第6話 久しぶりの出会い

「ラッキー!!」


 今は、堂西中学校の河野と試合である。形式は、十一点先取の五セットマッチの戦いである。今は、二セット対一セットの四対一で河野が有利な場面である。俺は、河野に二セットも先取されたが三セット目で十三対十一で一セットを取る事ができた。お互いが、十点を取ると『ジュース(デュース)』という形で先に二回連続で点を取らなければならない。


 俺は、相手がサーブミスをしてくれたので何とか一点が手に入ったと言う危険な状態だ。それでも、難しい戦いである。相手のスマッシュがとにかく速くて反応がしづらい。


 河野は、俺の隙をついて攻撃してくるので焦りをより増やしている。その次もまた次も、俺はスマッシュしてもカウンターを仕掛けられたりとなかなか手が出せないでいる。


 しかも、ツッツキと言って下回転で来た球を下回転で返球して様子を見たりする事ができる技なのだが、その繋ぎであるツッツキが相手のコートに全く入らない。俺は、焦ってしまって相手の調子に呑み込まれるばかりだ。


 俺が所属している中学校は、福西ふくにし中学校と言って福岡県福岡市にある中学校だ。福岡市には七つの学区があり、博多区・城南区・早良区・西区・東区・南区・中央区が存在している。その福西中学校は、早良区にあり堂西中学校は城南区にある。


 堂西中学校の強さは、どれぐらいなのかは分からないがとにかく手も足も出ないまま河野のスマッシュで終わった。なんか、あっけなく終わった感じがしたし、一番は相手が気持ち良く終わったので腹立たしく思う。


 これで、今大会の俺の試合は終わった。負けた人は、次の試合の審判をしなければならないのでやる気が出てこない。俺が担当した試合は、博多区にある西河原にしがわら中学校の木本きもとと中央区にある仁幹じんかん中学校の濱野はまのとの試合だった。


 両方の中学校の場所はわかるが、卓球部の強さと二人の強さは全く知らない。負けると、そう言う事に付き合わなければならないので、早く終わってほしいと思っている奴の方が多いだろう。


 しかし、今回の試合はあっけなく終わった。三対零で仁幹中学校の濱野が圧勝した。濱野が、圧倒的に押していて相手の木本に一点も点を取らせなかった。しかも、全セットが十一対零で終了したので見ていて清々しかった。だが、相手の木本が可哀想に見えてしまい、この世界も弱肉強食なんだと感じた。


 俺は、この試合が終わってすぐに皆んなの方へと移動した。俺達は、同じ中学校で固まって席に座っているので、自分の席に着くと他のメンバーが楽しそうに会話をしていた。


 俺が中学生の頃は、大人気ゲーム【オセロ&タイガー】と言うゲームが大流行していた。俺が社会人になっても、サービスを続けているぐらいのゲームだ。俺の周りでは、そのゲームの話で埋め尽くされている。


 その頃の俺は、スマホではなくガラケーだったので、そのゲームの事は知らなかった。しかし、少しではあるがそのゲームの本質を知っている。最初の頃に、強かったキャラも何となくではあるが知っている。


 俺は、その話に入ろうと意を決して聞いていたが、一番強い敵キャラの属性の話や耐性についての話になり、やり込んでいる人しか知らないような内容へと移ってしまった。話についてこれなくなった俺は、観念してトイレに行く事にした。個人戦と言っても、俺のチーム全員が終わらないと帰る事が出来ない。


「話についてこれないって辛いな」


 俺が、スマホを使えるようになったのは中学三年生の時だったが、姉のおさがりで家の中だけしか使えない古いスマホだった。それに比べて、周りの人は新しく買ってもらったり外で使えたりしているので羨ましいと思った。


 それでも、母親は子供に立派な物を持たせては危ないと言う思考の人だったので、かなり劣等感を感じていた。


 しかし、一人暮らしができてから母親の縛りが無くなった時は、解放感が強くて二度と実家に帰りたくないと思ったぐらいだ。だが、今は中学生なのでこの辛さをまた耐えなければならない。


 生前の俺は、特に中学生の時が一番頭が悪かった。高校生になってからは、少しずつテストの点数も伸びるようになった。母親に、努力が認められるようになったので、新しいスマホを外で堂々と使えるようになった。


 俺は、生前の過去を思い出しながらトイレを済ませた。確かに、女性が多い環境に放り込まれた男性は虐げられると言う事をたくさん聞くし、俺も子供の頃からその辛さを経験しているのでこの先が思いやられそうだ。


「あれ? まさ君?」


 その刹那、聞き覚えのある声とある人にだけ言われ慣れた俺のあだ名が聞こえた。振り向くと、奏ちゃんだった。その刹那、心臓の鼓動が激しく鳴り響いてきた。確か、生前も男子トイレを少し出た所の廊下で出会った。


