第26話 温泉デート
「まさ君、こっちだよー!」
部活も学校も休みの日に、俺は奏ちゃんと二人で温泉旅館に泊まる事になった。俺と奏ちゃんは、予約された部屋に荷物を置いて温水プールに移動した。
この旅館は、日本で有名な旅館の一つであり奏ちゃんの父親が手配してくれた。なので、予約を取るのに困難な旅館を難なく行ける事ができた。
「すげー! 水着の姉ちゃんがいっぱいじゃんか!」
「ちょっと! 僕を無視しないでよ!」
この旅館は、冬になるとプールが温水になって使用可能となる。そこで、綺麗な女性やイケメンな男性が水着姿で楽しんでいた。屋内でも、大きな窓から景色を見る事ができるし寒くなってきた時期でも最高に楽しめるのだ。そう思いながら、高揚感に浸っていると奏ちゃんに頬を摘まれた。
「痛ててて」
「ちょっと、僕の事にも興味持ってよね」
「ごへんなひゃい……」
スタイルの良いお姉さんを、目の保養としてウキウキしてしまった。それに嫉妬した奏ちゃんから、強く頬を摘まれてしまいかなり痛かったがお陰で目が覚めた。
確かに、奏ちゃんの水着も可愛かった。俺とデートする時は、男だと言う事が分からなくなるぐらい女装に気合いを入れてくれる。
女性用の水着を着用しており、髪も二つ結びで綺麗な格好をしている。恋人の様に見えているのか、周りからは微笑ましく見られている。
「ねぇ、一緒にプールに浸かろうよ」
「お、おう」
恥ずかしくて躊躇っている俺を、奏ちゃんが俺の手を引っ張ってくれた。情けないと思うが、奏ちゃんの可愛さに見惚れている自分に気付いてしまった。
しかし、俺は奏ちゃんの事が好きだ。これまで沢山の事があったが、本当に奏ちゃんが殺し屋として俺を巻き込みたくなかったんだなと思った。
だからこそ、俺はそんな奏ちゃんを受け入れる事にした。生前では、奏ちゃんの事を訳も分からずに縁が切れてしまった。だが、今では衝撃的な事もあるが奏ちゃんと遊べる事に感謝している。
プールに浸かると、生暖かくてとても気持ちよかった。泳ぐ事はせずに、景色を観ながら奏ちゃんと手を繋いでいた。
「とても綺麗だね」
「そうだな。こうやって楽しく居れるのも、奏ちゃんのお陰だな」
俺は、照れている奏ちゃんに感謝の意を伝える事にした。ベタな展開ではあるが、俺は奏ちゃんの事をもっと知りたいと思った。
「まさ君……」
「いつも、ありがとう。俺は奏ちゃんの事をもっと知りたい」
「僕も、まさ君と仲良くしたいよ。友達のままでも良いから別れたくない」
「俺は恋人になりたい」
流石に奏ちゃんも驚いていた。でも、本当に奏ちゃんの事が好きだ。奏ちゃんの家庭事情を知った時、俺は奏ちゃんの事を何一つ知っていなかった事に懸念や悔しさを覚えた。
自分の事しか考えていなかったと思っているし、男同士だなんて事も関係ないと思っている。この感情は、奏ちゃんを物として思っている訳ではなく完全に恋愛をしている感情だと心が教えてくれた。
「僕は男だよ。男同士なんだよ」
「関係ない」
「でも、僕は……」
「奏ちゃん、俺の目を見てくれ」
奏ちゃんは動揺しており、頬を赤くしながら目を逸らしていた。しかし、俺の言葉に反応して俺の目を見つめてくれた。
「俺と付き合ってくれ」
「僕は、ヤンデレみたいになりそうで自分が怖いんだよ。しかも、殺し屋もやってて……」
「そんなの分かってる。それでも、奏ちゃんと居たいんだ」
「どうなっても知らないよ」
「構わない。俺は、奏ちゃんと人生を共に歩む気でいる」
「ありがとう……。僕も付き合いたいよ」
俺らは、身体を寄せ合いながら付き合う事が決まった。ラブロマンス的な告白は、生前では経験した事が全く無かったのでめっちゃ緊張した。
その後は、恋人としての距離が一気に縮まった。高級の海鮮料理を二人で食べ合ったり、露天風呂で背中を流し合ったりと天国にいる様な時間を共に過ごした。
俺らは、風呂から上がって自販機コーナーで牛乳を飲みながらゆっくりしていると何処かで見た事ある人が姿を現した。
「あれ? 君は、確か清瀬君?」
「え!? もしかして、田浦君!?」
俺らと、同期である鷲取中学校にいる
