第51話 卒業式

 あれから、受験シーズンが過ぎ去って卒業式当日になった。周りの同級生達は、公立高校の受験が終わって結果を待っている最中ではあるが華やかな舞台を用意された。


 ちなみに、俺と奏ちゃんは面接試験の時点で合格を発表された。諸富先生が、面接官として俺らの担当をしてくれた。しかし、その時点で諸富先生から高校生に向けての心得を教え込まれたので不合格の心配はなかった。


 そんな感じで、進路が決まってからは部活に参加したり真陽高校から貰った課題を進めたりと残りの学校生活を有意義に過ごした。しかし、そんな楽しかった中学校生活も終わりになった。皆んなは、受験勉強と言う大事な期間が終わって安心した様子で最後の学校行事に参加していた。


 それから、色んな人達に見守られながら会場に入場した。生前では、中学生の頃の卒業式なんか楽しくなかったのに今では名残惜しくて涙が出てしまった。だが、それを見た奏ちゃんは周りの目を気にせず俺の手を握りしめた。


「奏ちゃん、ありがとう」


「ううん。気にしないで、僕もまさ君のお陰でここまで来れたんだから」


 奏ちゃんは、自分が涙目になりながらも俺の手を握って慰めていた。しかも、俺らは隣同士なので他の人に見られずにこっそりと最後まで手を繋ぐ事ができた。


 そして、卒業式が終わって教室に戻った後はクラスで一人ずつお祝いの印鑑を貰って皆んなの前でお礼を言う事になった。しかも、廊下にはたくさんの保護者がカメラを持って佇んでおり、その中に俺の母親もカメラを持って思い出を残そうとしていた。


「皆んなと居れて楽しかったです」


「前のクラスより、今のクラスの方がめっちゃ居心地良かったです」


 俺は、奏ちゃんの次だったので奏ちゃんが言い終わってから俺が言う事になった。そして、クラス全員が言い終わると担任の言葉で最後のホームルームが終了した。


 それから、学校の中庭でたくさんの人達と写真を撮り合って思い出を残す時間になった。俺は、お世話になった先生達と写真を撮りながら他の友人達と写真をたくさん撮り合った。


 ちなみに、生前では日高とお世話になった先生達しか撮ってくれる人が居なかった。だが、今では撮ってくれる人が多いので嬉しかった。そんな幸せな時間が終わり、家に帰ると芽依香から電話がかかってきてた。


「今日の夕方に時間空けといてくれる?」


「分かったけど、その前にお祝いの言葉も無いのかよ」


「あら、そうだったわね。おめでとう」


「なんだよ。ついでにみたいな感じの反応は」


「ふふ、ごめんなさいね。それより、集合場所は佐重喜さえき橋で良いかしら?」


 芽依香が、暗い様子だったので少し気になったがなんとかお祝いの言葉を貰った。だが、お祝いの気分では無さそうだった。ちなみに、佐重喜橋とは俺と奏ちゃんの家の近くにある薄暗くて人通りの少ない橋の事である。


「ちゃんと来てくれたのね」


「そりゃ、あんなに元気なかったら気になって来るしか無いだろ」


 そして、約束の時間になると芽依香は俺の眼前に姿を現した。俺は、全く元気の無い芽依香を見てかなり気まずかった。


「なんで、そんなに元気が無いんだ?」


「そんな事ないわよ。それより、卒業おめでとう」


「ありがとよ。それで、もう未来は良くなったのか?」


「その事について話があったから呼んだのよ」


 芽依香は、タイムマシンの案内設定で目的が達成された通知が届いたそうだ。過去に一度、タイムマシンの事を俺に話してきたが芽依香は達成後の事は全く考えてなかったそうだ。


「それぐらい、本気になるのは理解できる。芽依香程ではないが、俺も似た様な思いはしたからな」


「えぇ、そうね。タイムマシンを利用して記憶を消し去りたいぐらいよ」


「それって、タイムマシンの仕組みとして目標が達成した後に未来に戻ると記憶が改竄されるって話か?」


「そうよ。でもね、私は自らの願いの為にたくさんの人を陥れてきたのよ。だから、ケジメとして兄貴に見てほしくてね」


「見てほしいって、何がだよ?」


 その刹那、芽依香はポケットからタイムマシンを取り出してすぐに踏み壊した。俺は、驚きながらタイムマシンの中身が出ていくのを眺めていた。


「なっ!? 何してんだ!?」


「私はね、目的の為に踏み台となった人達を忘れてはいけないと思ったのよ。それに、後の事は兄貴のタイムリープに任せる事にしたわ」


「任せるって、どう言う事だ?」


 芽依香は、涙目になりながら本心を俺に伝えた。芽依香は、家族が崩壊しない為に他人の人生をどれだけ滅茶苦茶にしたのか数え切れないぐらい目的に集中していた。


 その為、芽依香はその責任を背負って暮らす事に決めた。なので、万が一に復讐の牙を向けてきた輩が襲ってきた場合は俺のタイムリープを使って未然に防いでほしいとお願いされた。


「私は、兄貴の目的にたくさん貢献してきたのよ。だから、今度は兄貴が私の目的に協力してほしいわね」


「分かったけどよ、タイムマシンが壊れたら未来に戻れないだけじゃなくて、存在が消えたりとか身体に悪影響が出たりとかするのでは無いのか?」


「そんな心配はしなくて良いわ」


「そうか。なら、良かった」


 俺は、タイムマシンの仕組みをしっかりと理解してないので心配していたが芽依香の言葉を聞いて安心した。芽依香は、俺が居ない所で奏ちゃんから温泉旅行の話を聞いていた。本当なら、芽依香は田浦に襲われて命を落としていたが俺がタイムリープしてその出来事を未然に防いだ。


 それを思い出した芽依香は、俺に感謝しつつ自分の目標に向けて俺の能力を利用すれば一石二鳥だと感じたそうだ。


「もし、私が戻ってしまうと記憶が改竄されてしまって兄貴の理解者になれないと思ったのよ。だから、兄貴が私に相談してくれれば協力しやすいと言う姿勢を取る事にしたわ」


「万が一に備えての決断か。なら、今度はお前の目的を叶える為に俺が苦労する番だって事だな」


「兄貴が、理解力のある人で助かったわ」


 芽依香の目的は、孫の代まで何事も無く幸せでいる事だった。その為には、事故や事件に巻き込まれない事と健康的な身体を作り上げる事の二つが挙げられた。


 俺らは、お互いの意思を確認できた所でそれぞれの場所に帰る事にした。ちなみに、芽依香は家族に会うのは拒んでいた。


「私の心と身体は、かなり汚れてるのよ。だから、とてもではないけど会える度胸が無いわ」


「けど、お前は清瀬家の救世主だ」


 芽依香は、その言葉に救われたかの様な顔で俺を眺めていた。確かに、他人を犠牲にした事は許されないが芽依香の決意はとても美しく見えた。


 そんな感じで、俺の調子が少しずつ上がっていくのを感じた。その後は、家族との卒業パーティーや奏ちゃんとの卒業旅行の計画で生前の頃の黒歴史が完全に消え去った様に感じた。

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