより、他のメンバーは?」


「他の奴らもいるぞ。声をかけてこようか?」


「いや、大丈夫だ。試合の時間になったら、また会おうな」


「おう! 楽しみにしてるぞ!」


 一法師は、そう言って俺らと別れた。と言っても、もうすぐすれば試合で一緒になるので別れた気にはなってない。


「まさ君、あの人が旅館で助けたって言う人でしょ?」


「あぁ、すっかり明るい顔になってるな」


 一法師は、田浦の本性を暴く為に旅館に誘い込んでいたが田浦に逆襲を受けてしまった。それを聞いた俺は、意を決して田浦から救った。俺が助けた事は、本人に伝え無い様にしているので本人から感謝される事はなくて当たり前だと思ってる。


「本当にしなくて良かったの?」


「あぁ、いちいち仲間として受け入れるのはどうかなと思ってな」


「僕に言ってくれれば、一法師君が来る様に仕向けるのに」


「確かに、それに関しては恐ろしいぐらい信用してるけど、わざわざ相手の人生を狂わしてまでしなくて良いと思ったんだ」


 俺は、奏ちゃんが俺の為に言ってくれているのは分かっている。しかし、一法師を救えたのだから無理に来させなくて良いと感じたし、俺が助けたと言うのも無理に言わない方が面倒な事にならないと思った。


「まさ君は、寛大な人だね」


「そんな事ねぇよ。ただ、何回もやり直してるんだ。いい加減に、奏ちゃんと二人だけの世界に行きたいもんだよ」


 その言葉に、奏ちゃんは嬉しそうに俺の片腕を抱いてくれた。俺も、少し照れながら奏ちゃんの可愛らしい姿に見惚れた。


 すると、案内放送で第四リーグのHグループに所属しているチームが一斉に呼ばれたので、俺らは荷物を持って下に降りる事にした。


「さぁ、行くわよ」


「あれ、芽依香も来るのか?」


「そりゃそうでしょ。岡本先生は、グループ代表トーナメント戦に出場した先輩達に付きっきりなんだから」


 俺ら二軍の監督は、二十歳とは思えない貫禄を感じさせる芽依香こと政倉コーチが一緒にきてくれる事になった。


「よし! やるとするか!」

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