第29話 手伝う理由
目が覚めた俺は、死後の世界でいつものおじさんと無言で見つめ合っていた。
「何やってのじゃ、あんたは」
「ごめんなさい。人が死んでしまった以上、やり直すしか無いと思ったんです」
「そもそも、根本的な所から間違ってんのじゃがな」
「しかし、奏ちゃんと繋がってると上手くいきそうな感じがしてくるんです」
「はぁ……。尾崎奏に関しては、もう何も思わん様にしようかのう。じゃが、今度は別の厄介者が来てしまったようじゃな」
俺は、厄介者と聞いて田浦の顔を一番に思い出した。おじさんに田浦の詳細を尋ねると、おじさんはため息を吐きながら説明してくれた。
「あいつは、同じく殺し屋で中国の殺し屋訓練所から日本の殺し屋家業に買われた者じゃよ。しかも、尾崎奏と敵対している組織に所属しているから厄介なんじゃ」
「だから、奏ちゃんの調教に屈しなかったんですね。だけど、芽依香はそれを分かってると思うのですが何をされてたんですか?」
俺は、次に芽依香の事が気になった。芽依香は、俺が事件に巻き込まれる事で悲惨な人生を送ってしまう。だから、それを止めるために助けに来る筈だと思っていた。だが、俺は芽依香の事まで頭が回っておらず目先のタイムリープの事しか思いつかなかった。
「お前さんを、助ける為に学校に来ておったが田浦の襲撃に遭ってしまったんじゃ」
俺は、芽依香が経験した出来事を回避できた事により安心していたので芽依香の事はすっかり忘れていた。おじさんによると、芽依香の未来は変わらなかった。
理由は違うが、自分の家族が崩壊するのでもう一度過去に戻って俺を助ける為に動いていたそうだ。だが、田浦を止める際に襲撃に遭ってしまったので俺を助ける事は出来なかった。
「奏ちゃんよりやばいですね」
「そうじゃよ。じゃから、旅館に行くのは辞めた方がええと思うんじゃ」
「しかし、奏ちゃんと一生懸命決めた場所なんです。だから、田浦とは出くわさない様にするしか無いと思います」
俺は、なぜ田浦が来ていたのかは覚えている。田浦は、自分の仕業で彼女を寝取られたのでは無いかという懸念を抱いた一法師の誘いで旅館に来ていた。
「そこら辺はお前さんに任せる」
しかし、俺は奏ちゃんと旅館に行きたいと思っている。おじさんによると、田浦が俺らを見たのは温水プールの時なのでプールに行った時間帯をずらせば田浦と会う事は無いと言った。
「なので、その時間帯に飛ばしてください」
「今度こそ頼んじゃぞ」
「分かりました」
俺は、おじさんに励まされながら心の準備が整った。しかし、一つだけ疑問が頭の中に浮かび上がった。
「あの、ひとつだけ聞いて良いですか?」
「なんじゃ?」
「なんで、おじさんは僕に協力をしてくれるんですか?」
「お前さんは、まだ思い出さんのか?」
「え? どういう事ですか?」
おじさんは、ため息を吐きながら俺に何度か質問をぶつけた。
「お前さんが作った小説はなんじゃ?」
「タイムリープ系の作品ですね」
「その中に、どんな設定があったんじゃ?」
「精神的にタイムスリップする設定ですね」
「なら、どうやって戻るんじゃ?」
「死後の世界で見知らぬ人と……。あっ!?」
「そういう事じゃ」
俺は、思い出した。このおじさんは、俺が生み出したキャラとそっくりだと感じた。俺が趣味で書いた作品では、不慮の事故で亡くなってから死後の世界で見知らぬ人と会う事で過去に戻ると言う設定を作っていた。
「ここは、精神世界なんじゃよ。自分が思っているように作られるのがこの世界じゃから、お前さんが積み立ててきた世界なんじゃよ」
「そう言う事だったんですね。だから、俺の想像が反映してこのように過去に戻る事ができたと言うのですね」
「そういう事じゃな」
俺は、納得の反応をおじさんに見せた。おじさんも、少し優しくなっているのでとても安心して過去に戻れると感じた。
「では、改めて行かせていただきます」
俺は、自分から川に潜り込んでタイムリープを試みた。息が苦しくなってから、起き上がると自分の部屋に戻っていた。カレンダーを見ると、旅館の日になっていた。しかも、奏ちゃんと駅で集合する一時間前に戻っていた。
「では、もう一度楽しむとするか」
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