第30話 三回目の挑戦

 俺は、急いで準備をして奏ちゃんの家に向かった。早く来たので、奏ちゃんは驚いていたが出発までゆっくりしていた。


「旅館に着いたら、すぐプールに行こうよ」


「いや、俺は先にゲームがしたいな」


 旅館に居れるのは、今日を含めて二日間である。前回の二日目は、夕方まで気絶していたのでろくに楽しめなかった。しかし、今回は楽しむ事だけを考えずにしっかりと奏ちゃんを守る事も考えなければいけない。


 それから、出発の時間になったので俺らは一緒に集合する筈だった駅に向かった。俺は、気持ちが舞い上がってしまったのでプールに言うはずだった感謝を先に伝えた。


「奏ちゃん、いつもありがとう」


「ううん。こちらこそ、感謝してるよ」


 俺と奏ちゃんは、新幹線に乗ってから感謝の気持ちを交わし合った。俺らは、お互い意識しながら手を繋いだ。とても、恥ずかしかったが良い時間を過ごしていると感じている。


 奏ちゃんの手は、女の子の様に柔らかいと思った。とても居心地が良いと思っていると、いつの間にか目的地に着いた。目的地の旅館に着き、予約された部屋に入ってから俺らは少し休憩をする事にしたので先に前回の出来事について相談しようと思った。


「奏ちゃんに相談したい事があるんだ」


「ん? どうしたの?」


「実は、この出来事は二回目なんだ」


「え、どういうこと?」


 俺は、前回の出来事を真っ直ぐに伝えた。奏ちゃんは、驚きを隠せてないが俺の説明を受け止めた様だ。俺が、タイムリープしている事は理解済みなので、後は立ち回りを理解できる様に伝えた。


「そうだったんだ。なら、その田浦って言う人に見つからない様に楽しめば良いって事だね」


「そう言う事だ。だから、申し訳ないけど協力してほしい」


「うん。まさ君の為なら何でもするよ」


 そう言う事で、俺らは結託する事ができた。最初は、持ってきたゲーム機で奏ちゃんと通信して遊ぶ事にした。山本君と流行っているゲーム「龍竜ハンターRG」を、奏ちゃんと協力プレイで遊ぼうと思う。


 その前に、奏ちゃんは自分の部下を呼んで田浦達の行動を監視させる事にした。勿論、三郎丸中の永留一派も監視の対象者である。


 俺らがやっているゲームは、世界を支配したドラゴンを狩るという分かりやすい設定のゲームである。しかし、そのドラゴンの迫力があまりにも強いという事で世界で有名になったと言う伝説のゲームだ。


 狩るために必要なのは装備である。俺の装備は、「暗黒竜ブァイニール」の素材から作った装備を使っている。奏ちゃんは、「黄金竜ムーバランド」と言う伝説竜の素材から作られた装備を使っている。


 今回狩るのは、「青龍神グレジオン」と言う東大陸のボスドラゴンを狩る事にした。俺の装備だけではかなり困難であるが、奏ちゃんの装備は火力や威力などのステータスが伝説級なので挑戦する価値があるのだ。


 だが、このボスは結構強かった。五回目の挑戦で勝つ事ができ、装備素材を獲得する事もできた。終わったと思って、時間帯を見るともう夕方になっていた。


 前回では、プールから帰ってきてご飯を食べていたので、ゲームをセーブしてご飯を頼む事にした。


「奏ちゃんは、どれにするんだ?」


「僕は、まさ君と同じので良いよ」


「前回も同じ事を言っていたよ」


 それを聞いた奏ちゃんは、少しムキになってメニューを決めた。俺は、奏ちゃんのそう言う反応に可愛く思ったので今回は俺が奏ちゃんに合わせた。すると、奏ちゃんの部下が報告しに来た。


「田浦という人物は、プールから帰ってきており自室に居ます。その他は、ビリヤードコーナーに居ます」


「分かった。ありがとう」


 その報告により、無駄に動く事はやめる事にした。しかし、俺らの部屋は露天風呂が付いているので今回はプールに入らずに露天風呂に入ってゆっくりする事に決めた。


 そして、注文したご飯が来たので奏ちゃんと楽しく食べ合った。勿論、高級料理であり奏ちゃんの父親が料金を持ってくれている。


「人の金で食う飯は美味いな」


「ん? なんか言った?」


「いや、なにも言ってません」


 そんな感じで、今のところ計画通りに動けている。四人テーブルで二人なら、普通の人は対面で食べると思うが、俺らは横に居座って食べている。しかも、お互いの肩がくっつきそうなぐらい距離が近い。


