第12話 悪化
俺と奏ちゃんは、昼休みに二人だけで話せる場所へと移動した。それは、理科室だ。この学校に化学部は設立されていないし、理科の先生は開けっ放しで行くので都合の良い場所になっている。なので、誰からも話を聞かれずに済むとっておきの場所であると任命している。
「過去に戻った気分はどんな感じ?」
「今は、とっても最悪だ。だが、能力者って感じがして楽しい気分にもなる」
俺は、奏ちゃんに本来の歴史を語った。奏ちゃんとは縁が切れていた事や、俺一人でトイレで思い悩んでいた事など死ぬまでの状況まで全てを語った。
「本来は、奏ちゃんは引っ越して来てないと言う事だな」
「僕は、まさ君に引っ越したら一緒に卓球ができるよって言われたから来ただけだよ」
「生前では、そんな事にはならなかった。そう言う失敗があるから、奏ちゃんと一緒に三年間を共にしたいと言ったんだ」
「そうだったんだ」
日高が、こんな所で死なずに自分の夢を追いかけていた事も、流行っている作品が俺の中学生の時ではなかったと言う事も語った。
「そう言われると、まさ君の周りはかなり変わっているね」
「そうだ。だから、この勢いで廃部ルートを回避する」
本来であれば、男子卓球部は俺の代で廃部になってしまう。だが、奏ちゃんがいる事でその未来が変わる事を願っている。
「でも、何で廃部になったの?」
「本当の理由は教えてもらってない」
「そんなの理不尽だね」
「そうなんだよ。だから、理由を明らかにして廃部を阻止する。できなくても、せめて俺らの学年だけで団体が組めれるようになればと思ってる」
奏ちゃんは、未来から来た事も理解した上で話を聞いているので、俺の作戦にはすぐに同意してくれた。
「まずは、俺の学年で人数を増やす」
「何人ぐらい?」
「今の人数は、四人だから二人いれば俺らだけで団体が組めれる」
「なら、一人増やして三人ぐらいを目標にしたらどうかな?」
「それがいいかもしれない」
卓球は、六人いれば団体戦に参加する事ができるので、奏ちゃんの話ではもう一人予備が居れば丁度良いと言う事だった。
「一人は狙いをつけてる。確か、二組の
「何で、その子なの?」
「こいつは、三年になって同じクラスになった奴だ。俺の言葉に、素直に聞いてくれていたから、仲良くなれば部活も入ってくれると思ったんだ」
「分かった。なら、二人目は決まってるの?」
「分かんない。日高が死んだから、そんなに増えないと思う」
山本君は、素直で俺の話を信じてくれる良い奴だ。遊びを誘えば、断らずに来てくれるので山本君と仲良くなれば部活に勧誘できると言う作戦だ。
だが、せっかく奏ちゃんが引っ越して来てくれたのに日高が死んで人数が一人減ったので是が非でも山本君を入部させたい。作戦を開始する時期は、十月中旬にある新人戦が終わってからにした。
昼休みが終わり、午後の授業も終了した所で部活に行く事にした。今日は、校内戦なので皆んなも緊張している日だ。日高が死んだ中、行う校内戦はどうなるのか俺でも分からない。
部活に行くと、富永先輩が苛立っており俺を見ては相談したいと言ってきた。俺は、訳が分からず先輩の言い分を聞く事にした。
「高目の奴さ、こういう時だけ来るからムカつくんだよ。練習の時でも来いよ」
「彼は精神疾患で苦しんでるので、この日だけでも行こうと努力してるんですよ」
「知らねぇよ! こっちは、日高が死んでから心に余裕がねぇんだよ。あいつは嫌いだけどよ、本当に死ぬのとでは話がちげぇんだよ」
富永先輩の言いたい事は分かる。日高が死んだ事で、皆んなの士気が下がっている事も見ていれば分かる。だからこそ、皆んなで乗り越えようとしているのに高目君がいつも通りのやり方で努力をしているのは他の人からすれば目障りだと思う。そう思いながら、卓球台を作っているとある異変に気づく。
「あれ? 女子部員が少ないけど、奏ちゃんは知ってるか?」
