第19話 正体

 奏ちゃんが通っているクラブチームは、『田中国際卓球クラブ』というクラブチームだ。実は、俺も生前の頃に約半年ぐらいだがそこのクラブチームに所属していた。


 なので、そこのクラブチームにいるメンバーについて何人かは分かると言う事だ。しかし、生前では奏ちゃんと政倉コーチはいなかった。俺は二年の時に、そこのクラブチームに入っていたのである程度の事は分かる。


「ここだよ」


「懐かしいな」


 俺は、奏ちゃんにその事を伝えた。奏ちゃんは驚いていたので、いつものように誰が居るのかを言い当てた。と言っても、俺が入った期間が違うから何人かは知らない人が居るのは当然の事だ。


「こんにちわ」


「こんにちわ、尾崎君。あら、清瀬君も来てるのね」


「僕が連れてきました」


 俺がターゲットにしている政倉コーチが、俺らに挨拶に来てくれた。俺が、初めてだと言う事で他のコーチも挨拶に来てくれた。相手は知らないと思うが、俺は他のコーチの事も知っている。


 身長と体重が大きい男性コーチが安畑やすはたコーチで、爪を噛む癖のある男性コーチが谷口たにぐちコーチである。そして、基本は事務仕事をしている女性コーチが飯倉いいくらコーチである。


 ここのクラブに関わったのが、時期的に早いので何人か知らない人は居る。しかし、一年の最初の時期から入っている南区にある蒼泉そうせん中学校の釘宮くぎみやと言う奴がいた。釘宮に関しては、仲が良かったので殆どの事は知っているので釘宮の存在を言うと奏ちゃんは完全に信用してくれた。


 そして、奏ちゃんが男子更衣室で練習用のユニフォームに着替えていると政倉コーチに呼ばれて相談室へと入った。


「清瀬君がこんな時期に来るなんて、予想していた時より結構早いわね」


「どう言う事ですか?」


 俺は、政倉コーチの発言に違和感を覚えた。俺は、政倉コーチの事なんて何一つ知らないし生前にも存在しなかった。だとすると、俺と同じ未来人かもしれない。


「もしかして、貴方ってタイムスリップしてるでしょ?」


「な!? なぜそれを!? あっ!」


 そう思っていた俺は、政倉コーチの発言に思わず反応してしまった。ヤバいと思って口を抑えたが、政倉コーチは安堵したかのように微笑んでいた。


「やっぱりね。でも、心配しないでほしいわ。私も未来人だからね」


「なるほど……。俺の周りには、普段起こらない事ばかりが起きているからおかしいと思ったんですよ」


 俺の予想は当たっていたが、何で政倉コーチが未来人なのか気になった。しかも、頭が混乱して何を思えば良いのかも分からない。


「でも、貴方も気づかないんだね。自分の名前が隠されているのに」


「どこにあるんですか?」


「私の名前に、貴方の政真と言う二文字が入ってるのよ」


「た、確かに!? 政倉の『政』に、真奈美の『真』って事ですか?」


「そうよ。私の本名は、清瀬芽依香きよせめいか。貴方の妹よ」


「何で、俺の妹の名前を語るんですか!?」


「色々あったのよ。未来人を語っているんだから、大体の事は予想できるでしょ」


 俺は、それでも意味が分からなかった。そもそも、なんで自分がタイムリープしただけで妹の芽衣香が成人の姿でタイムスリップをしなければならないのか理解が追い付かない。俺は、本当の芽衣香が気になった。すぐさま、ここを出て芽衣香を守らなければならない。


「ここの芽衣香は、まだ大丈夫よ」


 しかし、政倉コーチは俺が考えている事が分かっているのか俺が行かなくても大丈夫だと止めに入った。その後に、妹の名前を名乗る理由を語った。


「貴方が大会に出る事で、事件が発生するのよ。それが原因で、家族が崩壊の道へと進んでしまうの」


 政倉コーチが言うには、三郎丸中学校のいかつい男に絡まれる事で奏ちゃんがその男を殺すそうだ。それを見た俺は、奏ちゃんに気絶させられ行方不明になる。


 俺が、行方不明になる事で母親は病んでしまった。そして、その影響で家族の雰囲気が悪くなるのだ。母親が、俺の部屋に入って引き籠る事で目障りだと感じた父親は姉と盛大に喧嘩をしてしまい姉は家出をして姿を隠した。


 それで、父親は母親を無理やり引き摺り出して施設に預ける。その後に、友希と芽衣香は親戚の山中やまなかさんの所に預けられ、父親は不倫相手を作って姿を消してしまう。


「とんでもない話だ……。俺が、過去に戻っただけでこんな事に……」


「しかも、預けて貰った山中さんも酷かったのよ」


 その山中さんが、とても暴力的で虐げられていたとの事だ。その生活に、耐えられなくなった次女の友希が首を吊って自殺してしまい、それから一人でこの生活を耐える事になった。芽衣香は自殺をしてしまった友希の様に死ぬ事だけは考えなかった。


