第25話 偵察兵
新人戦が前回と同じ結果に終わり、俺らも無事に家に着く事ができた。その事により、俺らは事件に巻き込まれる事なくその日が終了した。
しかし、試合結果が同じになっていると言う原因についてはこれが元々なのだと感じた。前回の結果が、意外な結果になっただけであって先輩達も平然に試合を行えばこの結果になると言う事だと思った。
それから、何事もなく数日が経過して秋の季節になった。十一月になってからは、先生達が部活に見に来る事が少なくなった。俺が、予想していた通り部活中に遊ぶ事が増えてしまい周りの人達もそれに便乗していた。
しかし、俺と奏ちゃんで卓球の練習をしていた。しかも、富永先輩と村部も最近流行っているアニメの話をしながら卓球をしていたので俺達もその和に入る事にした。
そういう感じの日をキープできるようになり、時には先生に怒られてしまい罰を受けてしまう事があるが、生前と違う事はこの時期になっても先輩達と楽しく遊んでいる事だ。部活以外にも、プライベートで先輩達と市民体育館で卓球をしたり部長の家でゲームをしたりしている。生前と違って、かなり順調なので俺は奏ちゃんと二人でスカウト作戦へと移行していた。
俺らは、一組と二組の合同で行う体育の授業で狙っているメンバーの一人である山本君となるべく関われるように近くに寄っていた。話す機会が出来た時には、山本君の趣味であるゲームの話で場を盛り上げていた。そこに、奏ちゃんが加わる事で俺らといる事が楽しいと思わせる作戦が上手くいった。
最近は、芽衣香が歴史を動かした作品もそうだが「初音色ミルク」という作品も大人気であり、話す相手が変われば内容も変わるのでとても新鮮になる。だが、生前で話の内容はほとんど把握しているので山本君の距離がスムーズに縮まっている。
「もうそろそろ、誘ってもいいんじゃない?」
「そうだな。山本君の趣味や性格も大体は分かったからな」
タイミングを見計らって、俺らは山本君を卓球部に勧誘する事にした。悩んでいる様子ではあったが、俺らと居るのが楽しいという事で承諾してくれた。しかも、村部や高目君とも仲が良いので居場所には困らないと思う。
それから、山本君が先生に入部の許可をもらう事で俺らと練習に参加する事を許された。新しく部員が集まった事で、練習をさぼっていた人達も山本君に一生懸命に教えていた。
「生前とは違って、みんなが穏やかに練習しているな。もしかして、裏で脅してないか?」
「してないよ」
俺は、奏ちゃんに冗談交じりで脅していないか確認をした。本当であれば、俺は台に入れさせて貰えず部活の雰囲気も悪くなっていた。しかし、久原先輩や日高も仲の良い人達と楽しく練習をしていた。山本君が加わった事で、俺らだけでも団体に参加できる人数になった。後は、誰も辞めずにこの人数をキープする事が追加目標になる。
「それより、溝田家の事はなんか分かった?」
「うん。何個かは収集できたよ」
奏ちゃんは、俺のお願いで溝田美優紀がどうなっているのかを調べて貰っていた。生前通りに、美優紀は母親に虐げられており苦しんでいる様だ。
その中でも、ドッチボールでしっかりと練習をしており周りからの信頼も熱くなっている。それを、母親は利用してママ友の中でも頭が高い位置に居るそうだ。
「どうする?」
「もう一度、奏ちゃんにお願いしたい事がある」
俺は、美優紀が母親から解放されて希望している女子中学校に行けるようにしてほしいと告げた。こう言う事は、奏ちゃんにしか頼めない事だと思っている。
「うん。まさ君に頼まれたらやるしか無いよ」
「でも、こういうのって何か報酬とかいるんだろ?」
「そうだね。なら、僕とデートでもしてもらおうかな」
「んな!?」
俺は、自分だけお願いばかりしているから悪いと思って何かしてあげられる事は無いか思ったが、いきなりぶっ飛んだ事を頼まれた。
「だって、まさ君とデートできるならやる気が出るもん」
「で、でも、人だけは殺さないでくれよ。でないと、デートなんてもってのほかなんだからな」
「任せて。僕は、まさ君の事を考えながらだったら何でもできるから」
「そ、そうか」
奏ちゃんは、俺の事を恋人だと思っている程好きだと言ってくれている。そのお陰で、俺も奏ちゃんの愛情を感じながら楽しく過ごせている。だからこそ、そのお返しとして奏ちゃんのお願いを断る事はしなかった。
しかし、奏ちゃんとエッチな事はしてないと思い出した。日高が死んだ事で、そのストレス発散目的で奏ちゃんに手を出してしまった。だから、反省して今度は奏ちゃんと付き合ってからにしようと思っている。
そして、次の日の朝になると奏ちゃんは機嫌良く俺の家まで迎えに来てくれた。よほど、俺とのデートが楽しみなんだなと思った。
「そう言えば、昨日の事でお父さんに依頼しといたよ」
