第28話 知らなくていい一面
「まさ君、おはよう」
俺は、目が覚めると旅館の部屋に戻っていた事に気づいた。俺は、窓から見える景色に夕日があったので時間帯は次の日の夕方ぐらいだと感じた。
「あれ……。田浦君達は?」
俺は、頭痛を感じながらも上半身を起こす事にした。布団に寝かせられており、近くに奏ちゃんが座り込んで俺が起きるまで待っていた様だった。
「しっかりと、真実を突き止めたよ」
「田浦君の事か……。それで、どうだった?」
俺は、奏ちゃんの計画を止める事ができなかった。脱力感が凄すぎて、奏ちゃんに怒る事を諦めてその真実とやらを聞く事にした。
「一法師君が言ってた通りだったよ」
「田浦君が黒幕だって言いたいのか?」
俺が気絶している間に、奏ちゃんは田浦君を拷問して一法師君の言っている事が正しいかどうかを問いただしていた。
田浦君は、一法師君や俺らみたいな仲の良いカップルを見ていると妬んでしまうとの事だった。嫉妬心が深すぎてしまった所で、そのカップルを貶めようと計画をしていた事が俺ら以外にも何回かあった。
三郎丸中のメンバーは、田浦君に喧嘩で負けた奴だった。それから、田浦君の言いなりになっていたそうだ。
「しっかりと調教もしといたから、二度と僕らに逆らう事はしないと思うよ」
「だと良いけどな。それにしても、やり方が残酷すぎるんだよ」
「だって、そのやり方しか知らないんだもん」
奏ちゃんは、頬を膨らませながらそっぽを向いていた。多分、俺の為にやったのに感謝されていない事に不満を持ったんだろう。
「だけど、俺の為に動いてくれたのは感謝してる。そんな、奏ちゃんを受け入れたいと言ったのは俺だしな。なんか、言い方が酷くなってごめん」
俺は、感謝をしなくてはいけない事に気付いたのでお礼を言わせて貰ったが、奏ちゃんは不貞腐れた態度のままだった。
「なら、最後に僕のお願い聞いてくれる?」
「あぁ、どんな願いなんだ?」
「僕の初めてを貰ってほしいの」
「え、いきなり!?」
奏ちゃんは、顔を真っ赤にしてお願いをしてきた。確かに、折角の感謝のデートなのに邪魔が入ったので、頼みを聞いてくれたお返しとしてお願いを聞くのは当たり前だと思う。しかし、いきなりぶっ飛んだ事を言われて心の準備がしづらい。
奏ちゃんは、俺に身体を預けるかのように身を寄せた。俺は、奏ちゃんと経験した事があるので流れに任せてもう一度営む事にした。
そして、営みが終わった後は帰る事にした。次の日は、学校なので奏ちゃんの母親に迎えに来てもらった。それから、学校の日になると奏ちゃんと二人で楽しく通学路を渡った。
俺らが、恋人として付き合っている事を知っている人はこの学校では誰もいないので、奏ちゃんの言っていた『秘密の関係』という言葉の意味がしっかりと理解できた。
部活の時間になって、俺と奏ちゃんは二人で体育館に向かっていたが入り口の前で複数の女子が混んでいた。
「どうかしたのか?」
「いや、新しい人が来てるんだよ」
「数日ぶりです。清瀬様と尾崎様」
そこには、聞いた事のある声をしたイケメンな男性が佇んでいた。しかも、その人は俺らの事を知っておりとても執事みたいな対応をしていた。
「この人は誰だ?」
「まさ君、この人は田浦君だよ」
「マジで!?」
俺は、生まれ変わった様な田浦君の姿を見て何とも言えない気持ちになった。数日前は、関西弁が目立った個性的な田浦君だったのに今は奏ちゃんに調教された影響でとても爽やかになっている。俺は、気になって奏ちゃんを男子更衣室まで連れてって確認を取った。
「これって、奏ちゃんが調教っていう奴をしたから、ああなってんのか?」
「人聞き悪いよ、まさ君。田浦君は元から才能があるからこうなってるんだよ」
「それこそ、人聞きが悪いんだよ。そもそも、才能だったとしてもここに来させなくて良いのによ」
