第31話 新しい自分へ
覚悟を決めてから、次の日の朝になった。俺は、いつの間にか寝てた事に驚く程ぐっすり寝ていた。しかも、奏ちゃんの何事もなかったかのような寝顔にとても不思議な感情が芽生えてきた。
「起きれたのですね。政真様」
「あれ、その後はどうなったのですか?」
奏ちゃんの部下が、わざわざ正座をして俺らが起きるのを待っていたので俺は申し訳ないと思った。
「その後は、一法師様を助けた際に田浦と永留一派は、気絶させてから我々が引き取らせて頂きました」
「引き取ったって事は、まだ殺してないって事ですよね?」
「そうですね。田浦に関しては、坊ちゃんの提案に従いまして島流しとなっております」
「そうなんですね。なぜ、すぐに殺さなかったのですか?」
「坊ちゃんは、政真様に気を遣われたのでしょう。島流しと言っても、本人次第では死ぬ事に設定してますので」
奏ちゃんの部下は、奏ちゃんがどう考えているのかが手に取るように分かるそうだ。島流しと言うのは、気絶させた田浦を小船に乗せて何処か遠くへ行かせる為に海に流すのが島流しと言うらしい。
田浦を、縄で縛って身動きが取れない様にした。それと同時に、船の周りに人の血を塗りたくって鮫に襲われやすい様に仕掛けた。
これも、全て奏ちゃんが考えた事であった。すぐに殺すと、俺が殺人を犯したかの様になるのであくまでも田浦の実力不足で亡くなったと言うように責任転換ができると言う事でその方法を選択したようだ。
「それで、田浦はどうなったんですか?」
「あの人は、島流しの最中にサメに襲われて亡くなりました。明らかに、事故に巻き込まれてしまいました」
「さっき、まだ死んでないって……」
「嘘をついて申し訳ありません。しかし、生きるか死ぬかは彼次第なので政真様は関係ありませんよ」
「それでも、俺が言わなければそんな事にはならなかったと思うのですが……」
「いえ、彼なら関係ありません。散々、人の恨みを買われる程の事をしてきたのですから」
「それでも、俺は普通の人には戻れません。間接的ですが、人殺しをした様なものです」
「あれ……? まさ君?」
「恋人が起きられましたよ」
奏ちゃんは、目を擦りながら俺の方へと肩を寄せた。俺の肩を枕にして、また寝てしまった奏ちゃんを見て俺と奏ちゃんの部下はほっこりとした。
「とにかく、政真様は人殺しではありませんのでご心配なく」
奏ちゃんの部下は、そう言って姿を消した。俺に気を遣って直接手を下さなかったのは、あくまでも鮫が殺したと言う様にすれば俺が病まずに済むと思ったからだそうだ。
病むかどうかは、俺でも分からないが奏ちゃんの気持ちは受け取る事にした。奏ちゃんが、こんなにも残酷な世界に入っていたのだと思うと俺も奏ちゃんに気を遣われてる暇はないと思った。
奏ちゃんが、目を覚ますまで俺は奏ちゃんに膝枕を施していた。勿論、目が覚めた奏ちゃんは顔を真っ赤にしていた。そんな奏ちゃんに、見惚れていた俺は事が済んだので思いっきり遊ぶ事にした。プールに行ったりビリヤードをしたりと、今までの残酷な出来事を忘れるぐらい楽しく遊んだ。
「まさ君! 最後に卓球して帰ろうよ!」
「あぁ、受けて立つ」
俺らは、時間になるまで卓球をした。数日しか経ってないのに俺は久しぶりに卓球をやる感覚だった。
奏ちゃんのカウンタースマッシュには、とても返しようがなくて困る。しかし、仲間だからこそ心強い一面もある。生前では、居なかった素敵な仲間がいる事で勝敗よりも一緒に卓球をやれる事が俺の目標になっている。
「正直に言うと、俺は勝敗なんてどうでもいいんだ」
「それって、負け惜しみなの?」
「あぁ、負け惜しみだよ。けどな、奏ちゃんなら全く悔しくないな」
俺らは、楽しそうに受け答えをしている。確かに、今の俺では奏ちゃんには敵わない。だけど、奏ちゃんを非日常から少しでも脱却できる様にサポートしていきたいと感じた。
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