 そんな感じで、俺らは楽しく食べ終わった。ゲームの話や、これからの卓球部に向けての話をしていた。


 生前では、そんな充実した話をする事はなかったけど今では信頼できる友達がいる。しかも、暗黒だった中学時代を照らしてくれたのは奏ちゃんのお陰だ。


「奏ちゃん、背中を流してあげるよ」


「ありがとう、まさ君」


 それから、俺らは露天風呂で背中を流し合っていたがいやらしいムードになり奏ちゃんは俺に抱きついてきた。


「そ、奏ちゃん!?」


「もう我慢できないよ、まさ君」


 俺は、奏ちゃんを抱き返した。俺も奏ちゃんとエッチな事をしたいと思っている。俺は、男同士でも恋人になりたいんだと奏ちゃんに強く訴えた。


「今まで、我慢させてごめん」


 奏ちゃんは、泣きながら俺との出会いにかなり感謝していると訴えに答えてくれた。それから、俺らは今まで以上に愛高まる行為をした。奏ちゃんは、初めてなので優しくしているが相愛の気持ちは過去一である。


 息切れをしながら、俺らは露天風呂から上がった。しっかり、身体を拭いてから着替えて布団を敷く事にしたのだが、奏ちゃんが一緒に寝たいと提案してくれたので一つだけにした。


「よし、もう寝ようか」


「今日はありがとね。凄く良かったよ」


「こちらこそ」


 俺が、電気を消して布団に入った。その刹那、奏ちゃんの部下が息を荒げながら部屋に入ってきた。


「いきなり、申し訳ありません! 緊急事態です」


「ど、どうしたの?」


 折角、気持ち良く寝れると思ったのに部下の慌てた様子により台無しの気分になった。


「田浦・永留一派と政真様がおっしゃっていた一法師様との間で、暴力が行われておりますがどうなされますか?」


「あぁ、助けて貰えれば助かります」


「かしこまりました」


「確か、一法師君という人は練習試合でやった様な感じがする」


「そうだよ。しかも、あいつは正義感が強い奴だから仲間になってくれるかもしれない」


 部下の人が、俺の指示に従ってくれた。奏ちゃんが、分かってない様子なのでもう一度説明する事にした。


 田浦の差し金である男に、三年間付き合っていた彼女を寝取られた。その事により、一法師は田浦の闇を暴こうと旅館に誘い込んだ。


「けど、わざわざ旅館に誘い込まなくても良かったんじゃないかなと思うんだけど」


「まぁ、二人でゆっくりと話したかったんじゃないかな」


「なら、僕が調教して二度と歯向かわないようにしてあげる」


「いや、それは辞めといた方が良い」


「え、なんで?」


「無駄に関わらない方が良い」


「でも、もう関わってるから逃げられないと思うけど」


「そうだった……」


 俺は、この事件について関わらない方が良いと感じてしまった。一法師を助ける事で、仲間になってくれるんではないかという目先の利益に囚われていた。


「なら、僕らの殺し屋に依頼してくれれば、実行するけど」


「いや、それは……」


「早く決断しないと死んじゃうよ」


 その言葉に俺は、何かに目覚めたような感覚になった。確かに、今まで残酷な事までしといて都合が悪くなると躊躇するのは命取りになると教えられた。


「なら、中学校三年間の人生を奏ちゃんに捧げる。だから……」


「だから?」


「だから、殺し屋である田浦を殺してくれ」


「分かった。報告するね」


 俺は、もう普通の人には戻れない感覚に襲われた。奏ちゃんが、報告している間にも止めたい気持ちに駆られている。しかし、その中途半端な気持ちが命取りになるのだと言う事も頭によぎってくる。


「ちなみに、永留一派はどうするの?」


「あいつらは、プロの拷問師に頼んで長きに渡って拷問してくれ」


「分かったよ。大体、二週間程度がベストだよね」


「そこら辺は、奏ちゃんに任せる」


 俺は、やってしまったからには覚悟を決めなければいけないと感じた。なので、田浦の被害者がこれ以上増えないように奏ちゃんに頼み込む事にした。


 何かを犠牲にしないと、何かを救えない事はこの身を持って味わう事になった。

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