「そこまでは、僕も頼んでないよ」
俺は、意味が分からなかった。奏ちゃんは、田浦君を調教して二度と人間関係を壊す様な事をさせない様にしたが俺らの学校に引っ越させる様な事は頼んでなかった。なので、俺はそれ以上してないと聞いた時には鳥肌が立った。
「って事は、あいつが自らこちらに来たって事か?」
「そういう事になるね」
「お二人は、何を話されているんですか?」
噂をしていると、例の本人が男子更衣室に現れた。田浦君は、血塗れになった包丁を片手に姿を見せてきた。
「お前、まさかとは思うが先程の女子達に何をした?」
「え? なんの話ですか?」
俺らが、体育館に入る前に群がっていた女子達の笑い声が聞こえなくなっていた。入り口に群がっていた女子達は、いつも明るくて笑顔の良い人達だ。
「そんな話し方で誤魔化さなくて良いんだよ。田浦め」
「うるさいなぁ。俺は、お前らに復讐しに来たんや」
田浦は、右手に持っている血に染まった包丁を俺に向けてきた。それを見た奏ちゃんは、俺を庇う様に前に出た。
田浦としては、カップルを見るとイライラが治らない。俺や奏ちゃんを見ていると、嫌でも嫉妬心が強くなるそうだ。
田浦は、自分のストレスを解消するために目をつけたカップルを調べ上げてから、嫌がらせを始める。
生前では、田浦にこんな顔を持っていたなんて知らなかった。明らかに、俺と奏ちゃんが旅館に行った事がキッカケなのだと感じた。
「どうやら、僕のやり方が間違ってたよ」
「そんな事あらへんで。しっかりと、調教を楽しませて頂きましたよ。けどな、拷問や調教を小さい時から訓練すれば、痛くも痒くもないんや」
「そういう事か。テメェは、殺し屋として訓練されてきたって事か」
「まぁ、そういう事で良いわ。取り敢えず、あんたらを殺して俺は姿を眩ますとするで」
その刹那、田浦は俺に包丁を突き刺そうとこちらに向かってきた。しかし、奏ちゃんは自分の卓球ラケットで防いだ。
「もう良いんだよ。奏ちゃん」
俺は覚悟を決めて、奏ちゃんの肩を掴みながら田浦の方へと近づいた。田浦は、満面の笑みで包丁を俺に突き刺そうとしたので、俺はそのまま刺される事にした。
「うぐっ!!」
「ま、まさ君!?」
俺が死ぬ事で、もう一度戻りたい時間帯へと戻る事ができる。本当ならば、奏ちゃんと二人で旅行を楽しんでいた筈なのに、田浦に目をつけられた事で大変な事になってしまった。だからこそ、俺が死ぬしか無かった。
「がははっ! 自分から刺されにきたとかアホやな!」
奏ちゃんは、田浦と俺を引き離すのと同時に田浦の首元に蹴りを食らわせた。田浦は吹っ飛んでしまい、その一撃に耐えきれず失神してしまった。
「まさ君! まさ君、聞こえる?」
「あぁ、どうやら……。心臓に一突きのようだな……」
「なんで!? なんでそんなことしたの!?」
「俺が死ねば……。もう一度やり直せると思ったんだ……」
「でも、この世界の僕は関係ないよ。だって、僕のせいでこんな事になったんだよ。もう、まさ君と会えなくなるんだよ」
奏ちゃんは、泣きながら俺を軽く抱き上げた。奏ちゃんの涙が、俺の顔に降りかかって来るのを見て俺の方が残酷なやり方をしていた事に気づいた。
「すまない……。そこまで頭が回らなかった」
「まさ君が、居ないなんて有り得ないよ」
意識が朦朧としてきた俺だが、意外と痛みを感じる事なく奏ちゃんの左手を握る事にした。体育館の入り口から、人の叫び声を聞き取った俺は奏ちゃんに最後の言葉を投げかける事にした。
「やだよ。死んでほしく無いよ」
「奏ちゃん……。俺の家族を……。頼んで良いか?」
「まさ君、死なないでよ」
俺は、奏ちゃんに泣きながら訴えられた。しかし、俺は視界が真っ暗になりながら身動きできなくなった。
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