第7話 残りの夏休み
新チームになってから、最初の大会が終了した。俺ら一年生は、村部以外の三人が一回戦負けで、村部は三回戦で敗北した。村部は、クラブチームで経験を積んでいるので三回戦まで行くのもおかしくないと思ったし、辞めさせたくないとまで思った。
先輩達だが、エースの成宮先輩と坂本先輩以外は一回戦負けだった。坂本先輩は二回戦で敗北して、成宮先輩は三回戦で敗北した。エースの成宮先輩は、クラブチームに所属してないのに結構強いからセンスの塊としか言いようがない。
だが、女子部員の結果は人数が多いので全員は把握しない事にしている。少なからず、同じ班の権藤さんと樺山さんの二人は、一回戦で敗北したと俺に話してくれた。
俺は、家に帰って奏ちゃんに早速電話する事にした。奏ちゃんは、すぐに俺の電話に出てくれた。今日の事についてや、いつ遊べるのかなど時間を忘れてしまうぐらい電話していた。
「奏ちゃんは、三回戦まで行ったんだな。すげぇよ」
「そんな事ないよ。でも、まさ君と卓球がしたいな」
「奏ちゃんが、俺の学校に転校してくれば毎日卓球できるぜ」
俺は、奏ちゃんに冗談を言う事が楽しくなってきた。生前の出来事が、嘘みたいに奏ちゃんと楽しく電話する事ができた。
あれから、一週間が経過した。部活に関しては、さほど変わった事はなくいつも通りに練習をしていた。夏休みもあって、先生は毎日練習を見に来てくれた。
しかし、問題は二学期になってからだ。顧問の先生が、受験生の担当なので部活中に遊ぶ奴らが増えてしまう出来事を阻止せねばいけないと思っている。
それより、今は奏ちゃんとの夏祭りについて考えて行きたい。しかも、先輩達もその夏祭りに行くと言う事を耳にした。
俺は、練習が終わって奏ちゃんに電話をしたが、なかなか電話に出てくれなかった。俺は、先輩達を気にしてる訳ではないが先輩達と会ってしまったらどうしようと軽く悩んでしまう。
プルルルルーー
一時間程経過した頃に、奏ちゃんから電話がかかってきた。奏ちゃんは、浴衣を着て来ると言っていたが俺は恥ずかしいので私服のままで行く事にした。
現地集合なので、母親に車で送って欲しいとお願いした。文句を言われながら承諾を得た俺は、財布と携帯と宿題を入れたカバンを持って母親の車に乗った。
「次の日に、奏ちゃんと一緒に家に来るから大丈夫だよ」
明日は、部活が休みなので夏祭りが終わったら奏ちゃんの家に泊まる事になっている。そして、次の日に奏ちゃんと一緒に俺の家で遊ぶ事になった。その間に、溜まっている夏休みの宿題を終わらせたいと奏ちゃんにお願いをした。奏ちゃんは、小学生の時から頭が良いので凄く頼りになる存在だ。
「まさ君、お待たせ」
「おぉ、やっと来たか……。って、何で女性の浴衣なんだよ」
「駄目なの?」
現地に着いて三十分程経過した頃に、奏ちゃんがやってきた。浴衣を着て来るとは聞いていたが、まさか女性用の浴衣だとは思いも寄らなかった。それにしても、奏ちゃんが可愛く見える。
俺は、奏ちゃんの事をもっと知りたいと言ったが奏ちゃんが女装する趣味を持っているとは思ってなかった。生前の時は、そんな素振りを見せている事は無かったのに、今は奏ちゃんが女の子に見えるぐらい胸がときめいてしまっている。
「俺の性癖がおかしくなりそうだ」
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それより、早く行こう」
「うん。そうだね」
恥ずかしくなった俺は、目を逸らしながらお店を回る事にした。夏祭りと言えば、チョコバナナだと思い奏ちゃんと一緒に買って食べる事にした。それだけでなく、焼きそばやイカ焼きなど美味しそうな食べ物をたくさん買って座れる所でゆっくり話す事にした。
