第49話 晴れ舞台

 俺ら福西中男子卓球部は、早良区合同練習試合で大きな成績を叩き込んだ。試合形式は、十校で総当たり戦をして順位を決めると言うルールだった。


 特に、後半戦で体力を強いられる戦いだったので目崎や西田を積極的に使って戦力の強化に励んだ。この練習試合では、魁南中に接戦を強いられた試合以外は特に印象的な試合は無かった。


 順位は、圧倒的な差で魁南中がトップの座に君臨した。そして、二位は俺ら福西中で三位は三郎丸中、四位は東条学院中だった。市大会に行けるのは、十校中四校なので俺ら福西中は確実に次の大会に行ける成績を残した。


 そんな感じで、大きな練習試合が終わり半月が経過した。今日は、部活激励会があり三年生最後の大会に向けて全員で激励してくれる日だった。


 目立ちたがりな俺は、吹奏楽部の演奏と共に各部活の三年生が後輩達の前を行進して行くのがとても楽しかった。俺は、そんな気持ちを噛み締めながら男子卓球部の部長として皆んなの前で大会に向けての決意表明を語った。


「俺達は、去年と違って確実に力が付いてきてますのでこの調子で県大会まで行きたいと思ってます」


 自信持って決意を表してから月日が経ち、終業式が終わって今日から夏休みになった。俺らは、大会本番まで残り三日となっているので練習中に他愛いも無い話をしていた時が懐かしくなるぐらい練習に打ち込んでいた。


 隣の女子卓球部も、真面目に練習をやっており人数は少ないが一生懸命に声出しをしながら活気盛んに練習をしていた。


 それから、あっという間に中総体の日になった。俺らの顧問が、初めてだと言う事なので芽依香が監督として俺らの指示をする事になっている。


「あれ? 田尻先生が来てるな」


「本当だね。応援に来てくれたのかな?」


 俺らは、これからの試合に向けて準備をしていた時に田尻先生が応援に来ていた事に気づいて挨拶に行った。


「おう。頑張れよ」


 田尻先生は、俺らに声をかけて踵を返した。俺は、田尻先生の背中を見て生前の頃を思い出した。田尻先生は、女子卓球部が強くなる為に全力を注いでいた。


 なので、その一環として男子卓球部を廃部にする事で、女子達が集中して練習に取り組める様にした。しかも、田尻先生だけでなくPTAの会長や教頭先生なども賛成しており、俺と日高は何もできなかった。


 しかし、今はそんな思いはしていない。何度も思うが、これは奏ちゃんと芽依香が尽力してくれたお陰である。それと同時に、俺の復讐心も混ざっているので田尻先生の素っ気ない態度を見て気の毒にしか感じなかった。


「今日の田尻先生は、素っ気ないね」


「だろうな。生前の俺と同じで、嫉妬してるんだろうな」


 生前の俺は、女子卓球部に凄く嫉妬染みた気持ちで過ごしていた。俺は、強制的な廃部を受け入れる事で精一杯だったが、女子卓球部の輝かしい姿を見てさらに悔しくなった。だからこそ、今度はこの気持ちが逆になったと奏ちゃんに告げた。


「自業自得だろうな。せめて、この世界だけでも苦しんでいてほしい気持ちだ。俺は、絶対に許さないからな」


「僕は、まさ君が幸せならどうでも良いよ」


 俺は、死んだ後でも復讐したい気持ちにさせたあいつらが悪いと思っているのでこれに関しては何も悪いとは思わない様にしている。


 実際に、何かをしたければ何かを犠牲にしなければいけない。田尻先生達だって、女子卓球部の強化の為に男子卓球部を強制的に廃部にさせたのだからお互い様である。


 そう思いながら、俺は開会式に向けて皆んなと下の会場まで歩いて行った。会場に入ると、早良区の全中学校が一つにまとまって並んでいた。


 部長の俺を、先頭にして他のメンバーが後ろへと並んでいる。その隣には、他のチームの部長が佇んでおり威風を感じた。そして、開会式が終わって対戦表を受け取ってから応援席へと向かった。


 今年の予選リーグは、三つのグループに分けられている。Aグループに、魁南中・熊田中・鷲取中が所属しており、Bグループには福西中・銀竹中・東条学院中が所属していた。そして、最後のCグループは三郎丸中・桃池中・魁中・砂原中が所属している。


