第22話 本性

「まさ君って、どこまで知ってるの?」


 柴田先生に、衝撃的な報告を聞いてから昼休みになった。俺と奏ちゃんは、誰もいない理科室で今日の報告について話し合っている。


「日高の交通事故は、普段なら起きてないと言う所までかな。それも、俺が過去に戻って居ない筈の奏ちゃんと楽しく学校生活を共に過ごしているから原因は俺にあると言う所までだ」


「まさ君は、嘘をついてるね。嘘と言うか、信じたくないと言う気持ちに駆られている」


「いや、そんなんじゃ……」


「僕の正体を知ってしまったけど、信じたくはない。だけど、疑ってしまってどうすれば良いか分からないでいる。そうでしょ?」


 俺は、奏ちゃんの鋭い感に驚く事しかできなかった。奏ちゃんの様子を見ていると、本当に殺し屋であり日高を殺していたのかもしれないと感じ取ってしまう。


「だったら、なんで日高をあんな目に合わせたんだ。あの出来事のせいで、俺ら卓球部がどれだけ苦労したと思ってるんだよ」


「僕はね、まさ君さえ生きていればそれで良いの。まさ君を、傷つける奴は人間として見ていないの」


「お前って奴は、とんでもない野郎だ」


「でも、この僕とたくさん関わりたいと言ったのはまさ君だよね?」


「いや……」


 奏ちゃんは、俺に本性を見せているのが分かるぐらい俺を睨んでいた。一回目の時は、日高が死んでしまってから雰囲気が悪くなった。


 もし、芽依香に殺されずにそのまま時が経っていたら廃部になっていたかもしれない。そう思うと、ここで決着を決めないと先に進まない。


「本当は日高君を殺す筈だったけど、まさ君がそう言うならと思ったんだよ。僕の事が分かると言う事は本当に未来人なんだね」


「一度、俺は奏ちゃんと縁が切れていた。それが嫌だったから復縁を志した。だから、俺はどんな奏ちゃんでも受け止めたい」


「まさ君って、優しいんだね。日高君を殺そうとした僕を受け入れたいなんて、本当に優しくて馬鹿だよ」


「それでもいい。しっかりと、日高と仲直りしてくれるなら俺は許す」


「ありがとう。でも、他の殺し屋に狙われたりするかもしれないんだよ?」


「それは嫌だな。でも、奏ちゃんが守ってくれるなら俺はそれで良い」


 奏ちゃんは、自分と親が殺し屋であると言う本当の事を包み隠さずに伝えた。だが、変わり果てた芽依香が知っている様に奏ちゃんは俺を気絶させて行方不明にさせる様な事はしていない。今思えば、やましい事を見られたから姿を眩ませたのかもしれないと推測できた。


「なら、明日は日高のお見舞いに行くか」


「うん。そうするよ」


 次の日、俺ら二人は部活を休んで日高のお見舞いに行く事にした。日高の病室に入ると、左手を包帯で巻かれている日高が居た。しかし、かなり元気な様子であった。日高は、自分の母親と楽しそうに話しており、俺らが来た事で瞬く間に元気な姿を見せてくれた。


「もう大丈夫なのか?」


「おう。少しだけ良くなったって感じかな」


「日高君、この前はごめん」


「いや、謝らないでくれ。悪いのは、自分なんだからよ」


「そりゃそうだろ。俺に嫌がらせをしていたんだからな。奏ちゃんに殴られても文句は言えないと思うぜ」


「それは、本当に悪かった。清瀬君に対しても尾崎君に対しても自分が悪いと思ってる」


 日高の反省の態度のお陰で、奏ちゃんが謝りやすい環境になり三人とも仲直りができた。俺は、日高のどうでもいい話を聞きながら変わり果てた芽依香に問題が解決できた事を告げたい気持ちになった。


「まさ君、どうしたの?」


「いや、何でもない。それより、もう明日から練習に復帰するのか?」


「まぁね。自分は右利きだから、練習しても異常ないだろうと思うけどな」


「いや、田尻先生に止められるぞ」


「そうだよ。まさ君に迷惑かけたら、また殴るからね」


「奏ちゃん、その冗談は笑えないよ」


「確かに、笑えないな。だって、痛かったんだもん」


 俺ら三人は、冗談が言える程の仲になったのでとても安心して病室を出た。そうなると、未来は良い方向に変わったと思うので、奏ちゃんに確認を取ることにした。


「そう言えば、奏ちゃんって卓球クラブに入ってたんだよな?」


「そうだよ。もしかして、まさ君も入りたくなったの?」


「いや、確認したいだけだ。そこのクラブチームに政倉コーチって居るか?」


「え、居るよ。なんで知ってるの?」


「マジかよ……」


 俺はその事を聞いて、まだ未来は変わってないかもしれないと感じた。もし、俺がハッピーエンドで終われば、芽依香はあのような人格にはならずに済む筈だ。しかし、政倉コーチとして居ると言う事はまた何かが原因で俺の大事な家族が崩壊したと言う事だ。


「今度さ、俺も体験しに行って良いか?」


「良いよ。コーチには、事前に言っとくね」


 かなり早いと思うが、俺は政倉コーチに会って未来がどうなっているのかを確認しようと決意を固めた。俺は、どさくさに紛れて奏ちゃんの手を握って帰る事にした。案の定、驚きを見せた奏ちゃんだが何も言わずにそのまま握り返してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る