第20話 答え合わせ

 変わり果てた芽依香に、連れて来られた場所は殺伐とした俺の家だった。この家は、親戚の山中さんに預けられる事で売られて取り壊されるとの事だった。


「かなり変わってるでしょ」


「あぁ、殺風景な家だな」


 俺が、知っている清瀬家の雰囲気ではなかった。母親が病んだり、姉は父親と喧嘩して家出をしてしまったりと負のオーラが募りまくっている。


「ここの方が誰にも聞かれずに済むわ」


「そうだな。そしたら、もう良いだろ? 知ってる事全部話してくれ」


 俺と芽依香は、家具や家電が何一つ無い状況の中で和室に二つの椅子があったのでそこに座る事にした。この椅子は、芽依香が話す為に用意してくれていた。


「まずは、家族のその後についてもっと詳しく話すわ」


 芽依香は、タイムマシンで時間跳躍を繰り返していたので色んな事を理解していた。まず、俺が行方不明になった後に家族は警察に捜査を依頼したが見つかる事はなかった。


 母親は、警察が探し切れない事により次第に様子がおかしくなってしまい、俺の部屋に引き篭もって家事を何一つやらなかった。それが原因で、痺れを切らした父親は姉や妹達に八つ当たりをしてしまう。


 それに反発しようとした姉は、父親と喧嘩をしてしまい家出を決意して姿を眩ます羽目になった。しかし、幾度の時間跳躍により姉の行方は突き止めたそうだ。


「一応、姉は高校の友達の家で避難したのだけれど、その友達もなかなか洒落にならないバイトをしている娘らしくてね」


「それに、姉も巻き込まれたと言う事か?」


「そうね。その友達は、水商売をしていたらしく友達は姉を誘ったそうよ」


「自分の姉が、水商売とは想像したくないな」


 姉の友達は、とても清潔で純粋そうな人柄なのだと誰もが思ってしまうとの事だが裏ではたくさんの男性に身体を売ってきた。俺の姉は、そこ事を知らずに助けを求めてしまった。慣れもしない水商売で、ストレスが溜まった姉は鬱になり母親と同じ施設に預けられたとの事だ。


 父親に関しては、浮気相手を作って駆け落ちをしたそうだがその後に父親は遺体として帰ってきたそうだ。父親が、遺体になった原因としては浮気相手が裏家業をしているらしく、それを知ってしまったと言う事で口封じの為に殺されてしまった。しかも、姉の友人と父親の浮気相手は同一人物らしく奏ちゃんの敵対している組織に所属していたそうだ。


「それでも、まだ聞きたいのかしら?」


「確かに辛い話だが、肝心の俺の居場所が分かってない」


「それって、本当に肝心な話なのかしら?」


「どういう事だ?」


 芽依香は、恨みを持った様な視線を俺に浴びせた。確かに、俺が事件に巻き込まれてしまったから恨まれても仕方がない。しかし、俺の居場所こそが肝心の情報だと思ったのは間違いではない。


「私からすると、貴方のお助けキャラの正体を詳しく知りたいのだけれど」


「奏ちゃんは奏ちゃんだ」


「この話を聞いても、まだそんな事が言えるのかしら?」


 確かに、芽衣香の話を聞く限りでは奏ちゃんがこの出来事の引き金である。しかし、あのいかつい男をどうやって奏ちゃんが殺すのかも分からないし、俺を気絶させてどこに持っていくのかも分からない。


「彼は、貴方が思ってる彼ではないわ」


「聞いた話ではそうかもしれない」


「そりゃ、聞いただけでは信じきれないよね」


 芽衣香は、奏ちゃんがした事について俺に詳しく話した。奏ちゃんは、日高の本当の死に方を知っていた。奏ちゃんの家庭は、殺し屋稼業であり人の殺し方を知っている。日高を交通事故に見せかける為、奏ちゃんの指示で付き添いの者が車で日高を轢き殺したそうだ。


「そんな事はない!」


「それがあるのよ。いい加減にしないと本当にあった出来事を見せつけるわよ。私の言葉だけでも信じておかないと苦しくなるわ」


「そ、そうだな。今思えば、奏ちゃんの様子がおかしかったんだ」


「信じきれないと思うから、本当にその光景を見せてあげようか?」


「うるせぇ。そんな事より、お前の話を詳しく聞かせてくれ」


 俺は、奏ちゃんの事を疑いたくはない。しかし、奏ちゃんが引っ越した事により全てが変わった。俺は、奏ちゃんが来た事で俺の知らない芽衣香が生まれたのかもしれないと思ったので本当の光景を見るより芽衣香の話を聞きたいと思った。


 芽衣香は、年齢的に自立ができた頃にタイムマシンを手に入れた。そのタイムマシンは、見た事ない通りすがりのおじさんから貰ったそうだ。最初は疑っていたが、会話をするだけで見知らぬおじさんから過去に戻る必要性を感じ取った。


 そして、戻る時間帯は俺が事件を起こす前である。しかし、幾度となく時間を繰り返しながら卓球部がどうなっているのかも先に観察をしていた。


「私は、知らない通りすがりのおじさんから貰ったのだけど全く疑わなかったわ」


「おじさんと言うのは、どんな感じの人だったか覚えてるか?」


「覚えているわ。かなり小汚いフードを被っていたわね。しかも、愛想の悪い人だったわ」


「俺もそんな人だった。だが、死後の世界に現れてるから違うと思うけど」


 芽依香は、何もない日に知らない通りすがりのおじさんからタイムマシンを貰った。そのおじさんは、俺が死後の世界で出会ったおじさんと共通点が何個も当てはまっている。


 ただ、芽依香は生きている状態でタイムマシンを貰い、俺は死んだ時におじさんから過去に戻れる力を貰ったので違うと認識した。


「分からない事だらけだ」


「おじさんに関しては、気にしなくていいと思うわ。今は、尾崎君について……」


「違う!!」


 俺は、奏ちゃんが日高を殺すなんて信じたくない。折角、気を紛らしていたのに芽依香は話を戻してきた。


「奏ちゃんは、そんな事しない!」


「あっそう。なら、本当の光景を見せようかしらね」


「待てよ! だったら、何で日高が死なないようにしなかったんだよ!」


「できなかったのよ! 何度やっても!」


「だったら、最後までやれよ!」


「私が死んだら意味ないじゃない! そんな事言うならお兄ちゃんがやってよ!」


 芽衣香は、自分の下着の中から鈍器を取り出して俺の頭部を殴った。俺は、頭に痛みが走って意識が朦朧とした。芽衣香によって、何度も殴られている感覚に襲われた。そのせいで、俺は視界が暗くなった。

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