 奏ちゃんに、不自然に思われないように装いながら自然に驚いて反応した。俺は、どうすればいいのか分からずにいたが、奏ちゃんは嬉しそうに泣きながら俺に話しかけてくれた。


「まさ君は、何でここに?」


「いやぁ、俺は卓球部だからさ」


「そうなんだ。僕も卓球部だよ。まさ君が、引っ越さなければ同じ中学校に通う事になってた前春まえはる中学校の卓球部なんだよ」


「本当にごめん。俺だって引っ越したくはないと思ってた。けど、この件に関しては仕方ないだろ?」


「そうだけど、離れたくなかったの! この事を強く言うと、まさ君に嫌われるんではないかと思って、どうすれば良いか分からないの!」


「分かってるよ。でも、俺はそんな奏ちゃんも好きだし友達でいたいと思ってるよ」


「でも、僕は友達って言う感じじゃないよ。でも、まさ君は、僕と同じ男の子だし嫌われたくないから……」


「え? なんて?」


「ううん。何でもないよ」


 俺は、奏ちゃんの話を最後まで聞こえる事なく奏ちゃんから質問攻めを喰らった。


「それより、試合はどうだったの?」


「一回戦負けだよ……」


「どこの学校なの?」


「福西中学校だよ……」


「まさ君のお家は一軒家?」


「一軒家だよ……」


「今度遊びに行って良い?」


「良いけど……。顔が近いよ……」


「あ、ごめんなさい……」


 奏ちゃんは、顔を真っ赤にしながら俯いていた。俺は、奏ちゃんになんて声をかければ良いか分からずにいた。心の中では、奏ちゃんに試し事を企んでいたのにいざとなると頭が真っ白になる。


 その時、奏ちゃんから聞いた事のあるお願いをされた。奏ちゃんは、俺に固執している事がとても苦しくて悩んでいると気持ちを伝えてくれた。俺は、奏ちゃんの事が好きだし別々の学校でも奏ちゃんと気軽に遊べるようになりたいと思った。


 それでも、奏ちゃんは俺の事を友達以上に好きだと言って断った。奏ちゃんは、俺が男の子であっても恋愛感情が出てしまい、俺に嫌われるのが怖くて一人で思い悩んでいた。


「まさ君は、それを聞いてもまだ僕の事を友達と言ってくれるの?」


 生前の俺は、奏ちゃんの気持ちに受け止めづらかった。同性の恋愛なんて考えてこなかったから、それを見ていた奏ちゃんは不安を感じていた。だからと言って、奏ちゃんとの関係を壊すとはまた別の話である。なぜなら、今の俺はLGBTに関して理解が追いついているからだ。しかし、生前の俺は初めての事で理解が追いついていなかった。


 しかし、俺が試合に勝利した。仮に、俺が負ければ、奏ちゃんから恋愛感情で見られていると言う自覚を持ちながら、奏ちゃんと一緒に過ごす事になっていた。この約束に関しては、卓球で解決する事ではないと思った。俺は、その事を奏ちゃんに強く告げる事にした。


「話し合いでは解決できないと思ったから、卓球をキッカケに気持ちを整理しようと思ったんだよ」


「俺を信じてないから、卓球に頼るって言う意味でいいのか?」


「そう言う意味じゃないの!」


 奏ちゃんは、頬を膨らませながら怒った。俺も言い過ぎたとは思っているが、しっかりと話し合いをしてないのにそう言われると信じてくれていないのかと思った。


「俺は、奏ちゃんとずっと一緒にいたい」


「そんな事言わないでよ! 僕だって男の子なんだから、男の子に恋してるなんて言ったらまさ君に嫌われると思っただけなの!」


「話が噛み合ってないぞ、少し落ち着けよ」


 奏ちゃんの話を聞いてると、矛盾しているように感じた。俺の事を好きなのは理解したが、だからと言って卓球で俺と一緒にいるかを決めるのは間違っていると思った。


「とりあえず、奏ちゃんが男の子でも恋愛感情を持つのは理解したし偏見はしてない。だけど、俺が奏ちゃんを嫌うなんていつ言ったんだ!」


 奏ちゃんは、黙り込んだ。生前の俺は、奏ちゃんの事は可愛いと思った事はあるが、恋愛感情として見る事はなかった。だからと言って、奏ちゃんの事を嫌いになるなんて一言も言ってないし、一欠片も思わなかった。


 生前の頃は、意味が理解できないまま奏ちゃんとの勝負に挑んで終わったが、今は奏ちゃんとの日常を過ごしたいと思った。


「なら、ずっと一緒に遊んでくれるの?」


「あぁ、俺は奏ちゃんの事をもっと知りたい」


 俺は、奏ちゃんの事を友達として好きだ。だからこそ、友達から親友としてもっと距離を深めたいと思った。


 納得した奏ちゃんは、俺に電話番号を教えてくれた。残りの夏休みで、俺はお互いの絆を深めていきたいと思った。

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