第45話 修学旅行
あの戦いは、俺と永留の因縁対決だと言う認識だけではいけないと感じた。周りは、そんな事なんか関係なく眺めておりこの戦いに私情を持ち込んでる暇など全くなかった。
その間に、村部は長谷に三対一で敗北していた。だからこそ、このセットで優勝チームが決まるので私情を持ち込めなかった。
かなり、心の余裕がないまま点を取ったり取られたりしていたが、最後の永留のスマッシュがコートに入る事なく俺の顔面に当たって終わった。そのスマッシュは、わざと当てた様にも見えたが優勝なんかどうでも良くなった様にも見えた。
そんな感じで、俺ら福西中学校男子卓球部は数十年ぶりに新人戦を制覇する事ができた。ちなみに、女子卓球部は六位中四位と言う成績を残していた。
個人戦では、一年生の部でアジェフが優勝を果たしており目崎がベスト四を獲得していた。二年生の部では、奏ちゃんが優勝を果たしており俺がベスト十六まで成績を残す事ができた。
後の四人は、村部が三回戦突破を果たしており高目君と山本君が二回戦突破を果たしていた。生前では、一回戦負けの日高も一回戦突破を果たす事ができていた。
学校の日になると、皆んなからお祝いの言葉をかけられる様になった。生前では、こんなに気持ち良く称賛される事は無かった。
だが、俺の心には少し満たされない何かが潜んでいた。永留が、つまらなさそうにしている顔を思い出すと手を抜かれた様で満足ができないでいた。その事を奏ちゃんに相談すると、永留について対処してくれた。
また、奏ちゃんに頼るのは申し訳ないと思っているが、奏ちゃんとの暮らしの為に邪魔になりそうだと思ったので協力を仰いだ。
永留の弟は、三郎丸中のボスと永留の兄貴がとても仲良いのを見て憧れを抱いていた。しかし、奏ちゃんの拷問を食らってから兄貴は不良から足を洗って真面目に過ごしている。それを見限ったボスは、兄貴との距離を置く様になった。
だが、兄貴がそうなってしまった原因を突き止めたいと思った永留の弟に名前の知らない奴が突然現れて現状を伝えられた。しかし、永留の弟は教えてもらった奴の事は全く知らないとの事だ。
「だから、その事を知っていたんだな」
「うん。だけど、その情報を伝えた人の正体が分からないままなの。ごめんなさい」
「え、いや、あの、謝らないでくれよ。奏ちゃんには、いつも助かってるんだから」
「それでも……」
奏ちゃんは、悲しそうな瞳で俺の顔を眺めていた。確かに、奏ちゃんの言いたい事は理解できる。だが、少しでも分かったのでとても感謝している。
それから月日が経過して、修学旅行の日である十二月三日になった。これから三日間は、京都・大阪・奈良の三カ所に行って、それぞれの代表的な観光スポットを周ると言う事になっている。
ちなみに、俺らが旅行に行ってる間はアジェフが仮部長として一年生全員をまとめる事になっていた。
修学旅行の班については、クラスの皆んなから選ばれた班長六人を中心に作られた。男子の上位三人と女子の上位三人が班長となるのだが、一番票が多かった男子はバスケ部の副部長である
その他にも、テニス部の部長に選ばれた柿野が班長になっている。女子からは、美術部の
後は、班長同士で班員決めなのだが男子が三人と女子三人になる様にしなければならない。だが、人数的に男子より女子の方が多いので一班だけ女子が四人で男子が二人になる。
しかも、男子の班長は女子を副班長に女子の班長は男子を副班長にしなければならないと言うルールも課せられている。
俺の班は、女子卓球部の権藤さんを副班長として男子は奏ちゃんだけで、女子は
俺の班だけが、女子が多いのだが奏ちゃんが居るので満足している。そんな感じで、大阪にあるUSJや京都の観光巡りなど、奏ちゃんと二人で女子に囲まれながら班行動する事になった。
初日のUSJは、待ち時間を避ける為に空いてる所やあまり人気でない所を中心に周る作戦に出た。と言っても、人気のない場所は無いに等しかった。
それでも、待ち時間が少ない所は調べてあるのでそこのアトラクションに目掛けて班の皆んなで笑いながら走った。
俺の提案は、なるべく多くのアトラクションに乗って楽しむ事なので皆んなはそれを承諾した上で急いでいる。
