第8話

「ここですね」


 ルミネさんの案内の元、たどり着いたの場所は博物館だった。


 なぜ博物館……?俺の勝手なイメージだが、博物館っていうのは絵が飾ってあったり、なんか高そうな彫刻とかがあったり、失われた文明ロストテクノロジー産の何かが飾ってあったりとか、そういうのじゃないの?


 そんな感じで俺が入口で首を傾げていると、クスリと笑ったヴィクトリア様が耳元で教えてくれた。


「この博物館は、展示されている物を買うことの出来る珍しい所なんだ。恐らく、今回の魔剣も展覧用として仕入れたものなのだろう」


 ほほう………そんな博物館もあるのですか。とりあえず、耳を抑えてサッとヴィクトリア様から少し距離を取った。


「……あの、急に近づかれると胸がドキドキするので、その……」


「女子か」


 違うやい!憧れのヴィクトリア様との距離が近づくと動悸がちょっと強くなるだけだやい!


「もう!行きますよ!お2人とも!」


 と、動こうとしないルミネさんがプリプリ怒って俺の手を――――ちょっと待つんだルミネさん。なぜ俺の手だけ掴んだ!


「ちょ、ルミネさんストップストップ」


「知りません!ヴィクトリア様とお2人だけの空気をお作りになるユキナさんなんて知りません!」


「いだだだだ!!腕!なんかミシミシ言ってるから!」


 ルミネさんの握力に握りつぶされながらも、俺はそのまま博物館の中に足を踏み入れたのだった。


 痛い。


「す、すいませんユキナさん……先程までの私はどうかしてました」


「うん、離してくれただけでいいんだよ、うん」


 まぁ多分だが少しヒビが入ったと思うが、怪我はセルシウスが治してくれるしな……なんかこんなことで力使わせてごめんなさい。


 ――――気にしないでいいさ。それに、これも必要経費だと思えば軽いものだろう。


 なんの必要経費なのだろうか。


 ――――それはもちろん、君が女心を知るために決まってるだろう?


 一体どうしてこれが必要経費になるのだろうか。そもそも、女心についてはセルシウスが教えてくれたじゃん。


 ――――いや、あれはどちらかと言うと醜い方の………まぁいいか。はぁ、私や小娘も当分報われないな。はい、治療完了。


 ありがとなセルシウス。心の中でお礼を告げながら、多分ヒビが入っていたと思われる左腕を曲げたり、力を入れたりして異常がないかの確認。どうやら、大丈夫っぽいな。


「それで、目標の魔剣は見つかりましたか?」


「見つかっては無いですけど、多分あそこだと思います」


 と、ルミネさんが指さした先には、明らかに人が集まっている場所があって、なんか非常に盛りあがっている。


 時折、「頑張れー!」みたいな声がするのだが、一体何をしているのだろうか。


 今度は、普通の強さで腕を掴まれ、引っ張られながらルミネさんの後をついていく。近づくと、段々と正体が分かってきた。


「ふぐっ………ぬぬぬぬぬ!」


 件の魔剣は、何故かのまま置いてあり、更にはその剣を抜こうと頑張ってらっしゃる人がいた。


「あれは一体……?」


「あ、説明があそこにありますよ」


「ふむ、どれどれ」


 ヴィクトリア様が率先して覗き込み、俺もその説明を覗き込もうとしたら、ヌルりとセルシウスが体から出てきた。


 ――――セルシウス?


「………すまないユキナ。少しあれを見てくる」


 スイーと飛んでいくセルシウスを見つめる。まぁセルシウスって結構知的好奇心を埋めたがる神だから、興味を持ったのだろう。俺は説明の方を見に行くか。どれどれ………。


『どんなことをしても絶対に抜けない魔剣。魔法で抜こうとしても、力自慢の男数十人がかりでも抜けなかった伝説の魔剣を、周辺の岩と一緒に持ってきちゃいました。もしかすると、聖剣と同じパターンの剣かもしれないので、我こそは思う方、どうぞこの魔剣を抜くチャレンジをしてみてはいかがでしょう』


 との事だった。なるほど、聖剣と同じで使い手を選ぶやつだなこれ。


 こことは違う国では、『勇者』と呼ばれる人がおり、その選ばれる選定基準が聖剣に選ばれること、というのをセルシウスから聞いたことがある。


「あ、見てくださいここ。抜けた方には差し上げますって書いてありますよ」


「本当だな。チャレンジしてみるか?」


「ちょ、ちょっと気になりますね……いいですか?」


「あぁ、何事も経験だ。行ってこい」


 と、ルミネさんがヴィクトリア様の了承をとり、あの人混みの中に消えた。


「お、次はえらいべっぴんさんじゃないか」


「頑張れよー!嬢ちゃん!」


 ルミネさんが魔剣の前に立ったら野次が飛び、その言葉に答えるようにルミネさんが手を振った。


 魔剣は、全体的に少し薄い青色のような色をしており、どことなく氷を連想させるような冷たい気迫を感じさせた。


「……いきます!」


 そして、ルミネさんは勢いよく、柄へと手を伸ばし―――――

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