第7話

 ほほう、とヴィクトリア様が先程できた氷像に近づき、コンコンっと二度叩く。ルミネさんも出来上がったのを「ほー」と感心したかのように見ている。


 その様子を傍目で見つつ、剣を地面から抜くと世界から切り離された銀色の世界が、冷気となって消え、ふたたび元の世界へ。


「いやいや、見事な限定世界だなユキナ。これも私の言葉を忘れずに守ったからか?」


「……まぁ、そうですね」


 多分、ヴィクトリア様との約束や、言葉がなかったら途中で放り投げてた。マジでキツかったし、途中何度も死にかけたりもしたが、俺が耐えて来れたのはヴィクトリア様との約束があったから。


「あなたの隣でいつか戦う………本当に、この約束がなければ自分はこの場に立っていないでしょう」


「そうか……それなら、私もいい出会いをしたというものだな―――ちなみに、この二人は殺したのか?」


「いえ、勝手に殺ると団長とアーディさんに怒られますので、仮死状態にしてます」


 氷が溶けたら復活する限定的な仮死状態。これだったら気絶させても途中で復活するということもないから、安全安心である。


「なるほど、それなら――――ん?」


 しかし、またまたあの氷像の真下にこの前も見たムラサキ色の魔法陣が展開される。展開から見て、またまた転移の魔法だろうか。


「ヴィクトリア様!転移ですそれ!」


「なるほど―――小賢しいな」


 と、ヴィクトリア様が言うと、その魔法が完全に発動する前に、ヴィクトリア様がその魔法陣を踏みつけた。そしたら、次の瞬間にはその魔法陣がパリン!と粉々に割れ、氷像の中でも何かが割れたような気がした。


「………え、今何したんです?」


「簡単さ。魔法陣を物理的に叩き割った。それだけだ」


 えぇ……?そんなその可能なの?チラリと視線をルミネさんに向けたら、意図が伝わったのかこくりと頷いた。


「可能ですよ。足に魔力を纏わせると、分類的にはそれも『魔法攻撃』となりますので、壊すことは充分可能です」


「まじですか………」


 それは知らなかったなぁ……。魔法陣についての知識はセルシウスに教えて貰ってはいたが、「君には殆ど縁がないから基本だけ覚えておけばいいよ」と言われたので、そのことについては全く知らなかった。


「ヴィクトリア様。転移で回収しようとするほどですから、向こうでは幹部の立ち位置に近いと思うのですが、どうします?」


「尋問決定だ。本来なら我々が拠点へと運ばないといけないが、今日の優先事項は剣の姫君だ。他の騎士団へ預けよう。スネイクドラゴンならば、喜んで引き受けてくれるだろう」


「……?分かりました」


 スネイクドラゴンなら?まるで他だったら断れる言い方をしているが……何故だろうか。


 とりあえず、ヴィクトリア様の言うことは絶対なので、騎士団の人を見つけると事情を説明する。スネイクドラゴンの名前を出したら食い気味に肩を掴まれたのでちょっと怖かった。


 なんでも、スネイクドラゴン―――ましてや、幹部級の人物ならば、本部に持っていくだけでも評価が上がるのだとか。接触した騎士の人はそう言っていた。


 なんで評価が上がるのかは分からないが、まぁ俺が所属しているのは警備及び護衛騎士団なため、深くは知る必要は無いだろう。「そうなんですね」と言って終わらせておいた。


 そして、二人が捕まっている氷像をその人達に任せて、本来の任務へ。解除のやり方は教えたし、地面から氷を切り離して置いたので、連れていきやすいだろうな。地面つるつる滑るから。


「それじゃあ、よろしく頼むぞ」


「了解しました!」


 と、ヴィクトリア様が引き継ぎを終え、こちらに戻ってくる。凄いなあの騎士。めっちゃホクホク顔なんだけど。


「さて、すまないな」


「いえ。元々こうなるとは予想をしてて、無理に外出をしたのは私ですから、お構いなく」


「そうか……では、早く剣の姫君の用事を終わらせるとしようか」


「そうですね……あぁ、ヴィクトリア様とのお手わせ!一体どんな訓練になるのでしょう……!」


 と、目をキラキラと光らせながら歩き始めたルミネさんの後を追う。女子の買い物は比較的長く、とてつもなく時間がかかるとセルシウスから教えて貰ったが、ルミネさんは迅速―――というよりも、なんか適当に選んでない?


 あ、さすがにヴィクトリア様が止めに行った。ヴィクトリア様も麗しい女性だから、こういったことに妥協はしないのだろう。


 そして、日用品を買うのを終え、その荷物持ちとして当然俺がそれを持ち、ついにいよいよ、魔剣とのご対面である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る