第4話 新チーム

 当時は、朝起きるのが辛かったが今は社会人の経験もあって朝起きるのがとても気持ち良くなった。朝の六時ぐらいに起きて、朝のシャワーと朝の読書をして九時から部活なので八時半くらいに気持ち良く出発する事ができた。家族の皆んなからは、凄い変な目で見られた。確かに、今までは寝坊や三日坊主とかが当たり前だったから朝早くに起きて読書とかは一人暮らししてからが日課だった。なので、そんな顔されるのも無理はない。


「なら、行ってきます」


「どうしたとね? 珍しく規則正しい朝を迎えて」


「いやぁ、なんとなくやってみたんだ」


 母親に、本当の事を喋るのは難しいと思ったので、適当に誤魔化して出る事にした。それに、三日坊主という言葉があるから最初はできても身体や精神的な関係もあるので、それに追いつけなくて中途半端に終わると、言われる事は聞きたくない事ばかりだと思うので、偶然だと言う雰囲気で玄関を後にした。


 昨日といい今日といい、とてもじゃないが懐かしい雰囲気に包まている。銀行に勤めるようになってからは、この通りや学校の景色を見るのは全くなかったので、身に纏っている体操服や卓球のラケットもその全部が懐かしくて不思議な気持ちになる。


 その気持ちを噛みしめながら歩くと、あっという間に学校に着いた。まだ、時間もなってないという事から第二体育館は誰もいなかった。


 第二体育館とは、卓球部と剣道部が合同で使っている。二つある体育館の内の一つがこの第二体育館だ。たまに、学年集会で使われる事もあるし、体育の授業で他の学年と被ったりすると、この体育館を使う事がある。


 時間が過ぎると同時に、懐かしいメンツがぞろぞろと集まっていく。まだ辞めてない女子部員や男子卓球部の先輩なども、集まっては部室でだらだらと時間が過ぎるのを待っている。その後に、先生が来てから全員が集合した。周りの人達と他愛いもない話をしてると時間が過ぎるのもあっという間である。


「新チームになったから、これから練習の班決めと部長・副部長を発表する」


 俺は知っている話だ。部長は、坂本さかもと先輩で副部長は舞谷まいたに先輩だ。女子の場合は、先輩が居ないので男子と合同で行う事になっている。だから、この一年はこの二人が中心となる。


 案の定、その二人が呼ばれて部長としての抱負を語られた。だが、二人とも乗り気ではなかった。確かに、いきなり決められたし二人からすれば無理やり押し付けられた感覚に陥っているだろう。


 そして、班決めの事なのだがそれも知っている。班は五つの班に分けられ、攻撃型のグループが三つと中ペンのグループ一つとカットマンのグループが一つの計五班に分けられる。このグループの分け方は、練習内容が似てる人同士で分けられている。


最初は攻撃型のグループだが、一つ目のAグループは男子卓球部のエースである成宮なるみや先輩率いるつつみ先輩と女子部員三人の合計五人で構成される。


 二つ目のBグループは、同級生の村部率いる高目君と女子部員三人の合計五人で構成される。村部と高目君は、卓球のクラブチームに所属しているので実力があると判断され、Bグループは一年だけのグループになっている。


 最後の班なのだが、俺が含まれるCグループである。富永とみなが先輩が班のリーダーであり、久原くはら先輩と俺と日高と女子部員の権藤ごんどうさんと樺山かばやまさんの合計六人でグループが出来上がる。俺からしたら、問題児ばかりだと思っている。久原先輩と日高は皆んなに嫌われてるし、富永先輩は人一倍に二人の事を嫌っている。


 嫌われているからといって、悪質ないじめに発展するわけでもないし俺がいじめるわけでもない。だが、嫌われている自覚は本人達はしているからこそ関わる人を限定していた。


 次は中ペンで固められたDグループだ。部長の坂本先輩率いる女子部員四人と木下きのした先輩の合計六人で構成される。中ペンとは、中国式ペン型ラケットの略で、日本式ペン型ラケットと違って両方の面にラバーが貼れて使用する事ができる。他に、日本式ペン型ラケットがあるが、片面しか使えない事から今どきの人はあまり使わない事をよく耳にする。だが、昨日卒部した三年生の何人かは使っていたが、その人達も最初は使いにくかったと言っていた。


 そして、最後はカットマンで固められたEグループである。副部長の舞谷まいたに先輩率いる女子部員の合計五人で構成される。カットマンとは、相手のドライブやスマッシュなどの攻撃を下回転のカットで返球しながら、相手のミスやチャンスをうかがう戦型の事をカットマンというのだ。


