第21話 二回目のタイムリープ
俺は、目が覚めると見た事のある死後の世界が視界に浮かび上がった。そこには、俺の三途の川におじさんが前回と同じ様に突っ立っていたのでおじさんの元に向かった。
「すみません。失敗しました」
「何をしてくれとるんじゃ」
「しかし、俺の夢の中でおじさんが消えていく夢を見ました」
「それは、知らん。気にせんでええ」
俺は、おじさんが黒い霧の中に消えていく夢を見たのでおじさんが現れる事は無いと思っていた。しかし、それとは全く関係のなかった事らしいのでおじさんは前回と同じように姿を現してくれた。
「それより、かなり大変な事になったのう。一番の問題は、なんか解っとるんか?」
「はい。日高が死んだ事によって、全てが変わりました」
「全く解っとらんのう。あの子が言っていたのは、尾崎奏が関わったこ……」
「それは違います!」
おじさんも、奏ちゃんの事を疑っている。それに苛立った俺は、おじさんの言葉を遮って否定した。
「大切な子だと言う事は解っとるんじゃが、その子によって全てが変わっとるんじゃよ」
「俺が望んだ事なので、それ以上は言わないで下さい」
「はぁ……。それだけ溺愛してるんじゃったら彼を守ってみんしゃい」
「何から守るのかは分かりませんが、まずは日高を死なせません」
「まぁ、目的はそれでもええじゃろう」
心が折れたおじさんは、ため息をした後に俺の頭に手を出そうとしていた。その時、以前のトラウマが蘇ってしまったのでおじさんの手を払った。
「いいえ。自分で潜ります」
「そ、そうか……。頼んじゃぞ」
確かに、過去が変わったからこそ変わり果てた芽依香が生まれたんだと思う。だが、奏ちゃんが日高を殺すような事は絶対にしないと思っている。俺は、そう思いながら川に顔を突っ込んで日高が死ぬ前の時間帯に戻れるように意識した。
「ぶはぁっ!?」
俺は、息が苦しくなり意識が遠のいてしまいそうになったのと同時に顔を上げると先程と同じ様に風呂場にいた。
俺は、すぐさま上がって自分の部屋に入り日時を確認した。すると、日高が死ぬ前日の九月二十七日土曜日だった。
「日高が交通事故で亡くなる前日に戻ってしまったか」
俺は、少し奏ちゃんを疑い始めてしまった。あのおじさんや芽依香が言っていた通り、もしも奏ちゃんが殺し屋ならば明日のドタキャンも日高を殺す為なのかもしれない。やりたくはないが、奏ちゃんに電話しようと思った。
「もしもし、奏ちゃん? 少しだけいい?」
「まさ君、どうしたの?」
「いやぁ、日高の事で一つだけ言っておきたい事があってさ」
「なに? もしかして、また文句を言うの?」
「そんなんじゃないよ。ただ、あいつはあんなんだけどさ、精神的に助けられた事もあったんだ」
俺は、女子だらけの環境に嫌気を刺していた時、あいつが居てくれたから部活を最後まで続ける事ができた。本当の理由も教えてくれずに廃部宣告だけされた時は、俺ら二人の団結力が高まった。
「そうなんだ。でも、喧嘩するほど仲が良いって言うよね。だけど、一つだけ聞いていい?」
「なに?」
「まだ廃部宣告されてないのにどうやって日高君と団結力が高まったの?」
「あっ」
そう言えば、俺が奏ちゃんに未来人と言ったのは日高が死んだ後だった。俺は、てっきり未来人であると信じて貰ってると思い込んでいたので思わぬ展開にどうやって切り返そうかと迷っていた。
「その事については、明日遊ぶ時に言うからドタキャンだけはしないでほしい」
「うん。分かったよ」
俺は、奏ちゃんにそう言って一方的に電話を切った。明日は、学校も部活も休みなので奏ちゃんと遊ぶ約束をしている。それをきっかけに俺が経験した事を全部話そうと思う。
次の日、前回はドタキャンしたのに今回はしっかりと俺の家に来てくれた。そのせいで、俺は少し疑問に感じてしまった。しかし、奏ちゃんは何事もなかったかの様な態度で俺の家に上がった。
「奏ちゃんに言っておきたい事がある」
