第10話 ありえない死
俺は、学校が終わって田尻先生に呼び出された。しかも、男子卓球部員のみが呼ばれ、女子部員は休みで日高の葬式には行かせずに自宅へ帰らせたと言う事だった。
しかし、男子卓球部員だけで日高の線香を上げると言う事だった。もちろん、岡本先生と田尻先生も参加している。
先輩達も嘘だろうと思っていたのだが、嘘では無い事を先生が涙を流しながら言っていた。田尻先生の涙によって、普段はおちゃらけている先輩達も黙って葬式に参加する事にした。
「ありえないよ。これは夢なんだ」
俺は、奏ちゃんに夢であると確認をしたが奏ちゃんは悲しそうに首を横に振った。奏ちゃんは、あんな事があった翌日だからこそ相当苦しい気持ちなんだろうと思った。
葬式に着くと、日高の家族が皆んなを出迎えてくれた。俺は、絶対にありえないと思いながら日高の遺体を眺める事になった。しかも、あの先輩達も日高に対して文句や冗談も言ってなかった。
「嘘だ! あいつは死んでなんかいない!」
「もういいから」
「ドッキリだって言えよ! クソヤロー!」
「まさ君、もう辞めて」
俺は、皆んなの前で死んでない事を証明してやろうと思った。だが、日高の母親や泣きながら俺の肩に手を置いてくれた。
「清瀬君だっけ? 本当にありがとう。でもね、今日だけはそっとしてあげて」
日高の母親が、涙を拭いながら俺の肩に置いた手はかなり震えていた。俺は、周りを見ると皆んなは静かに看取ってやろうと言う姿勢であった。
取り乱してしまった事に気づいた俺は、黙って日高の線香を上げる事にした。皆んなが線香をあげて、日高の家族にご挨拶が終わると式場に出て岡本先生が皆んなに話をした。
「あいつは、若くして死んでしまった。だからこそ、卓球で良い結果を残すんだ」
皆んなは、それでも、元気が無かった。多分、日高が死ぬとは思っていなかっただろう。この死で皆んなが変わるとは思っていないし、余計に皆んなの士気が下がって良い結果が出せないと思う。
次の日、部活の時間になったが、いつも通りの元気は無かった。先輩達も、誰一人として笑っている人はいなかった。
女子部員の人達は、心配そうに元気づけようと必死だったがそれどころでは無かった。生きているのと死んでいるのでは全く違う。俺は、この状況に耐えきれずにトイレに入った。
「今までで一番きついかも」
俺が、タイムスリップした事でたくさんの事が変わった。まずは、奏ちゃんが転校してきた事だ。その事により、クラスも奏ちゃんが居て当たり前になっている。
次は、「アクマンスレイヤー」という作品だ。生前の時は、「初音色ミルク」と言う作品が世界を轟かせていた。なのに、今は違う作品が有名になっている。
アクマンスレイヤーとは、悪魔に惨殺される予定の主人公がイケメンだからと言って寿命が延びるという内容だ。しかも、音楽を使って魔界を制するので、美しい女性悪魔とイケメン主人公は毎回のように歌っていた。その曲がオタク達を騒がせており、先輩達もその作品の方に意識が持っていかれた。
最後は、日高が死んだ事だ。これだけは、ありえないと思っている。俺が、タイムスリップする前は中華料理屋と言う店を博多区の方で構えていた。そんな未来があるのに、何で死ぬんだ。
「俺がタイムリープしたからか?」
俺は、そう考えていると胸が苦しくなってきた。普段は、死ねば良いのにと思っていた奴なのに本当に死ぬと俺が悪者みたいになる感覚と同時に生きているからこそ思ってしまうんだと感じた。しかも、俺は生前の出来事と一致してないので、余計にストレスが溜まる。
「もう駄目だ」
俺は、頭がクラクラしてきた。今は、班に分かれて多球練習をしていたが、具合が悪くなってきて視界が見えなくなった。俺は、皆んなの慌て声を認識しながら立てずに倒れる感覚に襲われた。
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