「分からないよ。まさ君は知ってる?」
「ごめん。分からない」
女子部員が、校内戦という実力を示す戦いの日だと言うのに四人しかいなかった。普通は、卓球を始めてもおかしくない時間なのに誰も来ないから試合が始めれない。男子部員は、俺と奏ちゃん、高目君、富永先輩、坂本先輩、舞谷先輩の六人だ。村部や久原先輩が来ていない。すると、田尻先生が鬼の形相をしながら体育館へ入ってきた。
「お前達に、話さなければいけない事がある」
田尻先生は、考えたくないと言う言葉から始まった。何でかと言うと、今来てない人達は卓球部を辞めたからだ。
女子部員は、安永さんと権藤さんと野田さんと原江さんの四人だ。それ以外の人が辞めたとなると、本来辞めない人も辞めたと言う事だ。
原江さんは、女子部員の部長になる人であり大会の実績も良くなる人である。野田さんは、三年生の初めぐらいに辞めてしまう人なので今は辞めないと思っている。野田さんも、大会実績が二年生の夏ぐらいから良くなる。
安永さんは、奏ちゃんと何度も対決しては奏ちゃんに敗北している。だが、負けても諦めずに挑んでくる攻撃タイプの人だ。
権藤さんは、俺と同じ班のグループメンバーなので辞めてもらっては困る人だ。女子部員の中で、一番仲が良くて趣味も話合える人だ。
しかし、それ以外の人は辞めてしまった。先生は、怒りを我慢しながら校内戦を中止して通常練習にする事を告げた。
だが、練習の質が上がらない様子だ。周りの人達は、元気がなくミスばかりしている。富永先輩に関しては、いつも以上に苛立っておりいつもの明るい様子が全く見えてこない。
今日の練習は、人数がいないのでタッグ練習をひたすらするという練習だった。俺は富永先輩と組んでおり、隣の台は奏ちゃんと高目君がタッグを組んで卓球をしている。
田尻先生は、急な出来事なのでそんな長くはしないらしい。しかも、みんなの気持ちを整える為に明日の部活は休みになった。
部長と副部長がいるし、何とか男子卓球部は成り立っている感じがする。ただ、殆どの人が辞めそうな雰囲気だ。
部活が終了して俺は家に帰り、不安を抱えながらいつも通りに生活を送った。俺は、自分から進んで風呂を洗ったり掃除機をかけたりと家の事を毎日している。
生前の時はしなかった事が、今ではやらないと落ち着かない状態だったので、母親も姉も俺に怒る事なく気を遣ってくれていた。
しかも、今では貰う事のなかった新品のスマホを買ってくれた。奏ちゃんの連絡をスムーズに進めたり、ゲームをして落ち着きたかったりと母親を丸め込む事ができた。
しかし、疲れが溜まってゲームをする気にはならなかったので、和室だけを掃除機かけて布団を敷いて皆んながいつでも寝れると言うスタイルを自分から巻き起こした。俺は、家族がそれに合わせてくれた事に感謝している。
それから、明後日になって学校が終わったので部活に行くと体育館の入り口で野田さんと安永さんが田尻先生に怒られていた。内容を盗み聞きすると、二人が大喧嘩していたと言う事だった。
詳しい事は知らないが、この状況だからこそ乗り越えなければならない。しかも、女子部員は明らかに新人戦の団体の部に参加する事ができない。男子卓球部は、ギリギリ出場できるが皆んな辞めそうな雰囲気が滲み出ているので安心はできない。
しかも、奏ちゃんが今日休みなので一人で不安を抱えながら準備をして卓球台を出していると岡本先生と久原先輩が出てきた。
「おはようございます。何で久原先輩がいるんですか? 一昨日いなかったので、辞めたと思ってました」
「俺が引き留めたんだよ。他にも、成宮とか村部とか引き留めたが皆んな駄目だった」
岡本先生は、何とか一人でも多く居てくれる事に感謝していたが、俺はこの悪化した状況に不安を抱いていた。
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