第33話 女子卓球部

 俺の家族は、奏ちゃんの事を家族の一員の様に受け入れているので、今日はご飯がない事を聞くと奏ちゃんの分のご飯を用意してくれた。


「ゆっくりしていってね」


「ありがとうございます」


 今日のご飯は、ハヤシライスと味噌汁、回鍋肉の三食だった。二人の食事が、机の上に並び終わって母親は部屋を後にした。俺は、二人きりになると同時に話を持ちかけた。


「どうして、あの人達が辞めさせる様な事をしたんだ?」


「まさ君の事が、好きだと言っていたから取られるのが怖いと思ったの」


 確かに、他の女子からの目線は痛いほど光っているのが分かっていた。しかし、その理由で相手を陥れるのはやり過ぎだと思った。


「奏ちゃんは、恨まれてる自覚を持った方が良いかもな」


「まさ君が、そう言うなら……」


「お前が恨まれると、俺まで恨まれてる気分になるんだ。それに、お前が居なくなるのが怖いんだよ」


「まさ君、それは大丈夫だよ。僕らはいつまでも一緒なんだから」


「いつまでも居たいから忠告してるんだ。だけど、誰かに恨まれると嵌められる事もあって一緒に居れなくなるかもしれないから怖いんだ」


「僕もそれだけは気をつけてるよ」


 俺は、何も言わずに奏ちゃんの側に寄り添って手を握った。ご飯がある事を気にせず、俺と奏ちゃんは混じり合う事でお互いの気持ちを確かめる事ができた。


 次の日、学校の時間が終わって部活の時間になった。しかし、卓球部は先生とコーチが用事で居ないので急遽休みになった。俺は、数学の宿題が終わってなくて居残りを食らったので奏ちゃんと二人で勉強していた。


