第42話 チームの戦力

 生まれ変わった目崎を見て、俺は違和感を覚えつつ申し訳ない気持ちになっていた。目崎の身体を見ると、小指の爪が剥がれていたり数カ所に色んな痣や傷跡が付いてたりとかなり鳥肌が立ってしまった。


 改めて見ると、奏ちゃんが赤の他人じゃなくて良かったと思う。しかし、ここまでやるとは思っても無かったので純粋に目崎が可哀想に見える。


「清瀬部長、どうなされましたか?」


「あ、いや、えっと、あれだな。結構、頑張ってるな」


 俺は、目崎に声をかけられて驚いてしまったが目崎は生意気な態度を取る事はなかった。それを見て、周りの人達は驚いた目で見る事しかできていない。


「奏ちゃん、これはやり過ぎだと思うんだけどよ」


「まさ君、誰の為にやってると思ってるの?」


「そりゃ、有難いと思うよ。けどな、痕が付いてたら目崎の親が証拠として裁判に訴えてくると思うんだ」


「それは、大丈夫だよ。そうならない様にしてあるから」


 奏ちゃんは、目崎が二度と俺に歯向かわない様にした。だが、俺は少し引いてしまった所がある。だけど、奏ちゃんは俺の大切な親友であり恋人であるのは間違いないと思っている。


 実際、奏ちゃんのお陰で目崎は俺や他の同級生に敬意を払っている。それだけでなく、同じ学年の西田達にも素直で誠実的な態度で接している。


「これは、一件落着として捉えて良いのか?」


「そうだね。後は、芽依香さんが結果を知っていると思うよ」


「そ、そうだな」


 確かに、芽依香の情報や指示に沿って行動する事で問題が起きずに終わっていると思う。ただ、目崎を恐怖に陥れると目崎と関わっている奴らに目をつけられるのではないかと心配している。しかし、一つだけ違うのは田浦と違ってしっかりと拷問が効いている。


 それから、夏の個人戦も終わりお盆休みに入った。個人戦では、奏ちゃんが準優勝を果たした。その他にも、目崎が一年の部でベスト8と言う成績を収めていた。ちなみに、俺は四回戦で敗北してしまった。


 そんな事もありながら、俺らはお盆休みに入った。お盆休みでは、奏ちゃんと二人で温泉や遊園地に遊びに行った。もちろん、奏ちゃんはいつも以上に素敵な格好をしている。


 俺は、奏ちゃんとデートしている時だけは色んな出来事を忘れる事ができる。今では、生前の苦い思い出なんて懐かしくなる程に奏ちゃんの甘い匂いに包まれている。


 しかも、俺はしっかりと家族にも向き合っている。家族全員で、おじいちゃんの墓参りや焼肉を食べに行ったりと楽しく過ごさせて貰っている。


 そんなお盆休みも終わり、夏休み後半が差し掛かってきた。夏休みの宿題は、去年と同じで奏ちゃんと一緒に終わらせる事ができた。


 夏休みの練習では、去年と違って内容の濃い練習内容となっている。少しでも後輩が、試合に慣れる様にワンセットマッチの試合をルーレット方式でひたすら行なっている。


 ワンセットマッチの個人戦は、好きな人と試合をした後に勝った人が右側の台に移動して負けた人が左側の台に移動すると言うルールである。


 後輩達も、先輩相手に一生懸命戦っていたので実力や経験も上がってきている。ただ、一番驚いているのは俺の実力が上がっていると言う事である。


 個人戦の大会でも、生前では最高で一回戦突破しかできなかった。しかし、今では四回戦まで勝ち上がっている。それだけでなく、生前では団体さえ組めなかった男子卓球部が今では団体も組めるだけでなくチームの戦力が桁違いに上がっている。


「この調子で、俺らは強くなりてぇな」


「そうだね。僕も、まさ君と一緒に頑張るよ」


 正直言うと、俺は後輩である目崎より強くはないと思っている。だが、俺と対戦すると何故か怯えているので俺が勝ってしまう。しかも、俺の言う事は素直に聞いてくれるので目崎の問題は完全に解決した感じに見えた。


「後は、目崎君がまた調子乗らない様に対策を練らないとね」


「奏ちゃん、また何か企んでるのか?」


「そうだよ」


 奏ちゃんは、目崎がチームの乱れにならない様に制御しようと考えていた。目崎を、心の底から反省して改心できる様になるには恐怖だけではいけないと思っているそうだ。


 まずは、目崎が俺だけでなく他の同級生に敬意を払い続ける様にしてもらう。そして、同学年では楽しく話して貰えればそれで良い。


 後は、油断しない様に目崎の事を見張らなければいけない。俺らが、油断している所に事件を起こされれば今までの事が水の泡になってしまう。


 とりあえず、目崎は男子卓球部にとってかけがえのない戦力なので辞めて貰っては困るのは確かである。奏ちゃんは、目崎にとって楽しく思える部活にしたいと俺に話してくれた。


「なるほどな。飴と鞭が上手くできればお互い困る事は無いと言う事だな」


「そうだよ。ただ、これに関してはもう一人助っ人が必要になるかもなの」


「もう一人?」


 奏ちゃんは、ある一枚の写真を俺に見せてくれた。その写真には、卓球をしている海外の人が写し出されていた。


「この子は、僕達の一個下でアメリカと日本のハーフなの」


「一個下には見えないな。それに、このハーフの人がどうしたんだ?」


「二学期から、この学校に引っ越してくるの」


「マジで!?」


 俺は、またしても奏ちゃんに驚かされた。写真の子は、高身長で金髪の地毛をしているのでてっきり成人している人なのかと思ってしまった。


 この子は、中学のアメリカ代表に選ばれる程の実力を持っており、留学と言う形で俺らの学校に引っ越してくるそうだ。こんな凄い人が、無名の学校に来るなんて明らかに不自然としか思えない。


 ただ、奏ちゃんの父親がこの様な手配を済ましているそうなので二学期から来るのは確実だと言っていた。


「この様な子が、来る事でなんかあるのか?」


「この子が来てくれれば、目崎君の為にもなると思ったの」


「だけどよ、思うのは良いけどこんな大層な事を実現できるなんてすげぇな」


「目崎君の為とは言ってるけど、本当はまさ君が目崎君にやられない様にしてるだけだからね」


 奏ちゃんは、俺の夢の為に半年前からこの様な事を考えていたそうだ。確かに、ハーフの子が来てくれれば福西中学校は確実に強くなると感じた。


 俺は、アメリカの中学生の中で代表に選ばれる程の人が無名学校に来ると逆に練習にならないのでは無いかと思った。しかし、その様な心配は全くなかった。すでに対策として、別の所にその子のレベルに合わした環境が作られていた。


「まさ君、このチームが強くなる様に頑張ろうね」


 奏ちゃんは、俺の手を握って真面目な顔で言ってくれた。俺は、奏ちゃん達をまとめる事ができるか不安である。しかし、奏ちゃんなりに俺を支えようとしてくれているので福西中卓球部が強くなれる様に努力していきたいと奏ちゃんと誓い合ったのだ。

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