第9話

「ふんっ!」


 しっかりと両手で柄を握り、魔剣を引き抜こうと、体全体を使う。


「お……おお!剣が揺れてるぜ!」


「頑張れ!嬢ちゃん!そのまま引っこ抜け!」


「ぐぬぬ……っ!」


 魔剣が小刻みに揺れ、確かに今まででも一番可能性は感じる揺れ方である。それに合わせて、会場のボルテージも段々と上がっていく。


 そしてついに――――


 メキッ!


「えっ!?」


「………おいおい、あれは本当に人間が出せる力か?」


 踏ん張っていたルミネさんの地面が陥没した。それを見たヴィクトリア様が「まじかこいつ」みたいな顔をしてルミネさんを見た。いや、まぁたしかにあんな顔が綺麗な女の子が踏ん張っている地面を陥没させたら、そりゃそうなりますけど。


 そして、その音を聞いて、会場のボルテージも一気に下がり、シーンとなった。見ていた全員が「おいおい、まじかよ」みたいな目でルミネさんを見つめた。


「………ふー。ダメですね。全然ビクともしません」


 そして、格闘すること三十秒でルミネさんは柄から手を離し、額の汗を拭いこちらへ来た。そのせいで視線が集中する。


「あー……まぁ、その……なんだ。お疲れ様」


「あれ、結構いい訓練になりますね。例の騒動収まったら通ってもいいですか?」


「いや、やめておいた方がいいと思う」


 多分、いつかあの岩無くなるぞ?魔剣が刺さっているごく一部の部分だけ残るぞ?


「ふむ……まさか力だけであの子を屈服させる寸前まで行くとは………全く、末恐ろしい小娘だな。ボクがいなければ、あの子は小娘のものとなっていただろう」


 お、おかえりセルシウス。んで、どうだったよあの魔剣。知的好奇心は満たせたか?


「あれは元々――――いや、実際に触らせた方が早いか」


 ふよふよと俺の後ろに回り込み、俺を押すような仕草をする。ちょ、なになに。どうしたの?


「ユキナ、君ならあの子を抜ける。そういう運命にあるんだ。君とあの子はね」


「ん?どうしたユキナ。君も挑戦してみたいのか?」


 俺がずっと魔剣を見ていたのを挑戦したいと勘違いしたヴィクトリア様が声をかけてくる。またもや耳元で囁かれで心臓が跳ねたが、後ろの方でセルシウスが黒い笑顔をしだしたので一瞬で納まった。


「えっと……」


「これも経験だ。行ってくるといい。剣の姫君は私に任せておけ」


「ユキナさんもあの剣で鍛錬ですか!オススメは全力で腰に力を入れることです!」


 今そんなこと誰も聞いてないから。あと、流石に鍛練好きな俺でもあれで鍛練しようとは思わん。


「では、ちょっと行ってきますね」


「あぁ。行ってらっしゃい」


「頑張ってください!」


 と、二人のエールを貰ってから魔剣の前に立――――待って待って。ここに来てわかったけど、すっごい魔剣を中心にしてヒビ入りまくってるんだけど。どれだけの力で抜こうとしたのあの子。


 先ほどのルミネさんの影響かあたりはすっかり静かであった。


 ……なんかい心地が悪いな。黙ったまま数十人から見つめられるの。とっとと終わらせるか。


「よいしょ―――お?」


 柄を握った瞬間、何かが一瞬にして俺の中を駆け巡る。


 引き抜こうする。全然抵抗がなくて、スルっ!とまるで氷の地面を歩いたかのように滑らかに抜ける。


 勢いが強すぎて少し転びそうになる。


「え、抜け……」


「抜けたぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「なんでキミが1番びっくりしてるんだ……」


 後ろでなにやらセルシウスが頭を手で抑えているが、んはことは知ったこっちゃない。


 えええええええ!抜けたんですけどぉ!?魔剣抜けちゃったんですけどぉぉぉ!?


「え……あ……えぇ!?」


 持っている剣と、先程で剣が刺さっていたヒビだらけの穴を何度も何度も視線を往復させる。なんで!?なんで抜けたんこれ!?


「当然さ。なんせ、この子はボクの―――」


「「「「「うおおおおお!抜けたぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


「うおっ!なんだなんだ!?」


 ようやく事態を認識した観客達が押し寄せ、俺はあっさりと上へ押し出され、そのまま胴上げが始まった。


「わっしょい!わっしょい!」


「こりゃめでてぇぜ!」


「よくやった!騎士のにーちゃん!」


「ちょ!下ろし―――下ろせぇぇぇ!!」


 この騒ぎは、館長がやってくるまで続いた。吐きそう。

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