「あぁ、溝田美優紀の母親についてか?」
「違うよ。デートの事だよ」
「え?」
奏ちゃんが言うには、溝田美優紀に関しての事は奏ちゃんの執事と共に偵察をしている。なので、デートを優先する為に偵察を丸投げしたとの事だ。
奏ちゃんの家族は、とても金持ちの家族であり、奏ちゃんが暮らしてる今の家は別荘であるそうだ。父親も殺し屋であり、表社会では大企業の社長との事だった。
「今、知ったんだけど……」
「だって、言ってなかったもん。でも、父親は理解力あるから僕の事を何でも話せるんだ」
「なら、母親と執事の三人で暮らしてんだな。どうりで、家が豪華だと思ったんだ」
「え? 執事と二人で暮らしてるんだよ。母親とは、僕が小さい時から死別してるんだ」
「え!? あの人、母親じゃないの!?」
「そうだよ。僕が生まれた時からの執事なんだよ」
奏ちゃんの意外な家族構成に、俺は驚きを隠せずにいた。母親は、奏ちゃんが幼稚園児の時に訳あって亡くなったとの事だ。だから、母親との思い出は全く無いそうだ。その代わり、母親代わりをしている執事との思い出が多くなっている。
「そんな事より、大分の温泉に行こうよ!」
「そんな事って……。俺からすれば一大事になる程の情報だぞ……」
俺からすれば、奏ちゃんの家族がこんなにも複雑な感じだとは思わなかった。しかし、奏ちゃんはなんの不自由もなく暮らしていると言っているので心配する事はなかった。
「確かに、今まで黙っていた事は謝るよ。でも、それが当たり前になっていたから言うまでもないかなって思ってた」
「何も心配する事はなさそうで良かったけど、騙されていた感じがするな」
「本当にごめん。それに関しては、ちゃんと温泉でサービスするから許してよ」
「いや、変な意味に聞こえるぞ」
「だって、まさ君と裸の付き合いがやってみたくて」
「だから、変な意味に聞こえるんだって」
奏ちゃんは、大分にある有名な温泉宿で俺との温泉デートを計画していた。俺は、どこでも良いと思っているが、奏ちゃんの気が早くて理解が追いつかない感じだ。それほど、奏ちゃんは温泉巡りが好きなのだ。
「それでね、そこの旅館には卓球やビリヤードが使い放題だからいつでも楽しめるんだよ」
「まじで!? なら、夜中まで卓球できるな」
俺らは、温泉でのプランを話しているとあっという間に学校に着いた。どうしても、楽しいと時間があっという間に過ぎるので困ってしまう。
それから、週末の金曜日になり奏ちゃんから嬉しそうに溝田家について話してくれた。それまでの間、何もその情報を聞けなかったので心配で仕方なかった。
「僕の偵察兵から、素敵な情報が入手できたよ」
「偵察兵って、大切な執事なんだろ? どんな酷い言い方してんだよ」
「違うよ。僕の執事に仕える優秀な部下が動いてるんだよ」
「な、なるほど……。とにかく、めっちゃ凄いんだな」
ここ数日は、奏ちゃんと温泉デートに向けて色々とプランを立てている中、奏ちゃんの執事の部下が俺の依頼を遂行してくれていた。
溝田美優紀の母親は、とある男性と浮気をしていた。その男性は、美優紀と同じクラブチームにいる同級生の兄であった。
美優紀の同級生である子の兄は、まだ若くて美優紀の母親と十歳も離れている。男性からのアプローチにより、付き合う事になった母親の証拠を捉えて親戚や家族にばら撒く事で離婚する形になってしまった。勿論、親権は父親が獲得しており、怒り狂った美優紀の父親は離婚届を出して子供達と共に県外へと引っ越す様になったようだ。
「そんな事して、溝田家は大丈夫なのかよ?」
「大丈夫もなにも、本人は喜んでたぐらいだったから平気だよ」
「本人って、溝田美優紀の事か?」
「そうだよ」
確かに、衝撃的なやり方ではあるが美優紀が喜んでるなら良かったと思っている。片親になる事で苦労もあると思うが、問題が解決している様なので何も言わない事にした。
「なんか、違和感を感じるけど良いのか?」
「違和感を感じなくても良いんだよ。だって、支障なく解決したんだし、これからの状況も僕の偵察兵から情報貰うんだからね」
「そうか。取り敢えず、美優紀が県外に行ったんだったら良いか」
俺からすれば、どんなに嫌いな親の元を離れられるとしても先の苦労に不安を感じるが美優紀の場合は全く気にしておらず、どんなにクラブチームの人達と疎遠になるとしても喜びで満ち溢れてるそうだ。
「俺が思ったのは、奥まで情報を知ってるんだなって思ったよ」
「まぁ、僕の偵察兵は優秀ですからね」
奏ちゃんの作戦により、俺の依頼は達成する事ができた。だが、その報酬として奏ちゃんとデートに行く事が決まった。
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