 俺らが、決勝トーナメントに出場するには一勝でもできれば可能となり、各グループの最下位のチームだけが予選落ちと言う仕組みになっている。


「優勝をもぎ取るぞー!」


「「「おー!!!」」」


 レギュラーに選ばれた仲間達は、俺の掛け声と共に気合いを入れた。まずは、一勝できれば決勝トーナメントに出場できるので、最初の試合を大事にしていきたいと思った。


 最初の試合は、銀竹中との一戦だった。銀竹中は、去年と比べて実力がかなり落ちているのであっという間に勝利した。そして、次の試合も圧勝する事ができた。


「やっぱり、あっという間に決勝トーナメントにいけたな」


「そうだね。この調子で頑張ろうね」


 俺は、奏ちゃんと二人でトイレ休憩しながら語り合っていた。しかし、帰り際に妙な話を盗み聞きしてしまった。


「まさ君、どうしたの?」


「あ、いや、外に警察がたくさん居るって聞いたからさ、少し気になったんだ」


 俺は、通りすがりの中学生達が話している内容を聞いてしまった。その内容は、この早良区体育館に爆弾を身に纏った男性が事前に通報されていたとの事だった。


「事前って事は、予告でもしてたのかな?」


「予告だったら、大騒ぎになって大会どころではないだろ」


「確かに、そうだね」


 その男性は、誰かの通報によって大騒ぎになる前に警察に連行された。俺は、そんな話を聞いた時に芽依香の顔がふと思い浮かんだ。


「多分だけど、芽依香がやってくれたんだろうな」


「だと思うよ。だって、こんな綺麗に解決できるのは芽依香さんしか居ないよ」


 俺らは、少し不安に思いながら自分達の応援席へと戻ったが、応援席には芽依香が佇んでいたので今回の事件について聞く事にした。


「あら、よく分かったわね」


「盗み聞きした話だから、詳しくは分からないけどお前に間違いないんだろ?」


「そうよ。今回も、私が片付けておいたわ」


 芽依香の情報によると、犯人は田尻先生であった。田尻先生が、この大会を無駄にしようと企んでいたとの事だったが、芽依香が事前に警察と繋がっていたので大騒ぎにならずに済んでしまった。


「だから、様子がおかしかったんだな」


「確かに、暗かったよね。でも、そこまで追い詰めていたとは思わなかったよ」


 俺は、田尻先生の素っ気ない態度を見ていたので犯行の動機はなんとなく察した。俺ら男子卓球部が、活躍しているのを見て気に入らないのだと俺は思っている。しかし、生前ではこちらも同じ思いをしたので復讐は完了したと確信した。


「とにかく、今の試合に集中するように。良いわね?」


「分かってる。だけど、これが終わったら詳しく聞かせてくれ」


「言わなくても、兄貴自身が分かってるんじゃない?」


 芽依香は、俺の考えてる事が見透かしてるかの様な目で語ってくれた。俺は、自分が考えていた事が当たっていると察したのでこれ以上喋るのを辞めた。


 それから、俺達は本気で決勝トーナメントに挑んだ。市大会に行くには、一回でも勝利できれば出場可能となる。しかし、順位によっては市大会のグループ戦に有利になるので、一度勝ったからと言って油断してはならない。


 一回戦の相手は、Cグループ二位の桃池中との一戦だった。一番に奏ちゃんが出る事になり、二番にアジェフが出る事になった。そして、ダブルスメンバーを挟んで四番の村部と五番の俺が待ち構える事になった。


 しかし、俺の出番が出る事は無かった。ダブルスメンバーである高目君と山本君が、しっかりと相手の攻撃に耐えていたお陰でストレート勝ちができた。


 それから、準決勝の三郎丸中に三対一で勝利しており、決勝の魁南中にも三対二で勝利する事ができた。最終結果は、一位が福西中で二位が魁南中になった。そして、三位が東条学院中で四位は三郎丸中になった。


「よっしゃ! 優勝だぁー!!」


 俺ら男子卓球部は、区大会優勝に心から喜びを分かち合った。表彰式では、部長の俺が賞状を受け取って副部長の奏ちゃんが王冠を手に取った。


「二人共、お疲れ様」


「あぁ、こちらこそありがとう。色々と支えてくれて感謝しきれない」


「ふふ。そうね、今回だけは素直に喜ぶとするわ」


「なんで、上から目線なんだよ。まぁ、良いけどさ」


「そんな事より、お母さん達が観に来てるわよ。行ってあげなさい」


「あぁ、すまない。ミーティング前には戻ってくる」


 芽依香は、涙目になりながら家族の方へと行かしてくれた。母親からは、泣きながらお祝いの言葉をかけてくれた。父親も、この日の為に有休を取って応援に来ていた。


 それから、ミーティングでも掘里先生や芽依香など、たくさんの人から褒められた。ちなみに、女子卓球部は五位と言う結果で終わったので団体戦は終了した。


 そして、次の日の個人戦では俺と奏ちゃんが二年生の部で市大会出場を果たした。一年生の部では、アジェフと目崎が市大会出場を果たしている。女子の部では、安永さんと野田さんが市大会出場権を獲得した。


「「「かんぱーい!!!」」」


 そして、大会が一段落着いたので俺は家族皆んなで祝賀会を開いた。もちろん、ゲストとして奏ちゃんも参加している。


「政真も奏ちゃんも、よく頑張ったね。お疲れ様」


「まさ君のお母さんも、応援ありがとうございます」


 奏ちゃんは、俺ら家族に今までにないぐらいの明るい笑顔で対応していた。確かに、家族の温かみを感じて来なかったのだから嬉しくなるのも分かる。


「まさ君と居ると、楽しくて幸せです」


 奏ちゃんは、そう言いながら皆んなが見えない所で俺の手を握ってくれた。思わず握り返したが、俺は奏ちゃんのお陰で夢を叶える事ができたので手を握るだけでは気が済まなかった。


「ご飯食べ終わったら、二人きりになってくれるか?」


「良いよ。いつもありがとね、まさ君」


「いや、俺の方こそありがとう。愛してるよ」


 奏ちゃんは、嬉しそうに俺の言葉を受け入れた。これからの目標は、目の前の大会を乗り越える事と奏ちゃんとの夢を叶える事の二つになった。

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