第11話 決断
目が覚めると、学校の保健室にいた。近くには、奏ちゃんが居て心配そうな顔でこちらの方を眺めていた。
「まさ君、大丈夫?」
「あぁ、こんな時にごめん」
「いや、無理もないよ。こんな事があったからこそ、皆んなも理解してくれていると思う」
俺は、皆んなが倒れたいと思う程の苦しい時期に俺だけが倒れてしまうとは情けないと思った。しかし、奏ちゃんは俺の手を握って相談してほしいと言ってくれた。
「俺は、あいつなんか嫌いなんだ。だけど、本当に死ぬとは思ってなかった」
「確かに、それは皆んなも思ってなかった事だよ」
「だから、あいつが嫌いだ。何であんな事になったのか。折角、良い感じになってきたのに日高のせいで殆どが台無しじゃないか!」
「まさ君……」
「だから、こういう風にやり返したんだ。俺が羨ましくて、こんな死に方をして台無しにしようとしてるんだ!」
「違うよ、まさ君」
「だから、俺はそれに見返すべく良い結果を出して日高にギャフンと言わせるんだ。そして、日高は死んだ事を後悔するんだ!」
「まさ君、いい加減にして」
「良い結果を出さないと、日高の母親に示しがつかないだろ。良い結果を出して、あいつを後悔させるんだ!」
「まさ君!」
「ごめん……」
確かに、あいつも死にたくて死んだとは思ってない。何より、奏ちゃんが一番辛い思いしてるのに俺はどうかしていた。
「奏ちゃんが一番辛いよね」
「うん。まだ、日高君に謝りきれてないよ」
「奏ちゃんが一番辛いのに、アホみたいに取り乱してしまった」
「そんな事はないよ。まさ君も皆んなも、突然の事で頭が追いついてないんだよ」
俺は、日高が違う道で輝いている事を知っている。事故がなかったら、日高は自分の店を構えて俺に嬉しそうに連絡を寄越していた。
あいつとの喧嘩は、意味があったんだと今になって思い出してくる。凄くムカつくし、俺に突っかかってきては周りの人には良い顔をする馬鹿野郎だった。だが、喧嘩してはすぐに仲直りしたり冗談を言えたりしていた。
「奏ちゃんに相談したい事がある」
「なに?」
なので、俺は言う事に決めた。俺がタイムリープしたから、こう言う事になったんだ。だから、奏ちゃんの事も日高の事も本当は違うんだって言う事にした。
「本当は、未来からタイムリープしたんだ」
「何を言ってるの? 頭がおかしくなってると思うから、ゆっくり寝といた方がいいよ」
「本当の事なんだ!」
俺は、大声で叫んで奏ちゃんが帰ろうとしてるのを引き止めた。
「俺は二十六歳の時に死んで、悔やんだ事があるから精神的にタイムリープしたんだ」
「本当に何を言ってるのか分からないよ。だって、日高君が亡くなった事が受け止めきれずにおかしな事を言ってるとしか思えないよ」
「だったら、本当におかしな事を言ってるのか証明するか?」
「ど、どうやって?」
証明の仕方は簡単だ。俺は、タイムスリップのアニメで未来を言い当てて未来人である事を証明すると言う良くありがち場面を採用させてもらった。
「未来を言い当てるんだ。しかも、近くに起こる事を言って本当に起これば俺がタイムリープした事が証明される」
「良くありがちの証明方法だけど、それでも信じきれないよ」
「大丈夫だ。必ず、信じさせてやる。でないと、話が進まないんだ」
「どう言う事なの?」
「今、起きている事は俺が経験した事と全く違うんだ」
「待ってよ。だとしたら、まさ君が思ってる未来も起きない可能性があるよね」
「いや、あくまでも俺の周りに起きている事だけだ。つまり、誰も変える事のできない事を言えば良いんだよ」
「そう言う事か。政治とか自然現象とかだと誰も変える事はできないよね」
「まさにそれだ。俺は、今からその事を言うんだ」
俺は、ハッキリと覚えている事がある。それは、ニュースに出ている事だ。俺の母親は、夜になると毎回の如くニュースを見ていた。しかも、夜中にかけてだ。俺は、中学生だけど一緒に見ていたので、政治や事故が起きた事はハッキリと覚えている。
「今日は十月一日だから、明日の十月二日に起こる事がある」
「それって、どんなの?」
「地震だ。北海道で大きな地震が起きる」
「何時くらいに起きるの?」
「もうすぐだ。日にちが変わって、すぐの夜中の一時半頃に起きる。場所は、北広島市と言う場所だ」
「津波とかは? 東日本大震災みたいに起きたりはしないの?」
「確か、津波とかは無かった。ただ、震度六弱だから悲惨な事にはなってる」
俺は、もう一つの出来事も伝えた。それは、今日の夕方頃に今の総理大臣の奥さんが癌で亡くなったと言う事だ。確か、この時間帯だから今頃放送されている。
「分かったよ。家に帰ってニュースを見る」
「あぁ、よろしく頼む」
この二つは、どんなに尽力しても抑えきれない事だ。総理大臣の奥さんに関しては、病気であってもこの時間帯だから誰かが阻止するのは難しい問題だ。
そして、少し時間が経過した頃に先生が来て俺の体調を聞いてくれた。もちろん、体調は優れないが皆んなもきつい思いをしているので最後まで部活をやると告げた。
そして、部活が終わって奏ちゃんとお別れをして家に帰った。お母さんは、日高が亡くなった事は知っているが驚いていただけで涙は流して無かった。
俺は、何も考えたくないので寝る事にした。毎朝、欠かさずに読書とシャワーをしてスッキリしてるのに日高が死んでからはやってもスッキリしなくなってきた。そして、気付いたら朝の七時半になっていた。夜飯も食わずに、お母さんに怒られると思ってリビングに出たが俺の飯はラップで包まれていた。
お母さんからは『こんな時だからこそ元気を出しなさい』と手紙が書かれていた。俺は、つくづく母さんに励まされていると実感している。
こんなに、出来事が変わるんだったら母さんと喧嘩して別れる出来事も変えてやる。俺は、そう決意しながら昨日の晩飯である生姜焼きを頬張りながら食っていた。それから、朝のシャワーと読書を済まして学校の準備をしていると奏ちゃんから電話が着た。
「なに?」
「何じゃないよ! ずっと電話してたんだよ」
「ごめん。帰ったらすぐ寝ちまってたよ」
「気持ちは分かるよ。でもね、それどころじゃないんだよ」
「何がだよ」
「まさ君が言っていた事が、全部言い当ててるって事だよ」
俺は、それを聞いて少し安心した。なぜなら、奏ちゃんが来た事で周りが変わっていたからだ。もちろん、起きている事は良くないが言い当てた事によって完全に奏ちゃんの理解が生まれた。
「奏ちゃんにもう一度お願いしたい事がある」
「急にどうしたの?」
「俺のお助けキャラになってくれ」
お助けキャラと言うのは、主人公の目的に協力してくれる重要なキャラだ。俺は、その立場に奏ちゃんを推薦したいと思った。
「必ず目標を達成したいんだ」
「分かった。詳しい事は学校で聞くよ」
俺は、奏ちゃんが納得してくれた事でタイムリープした事を信じてくれたと思った。だからこそ、奏ちゃんと一緒に廃部ルートを阻止する為、詳しい事は学校で話し合うと決断した。
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