第5話 大会に向けて

 新チームになり、初めての大会がこの個人戦トーナメントである。この大会の一回戦の相手は、堂西どうせい中学校の河野かわのだという事をはっきりと覚えている。


 元々、物語を書いて家族に見せるのが好きだった俺は、戦った相手やトーナメント用紙に書いてある人達で、妄想しながら自分の小説を書いていた。なので、俺と戦ってくれた相手の顔と名前は把握している。


 特に、妹の芽衣香がその影響を受けたのだ。俺が書いた小説を読んで、『芽衣の方が書くの上手いし!』『芽衣も書きたい!』などと言って芽衣香も書くようになった。俺は、趣味で終わったが芽衣香は小説家になる為に奮闘していくようになった。この大会だけでなく、新人戦の相手も来年の中総体の相手も覚えている。


 話はずれたが、それに向けての練習をしている。今日は八月三日であり、今はグループに分かれて王様ゲームをしていた。


 卓球部の王様ゲームとは、王様を一人だけ決めて残りの人は挑戦者として勝負をする。挑戦者は、王様に二回連続で点を取らないといけない。挑戦者に最初の一点を取られたら、次は王様からのサーブで二点目を取られないように阻止する。王様の場合は、一点でも取れば他の挑戦者と対決できるが、負ければ挑戦者に王の座を剝奪される。だが、勝ち続ければ王様は時間になるまで永遠に卓球台に入り続けれるという実力主義のゲームである。


今のCグループの王様は、富永先輩である。富永先輩の戦型は、積極的に攻撃を仕掛けるドライブ主戦型だ。と言っても、俺ら攻撃型のグループは全員が攻撃型なので、特に変わった対処の仕方はない。いつドライブという攻撃を仕掛けるのか、とどめを刺すスマッシュはいつ来るのかなどの心理戦も瞬時に決めなければいけないのが卓球である。


 ただ、他の皆んなはなんとなくきた返球をなんとなく返しており、なかなか本気が伝わってこない。と言うか、真剣に考えているのは俺だけのように見える。久原先輩と日高は、同じサーブばかり出してはすぐに対処されている。なのに、また順番が回ってきても同じサーブを出してはすぐ打たれる。その光景を見て、鼻笑いが出てしまう光景だったが、一番笑っているのは富永先輩である。


「久原雑魚すぎだろ!」


 少し言いすぎだと思うが、改善の余地はあると思う。本人が、どう思っているかは分からない。だが、俺も実質久しぶりなので何も言えない身である。だけど、ある程度はできているので心配はない。


 しかし、一回戦の相手である河野に勝つにはこの程度では満足はできない。富永先輩に、試合で勝つ必要があるぐらいの意識は必要だと思う。


 結果的に富永先輩と交代することができ、権藤さんや樺山さんにも勝ち続けている。富永先輩とは、八回戦う事になったが八回とも俺が勝った。王様ゲームである為、他の挑戦者の相手もしなければならないので、途中で時間になり次の練習メニューに移った。


 次の練習メニューは、多球たきゅう練習に移った。多球練習とは、できるだけ多くの球を打って練習する事を言う。例えば、順番にドライブの練習を箱に入った球がなくなるまでドライブ練習する。それを、一人ずつがやって全員が終わると練習を時間内に終わらせていく。


 その後は、好きな人と組んでラリーをする。最後に、ワンセットマッチをルーレット形式で数回程すると一日の練習はこれで終了となる。これを、ほぼ毎日やっている。


 最初の相手は、権藤さんと組んで戦う事になった。権藤さんは、下回転のサーブとスマッシュを上手くなるように意識しているので、基本はこの二つに気を付ければ良い。


 意識していたお陰で勝ったが、その次の相手は富永先輩だった。よりによって、富永先輩なので緊張感が増してくる。だが、相手は遊び感覚だ。だが、強さを見せるために勝たないといけないというプレッシャーが押しかかってきている。


「清瀬君やん。俺、勝てるかいな?」


 俺からすれば、わざとらしく言っているように思えてくる。『いや、あなたから卓球が弱いからってハブられるんですよ』って、言いたくなる。実際、それがきっかけで台に入れてもらえなくなるのだから、未来を知っている俺からすればツッコミたくなる。


「お願いします……」


 各々、試合を開始していく。富永先輩は、ゴリ押しで点を取っていく感じがしていた。ここ数日間、同じグループとして近くで見ていたが、経験の数と球の速さは富永先輩が強いと思う。バックスマッシュや回り込みドライブになかなか反応ができない。


 十一点先取であるワンセットマッチで、今は七対三で富永先輩が勝っている。俺のサーブは、横下回転サーブと言って時計で言うと四時と五時の間をかける事で、斜めに向かってボールが曲がる。そのサーブは、生前の頃に得意としていたので数日間の練習であっという間に習得できたので活用している。


 そのサーブで、富永先輩がてこずっているお陰で点差が縮まっているが、それでも先輩の意地で押し負けている。結局、十一対九で負けてしまった。富永先輩は、『あぶねぇ』の一言を残して汗を大量に流しながら結果を先生に報告しに行った。


 その後は、また権藤さんと対決をしたが勝つ事ができた。そのワンセットマッチで終了する事になり、今日の練習は終わりとなった。そして、明日は奏ちゃんと久しぶりに出会う大切な日だ。


 生前は、あんな終わり方になったが、俺は奏ちゃんとずっと卓球がしたい。近頃、ずっと考えた結果がこれだ。俺は、少し後悔の念が入っており一緒にいたのに奏ちゃんの事を何も理解してないと思ったからだ。だから、自分勝手ではあるが奏ちゃんと連絡先を交換して、いつでも交流を深めたいと思った。


 そう強く決意しながら、掃除の準備をしていると何もない所で転んでしまい、近くにいる女子達に笑われてしまった。めっちゃ恥ずかしいと思いながら、掃除を済ませて大会前日の練習は幕が降りるのであった。

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