「まさ君、この人って鷲取中の人だよね?」
「あぁ、この前の練習試合にも居た人だよ」
「清瀬君の隣にいる人は?」
「この子は、俺の恋人だよ」
「な!? なにぃぃ!?」
田浦君から、奏ちゃんについて質問されたので、ある意味本当の事を言ったら後ろに居た一法師君が驚いて叫んでいた。
「分かった。分かったから、黙っててくれよ。一法師」
俺らは、訳が分からず反応に困っていると田浦君がいきなり叫んだ一法師を宥めていた。田浦君が言うには、一法師が三年間付き合っていた彼女が突然裏切って本人の目の前で他の男とキスをした事がトラウマになっていた。なので、恋人の事を聞くとフラッシュバックしてしまうとの事だ。
「なんかごめんな」
「いや、気にせんでええよ。それにしても、何処かで見た事がある顔やな」
「気、気のせいだと思う」
「でも、俺らの事を鷲取中だと知ってたんやから、もしかしたら練習試合で会ってるんじゃないかって思ったんや」
「まさ君、この人って勘がいいんだね」
「その様だな」
俺らが、なぜ誤魔化したかと言うと男同士の恋愛は馬鹿にされやすいからだ。周りに噂が流れる事で、俺らの仲が傷付いてしまうとお互いが思っているからである。
奏ちゃんの失言を隠そうとしたが、田浦君はそれを聞き逃す事なく俺らを問い詰めてきたので無駄に誤魔化すのは辞める事にした。
「どういう事なんや?」
「あぁ、隣の女子部員だよ。練習試合の時に、個人戦の申し込み試合で一緒にやってなかったか?」
「そう言えば、尾崎さんやったっけか?」
「そうだよ。よろしくね、田浦君」
「こちらこそ、よろしゅう」
俺の咄嗟に思いついた嘘に、田浦君は疑う様子もなく奏ちゃんと挨拶を交わした。しかし、隣の一法師君は嫌悪感丸出しで俺らを見つめていた。
「確か、君は男子チームの方にいたよな?」
「そうやんな、俺も思い出したわ」
一法師君の指摘に、田浦君も思い出して俺らの嘘に気づいた。当時は、男子チームと女子チームの二チームで鷲取中男子卓球部に挑んでいた。俺は、訳分からずにいた田浦君達に本当の事を言う事にした。
「貴方達は、同性愛者ってどう思う?」
「どうって、俺は気にせんけど」
「俺もどうでもいい。ただ、嘘はいかんぞ」
「そうだな、謝るよ。本当は、今日から男性同士ではあるが恋人になったんだ」
カミングアウトした後でも、田浦君達は何も差別的な発言はしなかった。俺らは、言わない約束を交わした事で仲直りもできたし、祝って貰いながら何事もなく終わろうとした。
「俺らは言っちゃおうかなぁ〜」
「同性愛者とか、気持ち悪いっすね」
しかし、差別的な発言をする奴らが突然現れてきた。目線を向けると、ヤンキー校で有名な三郎丸中学校の奴らが馬鹿にして来た。
「誰やねん。いきなり割り込んできたと思ったら、他人を馬鹿にしおって」
「お前は、確か田浦って奴だっけか? こんな気持ち悪い奴らと一緒に居らんで俺らと遊ぼうぜ」
「勘弁してぇな。遊びではなく、本気の卓球で相手したるわ」
「俺らに勝てるんか? お前は強くても他の奴らが弱えだろ」
俺らを馬鹿にしてきた奴らは、田浦君の事を知っている様だった。田浦君も、練習試合で三郎丸中学校とやったらしくそこで奴らの事を知った様だ。
田浦君が言うには、とにかく性格の悪いヤンキー達が集まる様な学校として有名であり、部活もかなり強くて県大会の常連としても有名の様だった。
「そもそも、何のために決着をせないかんのかが分かんねぇんだよ」
「そりゃ、初々しいカップルの恋路を邪魔する奴を見たら誰でも止めるやろ。なぁ、清瀬さんよ」
「あぁ、俺の女の悪口を黙って見過ごす訳にはいけないな」
「おもしれぇな。俺らが勝ったら、お前の恋人を好き放題にさせて貰うぜ」
「もし、お前らが負ければこの事は二度と喋らない事を約束しろ」
「良いだろう。俺らが負ける事はねぇからな」
こうして、傲慢な態度を取っている三郎丸中の奴らと俺ら四人は、奏ちゃんを懸けての卓球がいきなり始まる事になった。
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