第39話 新年度に向けて

 鷲取中との激戦が終わり、次はグループ代表トーナメント戦になった。一回戦の相手は、Eグループ代表である同じ早良区の銀竹中学校一軍であった。


 相手は、二年生の中で強い奴が揃っているので、安定の如くボロボロに負けてしまった。だが、奏ちゃんだけは負ける事なく勝ち取ったのだ。俺らは、一回戦で敗北したので福西中の皆んなは大会の途中で帰る事になった。


 それから、新年を迎え終わってから三学期が始まった。その間に、生前の時と同じ様に辞めていく人は辞めていった。


 久原先輩は、テストの成績が悪いそうだ。しかも、もうすぐ受験生なので勉強に専念したいと言う事で二月の上旬に辞めてしまった。他にも、笠さんや立川さん、寄能さんの三人も三学期中に辞めてしまった。


 だが、俺が一番に阻止したいのは高目君である。高目君は、二年生に進級すると同時に部活を辞めてしまうからだ。理由については、自分の精神疾患に罪悪感があるので部活に行きずらくなり辞めると宣言する。


 なので、高目君の持病を受け入れる態勢を整えなければいけない。来れなくても、せめて席だけは残しておいてほしい。無理に来させるのでは無く、持病と十分に闘える環境を整えれば自然と来てくれると思った。


 俺も生前では、一年の時にクラスに馴染めなくてトイレに篭っていた。しかし、二年になってからは複数の人が話しかけてくれたのでクラスに馴染める様になり、トイレに篭る事なく授業に参加する事ができた。


 その事を、奏ちゃんに伝えるといつもの様に協力してくれた。ある日の練習試合の時に、高目君は頑張って来ていた。それを、見計らって俺らは高目君に声をかけた。今日の事や高目君の趣味など、居心地を良くしようとたくさん話題を振った。


 高目君は、日本全国の新幹線巡りにハマっているそうだ。なので、時間があれば新幹線を求めて旅行に出かける事が多い。俺は、新幹線の事は知らない。しかし、奏ちゃんは興味はないが知識だけは知っているそうだ。


 なので、高目君と奏ちゃんは楽しく新幹線の話をしていた。それから、学校がある日も俺と奏ちゃんで話しかけたりして高目君の理解力を深めていった。


 その成果として、休みの日でも高目君と遊ぶ事ができた。そして、高目君は俺らに自分の精神疾患について語ってくれた。


「俺達の事が気になるのか?」


「うん。どうしても、気にしちゃって居づらいんだ」


「だけど、俺と奏ちゃんは気にしてないよ」


「ありがとう」


 高目君は、自分の精神疾患で部活や学校を休みがちである。なので、大会や練習試合だけでも来れる様にと田尻先生から言われていた。


「でも、先輩達の目線が痛いんだ」


「あぁ、それは気にしない方が良い」


 俺は、正直に先輩達の評価を高目君に告げる事にした。誰しもが、高目君の理解者になれるとは限らない。しかし、俺と奏ちゃんは高目君を見捨てたりはしない。もし仮に、高目君を巡る派閥が生まれるのならその相手を即座に切り捨てると断言した。


 高目君は、申し訳ない気持ちを俺らに告げてくれた。無理に来れなくても良いので、せめて席だけ残しておいてほしいとお願いした。席だけ残しておけば、先輩達が卒部してからは自然と部活に来れやすくなるし、山本君も日高も高目君と仲が良いので心配はないと言う事を告げた。


「二人とも、ありがとう」


「とりあえず、先輩達が卒部するまでだな」


「うん。でも、清瀬君達と楽しく卓球がしたいから頑張って来るよ」


「あぁ、いつでも待ってるよ」


 それから、高目君は少しずつ練習に顔を出してくれた。先輩達は、高目君が居ても気にしてない様だ。それでも、俺と奏ちゃんで高目君と楽しく話し合った。山本君も、高目君とゲームの話で盛り上がっていた。なので、高目君に関しては山本君と奏ちゃんに任せれば大丈夫と確信した。


 後は、新年度に向けての後輩集めが次の目標となる。その為には、奉仕活動を阻止せねばならない。皆んなで、部活をサボっていたばかりに先生にバレてしまい、トイレ掃除をしなければならなくなった。


 それを見た後輩達は、入部する事を拒否したのだ。しかも、女子だけが四人も獲得できたのだ。だからこそ、俺らも後輩を獲得せねばならない。


 タイミングとしては、始業式後の練習だ。その次の日が、入学式なので先生達は準備で来るのが遅くなる。その事を良い事に、来るまで遊ぼうと気をぬかしていた。俺も、その頃は台に入れて貰えなかったのでどうでも良いと思っていたがこの気持ちが仇となった。


「良い方法が浮かばねぇな」


「なら、僕に任せてよ」


 奏ちゃんは、この問題の打開策を俺に提示してくれた。奏ちゃんの打開策は、奏ちゃんの偵察兵を利用した作戦である。しかし、偵察兵が学校に侵入して田尻先生を監視するのはかなり不安に感じた。


 しかし、芽依香から突然の電話で奏ちゃんの作戦を拒否した。芽依香は、自分がコーチとして練習を見に行けば良いのではないかと俺を叱った。


「しっかりしなさいよ。何のために、私がコーチとして居ると思ってるのよ」


 俺は、芽依香に相談すると言う方法を浮かぶ事ができなかったが、叱られたお陰で根本的な事に気づいた。


 俺は、先輩達の評価に囚われすぎていた。確かに、サボらせない様に声掛けをするのは大事だが、生前の経験もあるので先輩達を動かせる程の自信が無かった。しかし、俺より格上の立場にいる芽依香が来れば皆んなはやらざるを得なくなるので、バレる以前に解決できると感じた。


「俺って、馬鹿だな……」


「本当よね。しっかりしてほしいわ」


 芽依香がタイムマシンで見た未来は、田尻先生を監視している偵察兵から準備が終わってこちらに向かってくると奏ちゃんは連絡を聴いた。奏ちゃんは、俺と共に先輩達を練習する様に問いかける。


 しかし、それを聞かなかった先輩達のせいで田尻先生にバレてしまい、奉仕活動をしなければならなかった。そのせいで、男子卓球部は誰も入部しなかった。俺らの言う事を、聞かなかった先輩達に恨みを持った奏ちゃんは先輩達を人生のどん底に陥れた。


 だが、それが原因で男子卓球部は団体も組めずに廃部になってしまった。俺は、『生きてる意味が無い』という言葉を手紙に残して自殺するそうだ。


「確かに、そんな状況になってしまったらやり直す為に自殺しそうだな」


「本当に馬鹿ね。だから、尾崎君とは別れた方が良いって言ってるのよ」


「すまんが、恩人に仇で返したくは無い」


 俺は、奏ちゃんのお陰でここまで楽しく過ごしている。だから、それを台無しにはしたくない。俺は、芽依香に頭を下げて協力してくれる様にお願いした。もちろん、許可はしてくれたので感謝を伝えた。


 運命の日は、入学式前日の四月七日である。俺らは、新学年になってクラスも変わる。そんな初々しい気持ちに浸りながら、新しく後輩を受け入れる事になる。そんな日だからこそ、俺らは気を引き締めなければならない。


「分かってるわよ。だから、私は貴方の為に何度も戻ってみせるわ」

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