第41話 俺らの代
俺ら男子卓球部は、呆気なく試合に負けた。リーグ戦で全敗した後、決勝トーナメント戦で一回戦負けをした。女子も同じ結果で終了したので、後は個人戦だけになった。
個人戦では、なかなかの成績を残していた。成宮先輩と木下先輩は、四回戦まで勝ち上がっていた。そして、富永先輩と坂本先輩は三回戦突破を果たしており、堤先輩と舞谷先輩は一回戦突破を果たしていた。
俺の一回戦の相手は、三郎丸中の
俺は、四回戦の相手である東条学院中の
その他にも、奏ちゃんが準々決勝まで勝ち上がっていた。村部は、三回戦で敗北しており高目君と山本君は一回戦を突破していた。そして、日高だけが一回戦負けである。
後輩達も、かなり頑張っていた。西田と青木が一回戦突破を果たしており、行實と都築は一回戦で敗北していた。
だが、目崎だけがずば抜けていた。二回戦も三回戦も勝ち上がり、やがて準決勝まで勝ち上がっていた。
だが、俺らが団体戦で苦戦している間に終わっているので、俺ら福西中男子卓球部は奏ちゃんの試合を最後に帰る事になった。
「先輩、お疲れ様でした」
福西中に戻って、先輩達との最後の帰りの会が終了した。俺は、奏ちゃんと共に一人ずつ声をかけてお別れした。先輩達は、やっと部活に来なくても良くなったので楽しそうに帰っていった。
「何か、寂しいな」
「そうだね。でも、やっと僕達の代になったからこれからが楽しみだよ」
「そうだけどさ、次は誰が部長になるかで今後の事が決まるんだよな」
「それは、コーチと先生達で話し合ってるらしいよ」
俺は、寂しい気持ちになりながらも誰が部長になるのか不思議になっていた。それから、休みを挟んで新チームになった初日が始まる事になった。
「これから、部長と副部長をそれぞれ発表していく」
田尻先生の言葉で、皆んなの背筋が凍っている様に感じた。田尻先生は、女子卓球部の顧問なので女子から発表された。
女子卓球部の部長は、安永さんで副部長は野田さんに決まった。二人は、皆んなの前で決意表明を語る事になった。
生前では、原江さんが部長になり安永さんと中野さんが副部長になっていた。しかし、奏ちゃんと芽依香のせいでこの部活に居ないので安永さんが部長になってしまった。次に男子卓球部の部長と副部長が、小林先生の口から発表された。
「部長は清瀬君。副部長は尾崎君」
は!?
俺は、今までの中で一番驚いてしまった。こんな大役を任された事がないので、内心は驚きで頭がいっぱいである。小林先生の背後にいる芽依香にニヤニヤされながらも、俺は皆んなの前に立って決意を語った。
「俺は、こんな大役を任された事はありませんが、選ばれたからには皆んなを引っ張っていける様にします」
「僕は、清瀬君が部長としてやりやすい環境を作れる様にしっかりと支えていきたいと思います」
俺の後に、奏ちゃんが隣に立って決意を語ってくれたが奏ちゃんを連れて逃げ出したい程の緊張や不安に駆られている。そんな中、練習する為のグループ分けを発表された。今年は、男子と女子に部長が居るので男女別で練習を行うそうだ。
俺がA班の班長で、班員に高目君と目崎が選ばれた。奏ちゃんは、B班の班長であり班員に山本君と西田と都築が選ばれた。そして、C班は村部が班長に選ばれていた。班員には、日高と青木と行實が選ばれた。
女子も、同じ様に三班で編成されていた。班長は、安永さんと野田さんが選ばれておりもう一人は渡さんが選ばれていた。
それからは、班の中で自己紹介と練習内容を実際に行う事になった。まずは、自己紹介なのだが相変わらず目崎は不貞腐れた態度で俺と高目君を困らせていた。
「俺の足を引っ張らない様にして下さいね」
俺と高目君は、態度には出さなかったが苛ついてしまった。こんな生意気な奴が、俺と同じ班とか先生に講義したいと思ったがそれ以前に目崎には態度を改める様に注意をした。
「部長だからって調子に乗らないで下さい」
「いや、部長なんだけど……」
「おい、目崎! 先輩に向かってその口はないだろ!」