 俺は、戦い方や皆んなのレベルに見合ってバランスよく分けられているなと思っている。だが、本当にその通りに呼ばれたので驚きを通り越して笑いが出てくる。その後は、グループ同士で自己紹介と話し合いをする時間になった。俺は、自己紹介をしなくても全員分かるのだが、そこは隠して装いながら話す事にした。


 その後は、グループの仲をより深める為にグループ対抗の外周大会をしたり、グループによって違う練習メニューを実際にやったりと、かなり有意義に過ごす事ができた。忘れかけていたが、最初の頃は楽しくて上手くいっていた。今は、二学期になってから拗れていく事も忘れるぐらい楽しいと思った。


 気付けば、部活の時間が終わる午後の十二時が過ぎていた。片付けや掃除が終わり、これからの意気込みを顧問である田尻先生と岡本先生が語って次の大会の話もして終わった。次の大会は、個人戦トーナメントである『全日本卓球選手権予選大会カデットの部』の話だ。


 そう言えば、この大会では今の家に引っ越す前にいた小学校の友達である尾崎奏おざきそうと久しぶりに出会った記憶がある。とても仲良くて、一年生から六年生の一学期まで毎日のように遊んでいた。


 だが、急に引っ越す事になった時は泣いていた。奏ちゃんは、俺の事が大好きすぎて固執している。俺が、引っ越すと言った時は『僕も行く!』と言っていたから、みんなして困っていた。しかし、奏ちゃんとは結局別れる事になってしまい、この大会で再会するまでは一度も会う事はなかった。寂しい気持ちはあったから、再会した時は嬉しかったし奏ちゃんも嬉し泣きしていた。


 別に、奏ちゃんが嫌いとかじゃない。ただ、当時の俺には荷が重かった。しかも、着いて行きたいという気持ちが強すぎて俺の家族だけでなく、奏ちゃんの家族もその気持ちに応えきれないという事もあった。奏ちゃんは、俺にべったりであり、周りの女の子に目がいかないぐらい俺に好意を示していた。


 俺の事を、友達として好きな気持ちはとても有り難かったし、俺も奏ちゃんの事は友達として好きだった。だからこそ、奏ちゃんの事を思って学校は別々でも遊びたいと告げた。


 もちろん、寂しい気持ちで胸がいっぱいだった。本当に、奏ちゃんが友達として好きなのでいつでも会いたいと思っていた。しかし、大会の日まで一度も会う事はなかった。


 帰りの集会が終わり、皆んなが帰ろうとしている時でもその事で気持ちがいっぱいだった。また、会いたい気持ちで頭が回らない。自分勝手なのは分かるけど、また奏ちゃんと毎日遊びたいという気持ちが芽生えてくる。


 久しぶりに会った時の奏ちゃんは、引っ越した場所はどこなのかなど質問責めされた。まるで、夫の浮気を問い詰める鬼嫁のようだった。


 まぁ、確かにそれぐらいかわいいという事だ。男なのに、まるで女の子を相手しているぐらいの雰囲気で男子である事を忘れさせる程の可愛さであり、周りの女子より遥かに女子力が高い事を認めざるを得ない程である。


 しかし、奏ちゃんからお願いをされた。それは、俺と卓球で決着をつけたいと言う願いだった。奏ちゃんも、自分の気持ちを整理する為に戦いを挑んだ。奏ちゃんが勝つと、俺の学校に引っ越してくると言う事だった。


 俺がいない毎日が、寂しく感じていてモヤモヤしたままだったのでこれを機に気持ちを整理したいと俺に言ってきた。奏ちゃんが負けると、俺とは二度と会わないと言ってきた。


 俺に固執してしまうのが、自分にとっても俺にとってもいけないと思っていた。俺は、いつでも前みたいに気軽に遊びたいと言ったが、奏ちゃんはそう言う気持ちではいられないと俺に泣きながら言ってきた。その賭けに関しては、奏ちゃんの親は知っているそうだ。


 俺は、奏ちゃんの気持ちを汲み取って頷く事にした。だが、結果は俺が勝ってしまった。最後まで、奏ちゃんと粘った戦いだったが最後の方で奏ちゃんのミスが多くなった。


 その事もあり、奏ちゃんと俺は縁を切る事になった。俺らは、近くのコンビニで一緒にジュースを飲んだ時を最後に二度と会うことはなかった。奏ちゃんは、『縁を切る事こそまた縁なのかもね』と笑いながら、自分の気持ちにスッキリしていると俺に言った。


 俺は、奏ちゃんの言葉に疑念を抱きながら一人で帰り道を寂しく帰りながら奏ちゃんに何か試す事を決意した。

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