一応、乗れたのは3Dアトラクションとジェットコースター、屋内のライドタイプなどの六種類の乗り物を体験できた。
そんな感じで、初日の修学旅行を楽しむ事ができた。奏ちゃんも、厳しい裏社会から普通の世界に戻ってこれたかの様な笑顔で楽しんでいたので見ていて嬉しかった。
初日の夜は、京都にある宿に泊まる事になっている。部屋は出席番号で分けられており、一番から八番までの人が十三号室で九番から十七番の人が十四号室に分けられた。
ちなみに、奏ちゃんが五番で俺が六番なので同じ部屋になった。もちろん、寝る位置も俺と奏ちゃんは隣で寝る事になっている。
そんな幸せを感じた次の日は、京都の観光巡りと言う修学旅行で最も重要なイベントとなっている。
ルールとして、マッチポイントの金閣寺から清水寺の間にどれだけの観光名所に行けたかで班の成績順位が決まるそうだ。
俺らの宿は、金閣寺に近い場所なので歩いて行ける距離なのだが、そこから清水寺までの距離を調べつつ行ける名所にはとことん行くと言う算段である。
別に、社会の成績に繋がったり賞状を貰ったりなどの功績にはならないがどれだけ楽しめたのかが鍵となる。後は、行った場所の写真を撮らなければポイントにはならないと言うルールがあるので班長としてしっかりと皆んなを引っ張って行かなければならない。
「これは余裕持って帰れるな」
「そうね。流石に、こんなたくさん周ればなんも問題ないっしょ」
俺と権藤さんで、次の計画について皆んなの前で会話をしていた。このイベントには時間制限があり、六時間でどれだけ周れるかの効率化を図る訓練なのだと学年主任は言っていた。なので、俺らは金閣寺から清水寺の間に十三箇所も周れる様に努力した。
今は、班の皆んなと宿の近くにある喫茶店で休憩している。権藤さんと森田さんが、大の京都好きなので十三箇所も周る事ができたと感心している。
そんな感じで、クラスの中で一番多くの観光名所を周れたので学年主任から讃えられた。それから、最後は奈良の東大寺の観光をして東大寺だけで自由に過ごすと言う流れになっている。
だが、今日の宿には三郎丸中の奴も一緒にいるとの事だった。流石に、迷惑にはならない様に仕切られてるが俺と奏ちゃんは不安に駆られていた。
俺は、夜の九時から班長会議があるので指定された場所に行っていると背後から誰かの声が聞こえた。
「初めてやな。清瀬君よ」
「お前は誰だ?」
「俺は、三郎丸の二学年トップを張らせて貰っとる
「俺の相棒がどうした?」
「ほう、お前は話が分かってる様だな」
二木は、奏ちゃんについて何か話したい様だった。しかし、もうすぐ班長会議なのでなんとしてもこの場を切り抜ければならないと焦っていた。
「その前に、もうすぐ班長会議なんだ。それが終わってでも良いか?」
「駄目に決まってんだろ。お前さ、俺みたいな奴が承諾するとでも思ってんのか?」
「確かに、そうだったな」
俺は、二木に話術で踊らされてると感じた。しかし、奏ちゃんは俺の為に離れる際は盗聴器をつけておくと約束しているのでもうすぐ奏ちゃんが来ると予測している。
「もしかして、お前の相棒が来るとでも思ったか?」
「なるほどな。抜け目のない奴だな、これだからヤンキーは嫌いなんだよ」
俺は、奏ちゃんが来る事を期待していたが二木の奴はそれを見抜いており、足止めをしているとの事だ。その間に、俺を問題に巻き込ませて修学旅行を中止させようとしている。
「それだと、お前も修学旅行中止になるぞ」
「俺は、どうでも良いんだよ。とにかく、お前の相棒さえ潰せばそれで良い」
「彼の相棒は、あの子だけじゃないわ」
「芽依香!?」
芽依香は、京都の宿に突然現れて二木を睡眠スプレーで眠らせた。芽依香が来ていると言う事は、問題が起きる筈だったのだと感じた。
「芽依香か、ここに居ると言う事はもしかして俺は……」
「何も抱え込まなくて良いわ。とにかく、班長会議に行きなさい。話はその後よ」
「分かった。ありがとう」
俺は、二木の事を芽依香に任せて班長会議に出席する事にした。詳しい話は、東大寺の見学が終わってから奈良公園で一時間の自由時間があるのでそこで奏ちゃんと三人で話す事になった。
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