奏ちゃんは、チョコバナナみたいな甘いものが好きらしく、口の周りにいっぱいチョコをつけながら俺に笑顔を見せてくれた。
「やばい……」
「何がやばいの?」
「な、何でもないよ。それより、この浴衣似合ってるね。めっちゃ可愛いよ」
「うん。ありがとう」
奏ちゃんを見てると、タイムスリップして目標を達成する事がどうでも良くなりそうになってきた。奏ちゃんと静かに食べる飯は、とても恥ずかしくて気まずかった。しかし、味はとても美味しくて奏ちゃんの可愛い姿も見て身も心も美味しく感じた。
その後は、射的や金魚釣りなど夏祭りの醍醐味を堪能していった。綺麗な花火も見終わり、先輩達も会う事なく夏祭りは終了した。そのまま、奏ちゃんの家に泊まる事になった俺は、奏ちゃんの親に久しぶりに会う事になった。
「奏ちゃんのお母さん、お久しぶりです」
「あらぁ、久しぶりやーん。全く変わってなくて安心したよー」
「あ、ありがとうございます」
奏ちゃんのお母さんは、久しぶりに会った俺を笑顔で出迎えてくれた。奏ちゃんの浴衣を、着付けたのはお母さんだったらしく奏ちゃんの女装に関しては理解が追いついているそうだ。
人混みにまみれていたので、そうちゃんの部屋に着くと溜まっていた疲れが一気に出てきてしまった。
「疲れたー!」
「確かに、疲れたよね。でも、僕は楽しかったよ」
「あぁ、俺も楽しかった」
俺は、先に奏ちゃんと一緒にお風呂に入る事にした。奏ちゃんの白くて柔らかそうな肌を見ながら入るお風呂は、混浴風呂と同じように緊張していた。
奏ちゃんは全く気にしてないようだが、俺は気にしてしまうのでタオルを巻いて欲しいと奏ちゃんにお願いした。
そして、お風呂から上がると疲れが取れた感覚になって心身共にスッキリした。その後は、奏ちゃんからアイスを貰ったので食べながら宿題をする事にした。
俺は、夜中まで宿題をしていたので国語の宿題と全副教科の宿題が終わった。俺が、国語のプリントをしている間に奏ちゃんが漢字ノートを俺とそっくりな字で書いてくれた。
「奏ちゃん、ありがとう」
俺は、奏ちゃんが手伝ってくれたお陰で残りの宿題が数学と英語の宿題だけになった。この二教科は、俺の苦手教科なのでまた奏ちゃんに手伝って欲しいと思った。
奏ちゃんは、とっくの昔に夏休みの課題が終わってるそうので、後は奏ちゃんと同じベットで寝るだけだ。しかし、俺は何だか緊張して寝れないが、奏ちゃんは嬉しそうに俺の方へ向きながら寝ていた。
「奏ちゃんが可愛すぎるんだけど……」
俺は、小声で先程できた悩みを独り言みたいに呟いた。生前の時には、全く気にしていなかったのに、今は奏ちゃんが女の子にしか見えなくて堪らない。だが、生前よりかは遥かに楽しいと思っている。
そう思いながら、俺は寝落ちしている事に気づかなかった。奏ちゃんに、起こされて初めて寝ている事に気づいてすぐさまベットから飛び起きた。
そんなこんなで、奏ちゃんの家を後にした俺は、電車に乗って俺の家まで奏ちゃんと徒歩で行く事にした。
俺の家族も、奏ちゃんを明るく出迎えてくれた。引っ越しの件もあって少し怖かったが、俺の母さんは何の素振りもせずに奏ちゃんに笑顔を向けていた。
少し安心した俺は、英語の宿題を奏ちゃんの前に突き出した。奏ちゃんは、苦手教科を手伝って欲しいと思っている俺の前に嫌な顔を一つもせずに手伝ってくれた。
奏ちゃんと一緒に、英語ドリルと単語プリントを終わらせた。残りの宿題が数学だけになった所で、奏ちゃんとテレビゲームをする事にした。