「まさ君、ここも間違ってるよ」


「げっ!? マジで!?」


 俺は、数学と英語が大の苦手なのだ。実際に何個も間違っており、奏ちゃんに何度も指摘を食らう程だった。


「でも、大丈夫だよ。まさ君が、単位を落としてしまって高校に進学できなくても僕は面倒を見るからね。だから、心配しないで」


「いや、そう言う心配ではないんだけどな」


 俺は、そう思いながらこっそり奏ちゃんのノートを覗き見して答えを写した。俺は、奏ちゃんに怒られると覚悟していたが奏ちゃんは違う方向に目線が移っていた。


「奏ちゃん?」


 俺は、奏ちゃんが見ている方向に目を向けると、そこにはナイフを手にしている中野さんが廊下に突っ立っていた。


「見つけたわ。尾崎奏!!」


 そう叫びながら、中野さんは奏ちゃんに突っ込んでいった。しかし、返り討ちにあった中野さんはすぐに気絶した。


「奏ちゃん、大丈夫か?」


「心配してくれてありがとう。でも、この後どうしようかな」


「それは、心配しなくても良いわ。私が、連れて行って調教しとくから」


 俺らの背後から、聞いた事のある声がしたので振り向くと芽依香が居た。芽依香は、大きめのキャリーケースを持ち運んでおり、その中に中野さんを入れ込もうとしていた。


「なんで、お前がここにいるんだ?」


「貴方達が、こういう事になると分かっているからよ。だから、急いで来たんじゃない」


「芽依香さんは凄いよ。やっぱり、未来人だったんだね」


 奏ちゃんは、芽依香に希望を抱いた様な目線を浴びせていた。奏ちゃんは、もし芽依香が来なければ中野さんを処分しようと考えていたそうだ。


「そう言う事か。それが原因で、問題が起きるから未然に防いだ訳か」


「そう言う事よ。それが分かったら、早く帰ってちょうだい」


「俺らは、まだ数学の宿題があるんだよ。だから、終わったらすぐ帰る」


「はぁ……。早くしてちょうだいね」


 芽依香は、そう言って中野さんが入ったキャリーケースを持って教室を後にした。俺らは、早めに宿題を書き上げてから数学の担任に提出して学校を後にした。


「もう分かっただろ? ああいう奴らが、これから増えるんだ。芽依香ばかりに負担を抱えさせるのはどうかと思う」


「ごめんなさい。今度は、恨まない様にたくさん恐怖に陥れなくちゃね」


「そんなやり方だと、また別の奴に狙われるんじゃないか?」


「そこは、配慮するよ」


 俺は、奏ちゃんの事が心配になった。確かに、こうなったのは俺の責任だと感じている。しかし、奏ちゃんの行いがいずれは返ってくるんじゃないかと心配になる。


「奏ちゃん、因果応報って知ってるか?」


「知ってるよ。だけど、まさ君の為にやってるの」


「でも、今回は私利私欲だろ? 俺は、一言も頼んでない」


 奏ちゃんは、黙り込んでしまった。今回の件に関しては、奏ちゃんの勝手な思いで相手を踏み躙っている。


「俺は、あの人達の味方をしている訳でないし俺は奏ちゃんの事が好きなんだ。だから、慎重に行動して欲しいんだよ」


「なら、約束してよ。まさ君は、僕を裏切らないって」


「裏切る訳ないだろ。誰のお陰で、楽しく過ごしてると思ってんだよ」


「だけど、心配で胸が痛くなるの! まさ君が好きなの! 好きすぎるの!」


 奏ちゃんは、泣きながら自分の思っている事を口にした。それを見た俺は、思わず奏ちゃんを抱きしめた。


「約束する。絶対に、奏ちゃんを裏切ったりはしない。だから、泣かないでくれ」


 奏ちゃんは、俺が何処かに行ってしまいそうで怖いと言っている。俺は、信用されていないのではないかと思ったが奏ちゃんは信用したいから常に疑ってしまうと俺の胸の中で本心を語ってくれた。


「無理をさせてごめんな。だが、これが終わったら二人だけの世界を約束する。いや、約束させてほしい」


 俺は、奏ちゃんと俺らの家族さえ幸せに居てくれれば良いと思っている。だからこそ、この約束を交わす事にした。


 俺が事件に巻き込まれず、平和に暮らしていれば家族も崩壊しないと考えている。それは、俺だけではなく妹達もそうだ。だからこそ、奏ちゃんや妹達が死んだりして居なくなるのが怖いと思っている。俺と奏ちゃんは、お互いの本心を語った後は何事もなく家に帰った。


 それから、次の日になると中野さん以外のメンバーは『こころの教室』という場所ではあるが学校に通っていた。この教室は、クラスに馴染めない人や不登校の人が少しでも学校に来れる様に設置された教室である。心理カウンセラーの人が居るので、不登校になったメンバーがクラスに戻れる様にアシストしてくれると言う仕組みだ。


 俺は、奏ちゃんがどんな手を使ったのか気になるが何も言わない事にした。とにかく、女子卓球部は団体戦には出れる人数なので心配はしていない。ただ、戦力はかなり削がれているので県大会には行けないだろうと考えている。


 それから、何事もなく日にちが経過していった。終業式が終わり冬休みになってから、先生達は大会に向けて準備を始めていた。大会まで残りわずかではあるが、今からでもダブルスのメンバーを決めるのも遅くはないと俺も思っている。


 一軍メンバーのダブルスは、舞谷先輩と堤先輩が選ばれた。カットマンと攻撃型のコンビは、攻守が揃っているので安定するのに人気の組み合わせだ。その中で、協調性のある二人となると俺の中で期待が膨らんでいる。


 二軍メンバーは、久原先輩を筆頭に作られたメンバーである。一軍は、久原先輩以外の先輩達で構成しているので、一軍全員は休む事なく全試合出場するとの事だ。


 ダブルスに関しては、俺と山本君が選ばれる事になった。山本君は、中国式ペン型ラケットを使用しているので一応攻撃型ではない戦術である。しかも、山本君は初めての大会なので俺にアシストされながらでも本番に戦える様に強化すると先生達は語った。


 俺が気になっている女子卓球部は、カットマンの山本やまもとさんと攻撃型の権藤さんがダブルスに選ばれる事になった。女子卓球部は、全員で九人いるのでしっかりと交代しながら試合に挑むとの事だった。


 ダブルスに選ばれたメンバーは、大会になるまでの練習時間をダブルスに当てる事を命じられた。俺は、山本君と二人で今大会を乗り切る為に努力する事になった。

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