「そう言えば、昨日の電話はなんだったの?」
「その事についてなんだが……。俺は、未来人なんだ」
「未来人と言えば、昨日から上映されてるSF映画『時空車はスポーツカーで』が流行ってるよね」
「奏ちゃん、そう言う事じゃないんだ」
前回と同じで、奏ちゃんは俺の事を信用していなかった。俺は、真面目な顔で奏ちゃんに話した。
「急に未来人とか言って様子が変だよ? あっ! もしかして、この年から流行ると言う病って言う奴?」
「誰が厨二病だ!?」
俺は、思わずツッコんでしまった。だが、これに関しては厨二病と言う軽い話ではない。もしかしたら、奏ちゃんが日高を殺していたのかもしれない。そう思うと、奏ちゃんの冗談に笑いはおきなかった。
「もしかして、未来を言い当てれるの?」
「もちろん」
奏ちゃんは、相変わらず冗談のように受け止めていた。そもそも、質問の仕方も冗談で言ってるようだった。
「今日は、九月二十九日だったな。近頃に、大きな出来事が起きる」
「どんな事?」
「それは、十月二日夜一時頃に北海道の北広島市で大きな地震がある。幸いにも津波まではいかなかったが、破損した物は大きいらしい」
「本当に起きるの?」
「あぁ、間違いなく」
「と言うか、冗談で言ったつもりなのになんでそんなに真面目な顔なの?」
俺は、前回と同じ内容で奏ちゃんに予言をした。しかし、奏ちゃんはまだ俺が言った事を冗談だと思っている。
「俺は、奏ちゃんとか日高とかその他の人達の未来を知っているからだ」
「なら、僕の将来も分かるんだね」
「それはすまない。実は、奏ちゃん以外なら知っている」
「なにそれ」
「だが、北海道大地震だけは信じてほしい」
本来の俺なら、とっくに奏ちゃんと縁が切れている。しかし、俺が仲良くしたいと奏ちゃんに問いかけたら俺の学校に転校してきた。
俺は、ありのままの事を奏ちゃんに伝えた。奏ちゃんが、何を考えているか分からない。しかし、奏ちゃんに協力して欲しいので自分が経験した事を最後まで言った。
「訳が分からないけど、本当にまさ君の言ってる事が正しいのなら今回の事信じるよ」
「あぁ、頼む」
俺は、次に日高の事について口にした。本当の日高は、中華料理の店を構えている程人生が充実していた。しかし、俺がタイムスリップした事で日高が交通事故で亡くなった。
奏ちゃんは、俺の言葉に疑いの目を向けていた。目を見開いた奏ちゃんは、俺の言葉に食いついてくれた。
「日高君が交通事故に遭うなんて……」
「奏ちゃんは、なんで日高の人生が変わったか知ってるか?」
「知らない……」
奏ちゃんは、俯いたまま一言も喋らなかった。そのせいで、俺らは気不味い雰囲気になった。俺の部屋で、一言も喋る事なく漫画や動画などを別々で見ていたので、時間はあっという間に経った。
奏ちゃんは、寂しそうな顔で別れを告げた。これで、明日は日高の人生が良くなるかもしれないと思ったが、そうなれば奏ちゃんが殺し屋と繋がっている事が明らかになる。
次の日、俺と奏ちゃんは何も喋る事なく席に着いた。普段は、奏ちゃんと会ったら楽しく喋っていたが今は気不味くて後ろも向けない。その刹那、柴田先生が慌てた顔で教室に入って急いで皆んなを席に座らせた。
「皆んなに言わなければいけない事がある。それは、日高君が交通事故に遭って入院していると言う事だ」
「え……?」
俺は、意味が分からなかった。柴田先生は、続けて日高の現状について話をした。日高は、命に別状はないものの左手が骨折しており全治に二ヶ月かかるそうだ。
「未来が変わった。もしかして、これは……」
俺は、思わず奏ちゃんの方へ振り向いていた。奏ちゃんは、真剣な眼差しで俺の顔を見つめていた。
「まさ君、今日の昼休みに日高君の話でもしようね」
奏ちゃんは、何かを訴えている様な不気味な笑みを浮かべたがその笑みは笑っている様には見えなかった。
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