俺の隣の班員である西田が、目崎に向かって叱ってくれた。だが、全く聞かずに反抗的な態度を示していた。
こんな様子のまま、新チームになった初日が終わった。俺らは、いつもと同じ様に掃除や片付けをして帰る準備をしていた。ただ、部長である俺と安永さんは皆んなの前に立って一日の反省を言わなければいけない。ちなみに、掃除の時も皆んなの前に立って号令をかけなければいけなくなった。
「はぁ……。最悪だな」
「そうだね。せっかく、まさ君が部長になったのにあんな態度を取るなんて……」
「奏ちゃん、変な事は考えなくて良い。ただ、日高みたいに軽く殴るだけで良いんだ」
俺と奏ちゃんは、一緒に帰りながら愚痴をこぼしていた。芽依香からは、部長になって貰わないと困るそうだ。何が目的なのか分からないが、とにかく生前の時と全く違うので目標へと近づきつつあるのは確実である。
ただ、その壁の一つとして生意気な態度を取る目崎をなんとかしなければならない。奏ちゃんに関しては、俺に対しての態度が気に食わないので本気で潰そうと言う顔をしていた。
「とにかく、芽依香に分けを聞くとするか」
俺らは、俺の部屋に入って芽依香に電話する事にした。芽依香は、すぐ電話に出て俺らの質問を一つずつ答えてくれた。
「まずは、兄貴が部長になる様に裏で仕向けてたのよ」
「それは、お前の様子を見てれば予想はできていた。だけどよ、そのお陰で目崎が変な態度を取ってきやがったんだよ」
「そんなの知ってるわ。だから、兄貴を部長にさせたのよ」
芽依香が言うには、本当は村部が部長で奏ちゃんが副部長になっていた。ただ、目崎は自分より強い奴にしか敬意を払わないらしいので目崎は村部に色々と嫌がらせをするそうだ。
「だけど、奏ちゃんが居るから奏ちゃんが注意すればなんとかしてくれる筈だぞ」
「目崎は、兄貴達に分からない様に嫌がらせをしてるのよ。皆んなにバレない様にして、村部君を精神的に追い込んでしまうの」
「もしかして、それで村部が自殺をするって言いたいのか?」
「大正解よ。けど、兄貴には尾崎君がいるでしょ。だから、先生に頼んで部長を兄貴にさせたのよ」
芽依香は、田尻先生に頼んで部長を村部から俺にさせた様だ。俺にすれば、何もかも目崎より強いのでなんとかなると言う事だそうだ。
実は、目崎の方が村部より強いそうだ。しかし、俺らのチームは学年主義なので目崎にとっては不満が溜まる一方である。
俺が部長になる事で、目崎の事だけではなく色んな問題が解決されるそうだ。確かに、村部の事だけなら俺が部長にならなくても解決できる事である。しかし、複数の問題が解決できるのならそれに関して口を挟む事はない。
「て言うか、目崎って何者なんだよ?」
目崎は、体験期間中では全く来なかったが期間が終了してから、突然姿を現したのでとても不自然に思った。
目崎が小学生の頃、福岡でとても強いクラブチームに所属していた。目崎を中心にチームが成り立っており、目崎はこのチームで実力を伸ばした。その実力があるからこそ、プライドが高くなり自分より弱い奴が立場の高い位置に立つのが苛立たしくなるそうだ。
「でもよ、そんな奴に勝負を挑んだら負け確定なのは明らかだ」
「そこは、尾崎君を信じなさい」
「僕は、余裕だよ。まさ君」
奏ちゃんは、満点な笑顔で俺を励ましてくれた。芽依香が言うには、試合には勝てないが目崎を拷問する事で生まれ変わるそうだ。
「結局、拷問になるのかよ」
それから、目崎は一週間ぐらい部活に来る事はなかった。俺と高目君で、目崎が居ない幸せを感じながら練習をしており奏ちゃんも何事も無く部活に励んでいた。
それから、八月が経過した頃になると目崎は人が変わっていた。とても、明るくて礼儀正しくなっていた。
「今まで申し訳ありませんでした」
俺らは、目崎に戸惑いながらも楽しく練習する事ができてしまった。
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