第43話 戦力の補強

 夏休みが終わって二学期が始まった頃に、奏ちゃんが言っていたハーフの後輩が本当に俺らの学校にやって来た。ハーフの子の名前は、マリウス・ビン・アジェフと言うアメリカから来た転校生である。


 アジェフの母親が、日本人であり小さい頃から日本語の教育も受けているので俺らと会話してすぐに打ち明ける事ができた。


 転校生が来たと言う事は、去年の奏ちゃんと同じ様に力比べの試合が行われた。アジェフの戦型は、俺や奏ちゃんと同じドライブ主戦型である。


 初心者である一年生の四人は、当然の様に負けており唯一の経験者である目崎にも圧勝した。二年生では、日高と高目君、山本君がラブゲームで負けていた。村部と俺は、たったの数点しか取れずに敗北しており、奏ちゃんだけが接戦の末に勝利を収めた。


「こんな、強くて凄い奴がこんな所に居て良いのかよ」


 村部は、山本君達とアジェフの事について驚愕しながら話していた。確かに、こんな凄い奴を来させるなんて人望があるにも程がある。


「奏ちゃんがしたかった事は、目崎より強い奴を同学年に居させる事で目崎の抑止力に高めるって事なんだな」


「そうだよ。でも、僕もこんな最強な子が来るなんて思って無かったから少し驚いてるよ」


 確かに、アジェフが居なければ一年の中で一番強いのは目崎になる。もし仮に、俺らが卒部すればまた調子に乗るかもしれないと予測していた。


 アジェフに関しては、ここに来る事に対して不満は全く感じてないそうだ。ただ、奏ちゃんとは裏でも繋がっているのでいつでも協力したいとの事だ。


 しかし、俺はかなり心配している。どんなに、奏ちゃんと裏で繋がっていようと本当にアジェフが裏切らないとは限らない。


 俺は、芽依香に電話で相談した。だが、芽依香からは別の事で気をつけてほしいと話を濁された。芽依香からすると、アジェフのお陰で目崎からの襲撃は無くなるとの事だ。


 俺は、何も言えない不安を噛み締めながらアジェフの練習する姿を眺めていた。アジェフの班は、俺のA班が一人少ないのでそこに入る事になった。


 俺の班には、目崎が居るので少し心配していたが思った程の出来事が無いので安心したまま練習が終わった。


「けどさ、わざわざ俺が部長にならなくても良くねって思うんだ」


「そうかな? 僕は、芽依香さんが本当に未来人として頑張ってると思うよ」


 俺らは、部活から帰りながら話していた。確かに、俺も少し考えれば芽依香が何を考えてるのかは理解できる。目崎は、自分より弱い人を先輩として見ない傾向があるので奏ちゃんの拷問技術でねじ伏せれば解決できる。


 しかし、芽依香が事前に村部の事を言ってくれれば、俺が奏ちゃんにお願いして止める事ができるので、俺が部長にならなくても良いのでは無いかと思う。


 だが、その事を芽依香に伝えた時は鼻で笑われた。俺が、部長になる事で村部の時よりメリットが増えると言う事だ。奏ちゃんも、俺の指示で他人を救うより俺を直接守る方が気持ち的にも質が上がっている。


 芽依香は、俺が部長では無い事に不満を持っている奏ちゃんを止めるには俺が部長にならないといけないと言う事だ。


「確かに、芽依香は俺の知らない所で苦労してるからな。尊敬はしてるんだ」


 俺は、芽依香がいつ寝てるのかも気にしている。未来に戻っては確認をして、問題の原因と対処法を考えてから過去に移動するを繰り返している。なので、知らないうちに助けられていると感謝している。


「僕も、感謝してるよ。芽依香さんが守ってくれなければ、いつまでもまさ君と居れないんだから」


 俺は、芽依香の説明の一部を思い出した。村部が、目崎の嫌がらせに耐えきれずに自殺した後は副部長である奏ちゃんがチームを引っ張らなければいけなくなる。


 田尻先生は、部長を村部の代わりに誰かを置く事はしなかった。奏ちゃんは、俺が部長に昇格させてほしいと言っていたそうだがその事は叶う事なく時が経つとの事だ。後の説明は、聞きすぎて嫌でも慣れてしまった出来事だった。


 それから、一ヶ月が経過した。レベルの高いアジェフが、同じ部活に居るので他の人達も自然と強くなっている。


 一ヶ月の間に、練習試合が数回行われた。同じ早良区にある銀竹中学校や何度も試合をした事のある鷲取中学校など去年と違って本格的に練習試合が行われた。


 練習試合をして思ったのが、やはり俺らのチームは確実に強くなっている。生前では、団体戦にすら出れない人数だったのに今では居ない筈の人達が一緒に戦っているのでとても楽しく思っている。


 ダブルスは、山本君と高目君が選ばれており新人戦もこのメンバーで戦うそうだ。この二人は、息の合ったプレイで相手を凌駕していた。高目君は、アジェフと同じ班なので一年間来れなかった分を取り戻す事ができている。


 山本君も、卓球を始めてから半年ぐらいしか経ってないが高目君と息を合わせれる程の上達が見て分かる。


 団体戦は、奏ちゃんを中心に俺や村部が交互で出場する事が多い。目崎やアジェフは、四番と五番を交互に出場している。


 こんな感じで、男子卓球部は他のチームから勝利を収める事ができている。俺は、練習試合であろうと団体で勝つ事はとても貴重で嬉しく思っている。


 今は、新人戦に向けての準備が始めている。今年の大会日は、十一月の上旬なので少し時間はあるが今からの方が効率は良いと思う。


 大会では、八人までがレギュラーに選べれる人数なので二年生全員とアジェフと目崎がメンバーに選ばれた。


 準備として、まずは一年生のユニフォームを決める事になった。一年生だけで集まって決めており、その間に俺達二年生は練習を始めた。


 もちろん、新人戦は高目君と山本君がダブルスメンバーとして出場する事になる。個人的には、日高と言うより西田をレギュラーに選びたいのだが先生達は日高を選んでいる。


 確かに、生前の日高よりかは意識も実力も良くなっているが西田の方が日高より強くなっているので、勝ちを取りに行くのであれば西田を選んだ方が最適だと思っている。


 そんな感じで、生前では体験できなかった練習内容を体験し続けてから大会前日になり、いつもの様に練習が終わって奏ちゃんと一緒に帰っていた。


「明日は大会かぁ。楽しみだな」


「そうだね。でも、明日こそ気をつけなきゃいけないんだよ」


「そうだけどさ、やっぱり今が青春ぽくて楽しいんだよな」


「それは良かったよ」


「あぁ、明日は何が起きるか分からないけど、それでも今の方が楽しいんだよな」


 俺は、奏ちゃんと他愛いも無い話をしながら手を繋いで楽しく帰った。


 

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