第3話
まぁいい。ルミネさんの父親は魔剣五本自由に振り回すということは一旦置いといて、今は目の前の相手に集中しなければ。
「……ハハッ!」
「っ!?」
楽しい。こんな気持ちになるのは久しぶりな気がする。自分の実力を発揮して、勝つか負けるかのギリギリの勝負をするなんて、昔初めて魔物を退治しに行った時くらいだ。冒険者の人達や、セルシウスの時は例外だ。セルシウスは実力差があるすぎるし冒険者の人達の時は俺が幼すぎたし。
右眼に熱が宿るのを感じ、完全にスイッチが入った。
「行くぞ」
「っ!は、や……い!」
先程よりも早いスピードで接近したが、ルミネさんはギリギリで魔剣を変化させて防御。手をあんまり動かさないで、魔剣の方が伸びるのはなんかずるい気がする。いや、まぁ文句は無いんですけど。
その方が、俺ももっと強くなれるから逆に感謝したいくらいである。いいよ、もっとガンガン使っていこうルミネさん。
「こ……の!」
「!」
防御しながらも、魔剣の刀身が伸びてグリン!と俺の氷の剣を交わして俺の顔に伸びてくるので、俺は剣ごとルミネさんを押して距離をとる。
「はぁ……ふぅ……今のはびっくりしました。その瞳の変化にも」
「それは良かった。あまり退屈はしてなさそうで」
「退屈だなんてそんな……。それに、私にとっても得られるものはとても多い手合わせです!」
「それは俺のセリフでもあるな!」
俺もルミネさんも、次の一撃でこの手合せは終わる。漠然としながらもそう思っていることが目から伝わり一歩踏み出す。そして、これを終わらせようと剣を振り落と――――
「あ な た た ち?」
時間が凍った。
二人同時にビクン!となりギリギリの所で止まり、ゆっくりと声のした方向へ首を向けた。
そこには、アーディさんがいつも通り綺麗な顔で笑っているのだが、どことなく怒りも混じっているような気がして――――すっごい怖い。
「仲がいいのは私も大歓迎よ?でもね――――手合わせは場所と時間を考えてからやりなさい!!」
「「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」」
説教されたのは五分と少しだったが、体感時間はめちゃくちゃ長く感じた。
「いい?あなた達。別に手合わせは悪くないのよ?私達もやってるから……でもね、あんなに朝っぱらからキンキンキンキン響かせたらダメじゃないの」
「はい……」
「本当にすみませんでした……」
アーディさんが来てから、俺とルミネさんは二人揃って仲良く正座していた。そろそろアーディさんへの罪悪感と足の痺れからどうにかなりそう。
「全く……訓練好きの二人を引き合わせたらこんなことになるなんて……次からしっかり反省しないと。とりあえず、ユキナくんは反省文追加ね」
「はい……」
「すみませんユキナさん……私が手合わせしましょうと言ったばっかりに……」
「いやいや、俺もルミネさんと手合わせする気満々だったから、どっちもどっちだよ」
強いて言うならば、それを受けた俺が六割……いや、八割くらい悪い。
「あの、アーディさん、罰は俺一人で受けるんで、どうかルミネさんの方な見なかったことにしてくれませんか?」
「ダメです!私も悪いですから、ユキナさんが受けるのなら、私も受けます!」
「別に、ルミネちゃんへの罰はないわよ。ユキナくんは既に騎士団に所属しているからの処置であって、ルミネちゃんはまだ学生じゃない」
と、言うことはルミネさんには何も罰はないと。俺は……まぁあれか。あんまりはっちゃけるなという警告なのだろうな。
「でも――――!」
「でもも何も、ルミネちゃんは学生。もし罰するとしても、それは私じゃなくて学園長の役目よ」
ごもっともである。
「……むぅ」
「可愛くむくれてもダメ。はい、説教はこれで終わりよ。足とか痺れてないかしら?」
大丈夫です。少しは痺れてますけど、立てないという程では無いです。鍛えてますので。
足の調子を見ながらゆっくりと立ち上がる。よし、これなら大丈夫そうだ。
「ユキナくんはそのまま拠点に戻っていて頂戴。シャワーを浴びて、朝ごはんを食べたら今日の仕事を説明するわ。私はルミネちゃんを送ってくるから」
「分かりました」
ぺこりと頷き、拠点の方に戻ろうとすると、視界に銀色が映る。
ルミネさんである。
「あの!ユキナさん!」
「なんですか?」
とりあえず、なんで俺の手を君の両手で包んできたのかな?離してもらっていい?アーディさんからの視線が痛い。
「ほ、放課後!放課後でしたら、訓練場の方が空いてますので、先程の続きをしませんか!?」
「えー……っと」
流石にこれは俺に聞かれても分からないので、アーディさんの方へ視線を向ける。すると、困ったようにこくりと頷いた。
「放課後だね。分かった、楽しみに待っておくよ。でも、場所分からないから迎えに来てくれないとダメだからな?」
俺まだここに来て二日目だから。訓練場言われても分かりません。校舎まわりのランニングの時に見ているかもしれないが、まだ入ったことのない俺の目ではどれがどうなのか分からん。
「分かりました!必ず迎えに行きますね!」
と、キラキラさせた目で最後に俺の手をギュッ!と握るとアーディさんの方へ向かっていき、そのまま送られていった。
さてと、俺も戻りますかね。
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