「それで、このように戻ってきたって話か?」


「そうよ。事の発端を止めれたのは良いけど、まだ気がかりな事があってね。こうやって居させてもらってるわ」


「気がかりな事って、もしかすると奏ちゃんと接触したいかつい男に何かあるのか?」


「そういう事よ。誰かの差し金で、こうなってるのかもしれないわ」


 俺は、芽依香の言葉に少し理解できた。しかも、大会に出場したらと言ってるので試合に直接関わっている人が目をつけてあの男と接触させる様に仕向けたのかもしれないと思った。


「それより、私が貴方に取った昨日の態度はあくまでもメッセージだったの。貴方が、私の事を不自然に思えばここに来るんじゃないかってね」


「なるほど、確かにコーチがタイムスリップするから俺の周りが変わったとなれば辻褄が合うな」


「年下の兄貴に、コーチって言われるのはなんか不思議ね」


「うるせぇ、今はそれどころではない。真面目に答えろ」


「そこまで怒らなくてもいいじゃない」


 芽依香は、傲慢的な態度で俺に冗談を言ってきたがそれどころではないので指摘した。芽依香は、俺の質問に真面目に答えようとした時に奏ちゃんが相談室に入ろうとしてきた。


「まさ君? コーチ? お話の途中、申し訳ないのですが……。うぉっぶ!?」


「奏ちゃん!?」


「心配しなくてもいいわ。眠らせただけよ」


「なんで、飯倉コーチが?」


「貴方も、尾崎君をお助けキャラにしているように、私も彼女をお助けキャラとして活用しているだけよ」


 飯倉コーチは、他の人達にバレない様に奏ちゃんの背後を狙って眠らせたのと同時に俺らを隔離した。


「なんで、その事を知ってるんだよ?」


「そりゃ、何回も移動を繰り返していれば嫌でも貴方の秘密は知ってしまうの」


「質問が増えてしまうが、なんで飯倉コーチを利用する?」


「本当に増えすぎてるわね。でも、いいわ。一つずつ答えてあげる」


 政倉コーチと名乗る芽衣香は、理解が追い付いていない俺の為に一つずつ答えてくれた。まずは、飯倉コーチについてだが芽依香は飯倉コーチの弱みを握って利用しているそうだ。やり方が酷いと思ったが、彼女自身も酷いと認識しているそうだ。しかし、そのやり方しか分からないと俺の反論を一蹴した。


 そして、次に俺の周りに起きている事の変化について答えてくれた。この件は、俺の行動を変える事で未来が変わるのだがそれだけでは難しい事も変わっている。まずは、俺が知らない大人気ラノベ小説「アクマンスレイヤー」についてだ。


 芽衣香が、この世界に暮らす為に経済力をつける方法としてこの時期に流行るラノベ作品である「ゴーストブレイド」の前にこの作品を先に発売させて人気作品を上書きしたそうだ。


 「アクマンスレイヤー」と言う作品は、ネット小説で投稿されるのだが「ゴーストブレイド」と言う作品の丸パクリだという事で問題になったとの作品だ。


 だが、芽衣香がこの作品を先に持っていく事で逆に「ゴーストブレイド」と言う作品を書いた作者が、話の内容を丸パクリをしたとして裁判になったそうだ。


「その作家は、離婚して妻と子供と別れて実家の方へ帰ったらしいわ」


「離婚して引っ越しとなれば、聞いた事はあるがな」


「その作家の本名は、原江良助はらえりょうすけと言ってね。その子供があなたと同じ学校に居たらしいわ」


「それは、福西中学校一年一組の原江奈月はらえなつきの事か?」


「そうよ。それが、二つ目の答えね」


 本来であれば、原江さんの父親は作家として家族を養えていた。それに加えて、娘の奈月は福西中学校の部長として女子卓球部を引っ張っていけるぐらいに輝いていた。しかし、芽衣香の行為で全て無くなってしまった。


「話は長くなるけど、これに関してはそうしないといけなかったのよ」


「話が長くなるのであれば場所を改めてくれないか?」


「場所は、私が作ってあげる。私の人生を豊かにしてくれた機械があるからね」


 芽依香は、その機械であるタイムマシンを俺に見せびらかしながら起動した。しかも、そのタイムマシンはスマホの様な形をしていた。


「貴方の目標を協力する代わりに、貴方も私の計画に協力して欲しいわ」


「考えさせてくれ、まだ話が終わってない」


 変わり果てた芽依香が、手に持ってるタイムマシンで俺と共に時間を移動してそこで話すとの事だ。


「貴方を、十分に納得させてあげる」


 俺は、変わり果てた芽依香に肩を触られる事で謎の光に包まれながら時間を移動する感覚に襲われたのだった。

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