テレビゲームの中でも、大人気のゲーム【大乱闘!ドリームブラザーズ】を奏ちゃんと二人で対決する事になった。このゲームは、色んな戦い方が楽しめるゲームであり、たくさんのキャラを使って楽しめるのが、このゲームの自慢のポイントである。
奏ちゃんは、天使のようなカッコいい青年キャラ【ピッコ】を選択してきた。俺は、それに対抗するべくコウモリの騎士【ナイト仮面】を選んだ。
スピードタイプのキャラを選んだ俺は、このキャラの使いやすさに少し期待をした。だが、浮き足を取ったかのように奏ちゃんは、攻撃連打を炸裂して俺の攻撃を喰らわせなかった。
こんな感じで、奏ちゃんは何をしても上手かった。このゲームを、やり込んでる訳ではないと言ってるのに成長がめちゃくちゃ早かった。
次の対戦でも、違うキャラなのに使い方を僅か数分で理解して、使い込んでいるかのように急成長している。自分が下手だけなのかもしれないと思った俺は、奏ちゃんに一つ頼み事をした。
それは、レベル最大のCOMと対戦して欲しいと言う事だ。これに勝てば、奏ちゃんは只者ではないと言う事が証明される。
承諾を得た俺は、この中で一番強くて人気のあるキャラ【闇魔王】を選択した。このキャラは、スピードもパワーもピカイチであり一発のダメージもかなりデカイとまで言われている最強キャラだ。
初心者がこのキャラを使うと、二度とこのキャラから卒業する事はできないとまで言われている伝説のキャラだ。しかも、レベル最大だから奏ちゃんは手こずるだろうと思ったが呆気なく倒した。
「何だ……。ただ、奏ちゃんが強いだけなのか……」
奏ちゃんの強さを知らされた所で、次のゲームに移る事にしたが、どのゲームも奏ちゃんは上手かった。そうしてると、一日があっという間に経過して、夕方になった頃に奏ちゃんの母親が迎えに来てくれた。少し寂しいと思った俺だが、生前の時みたいに二度と会えないと言う訳ではないので安心して見送る事ができた。
明日と明後日は普通の練習で、明々後日から一週間はお盆休みだ。今年の夏休みの間は、練習試合が一つもない。二学期になってから、阿保みたいに練習試合が行われる。今の先輩達が卒業するまでは、先生達の本気度も伝わってくる気がしてこない。ただ、その事に関しては自分達が本気に練習をしてから言う事なので、今は自分が成長するために色々考える事にした。
しかし、次の日になると先輩達から彼女と夏祭りに居たのではないかと言う事を問い詰められた。その事により、同じ班であり同じ学年である日高から挑発を受ける事になった。
俺は全否定をしているが、周りは聞く耳を持たずに俺をからかって来る。それが気に食わないのか、日高からの挑発がエスカレートしてきていた。
それを見ていた富永先輩は、不愉快に思い俺を庇ってくれた。嫉妬していた日高は、黙り込んで班の中で孤立していた。お盆休みが明けてからも、何かふてぶてしい態度を周りに見せていた。
しかし、そんな事を気にせずにいられたのは奏ちゃんと変わらずに遊んでいれる事だった。お盆休みの間に、奏ちゃんと二人で大分にある温泉ホテルに泊まった。
奏ちゃんから、温泉ホテルの無料チケットが当たったので一緒に行きたいと誘われた。もちろん、楽しかったし良い思い出にもなった。
その間に、残りの数学の宿題も無事に終わったので、いつもギリギリで追われる恐怖から免れた安心感に襲われた。
生前では、意味が理解できないまま奏ちゃんとは二度と会う事は無かった。しかし、今ではこんなにも楽しくいれるなんてタイムリープして良かったと思っている。
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