第7話

「んー、どれどれー?」


 アイシャさんは、二本の指だけで掴んだナイフをそのまま上に持っていき仰ぎ見る。


「ふんふん、なるほどなるほど…………よし、アーディ!」


「はい、団長」


「緊急会議よ!急いでさっき解散した全団員を招集しなさい!」


「御意に」


 と、アーディさんはそのまま後ろを向いてどこかへ立ち去ってしまう。俺はアイシャさんに手招きされているので、そちらの方に近づく。


「………その、そんなヤバいやつでした?」


「そうね。だいたいどこら辺が雇えるレベルというのも大体分かるぐらいやばい所ね」


 と、アイシャさんはごとりとテーブルの上にナイフを置き、紋章を示す。


「この蛇に翼を生やした珍生物の紋章は世界で一番の規模を持つ闇ギルド、『スネイクドラゴン』よ。世界で危険人物として指名手配している奴らの大多数がここに所属しているわ。そして、スネイクドラゴンの主な客の相手は大手貴族よ」


「……なるほど、しかし相手はそんな危険視するほどの人物だとは思えなかったですが」


「それは君がおかしいのよ。別に私一人でも追い返せるけど、確実に苦戦するし、怪我もしていたわ」


「団長程の実力者が苦戦して怪我を………それでしたら、自分の元に来た襲撃者は実力が下の方という可能性が出て来ますが」


 確かに、見えない闇の中で瞬きを狙って俺の顔に正確に投げれる技術は凄かったが、ただそれだけだ。ナイフさばきはそこそこだったが、俺が使った方が早い。体術も俺の方が強かった。


「特徴は分かる?」


「主な主武器はナイフでしょうね。マントで体を隠し、そのマントの中には大量のナイフがあると予想できますね」


 最初、アイシャさんの反応は『ナイフ?まぁ暗室者はナイフだものね』と言った感じだったが、マントのくだりから、ピクんと頬を引きつり始め、大量のナイフの時点でジト目になった。思い当たる人物がいるのだろうか。


「……新人クン、コレ見て。これ」


 そして、アイシャさんがテーブルの上からガサゴソと漁って取りたしのは一枚の紙。そこには、三日前の夜に見た――――


「あ、そいつですそいつ。マントの感じとかそっくりです」


「新人クン、ここ見える?ここ」


「?バッチリ見えますよ」


 なんか、危険度SSSランクとか、小刀の魔術師ショートレンジとかいうなんか凄そうな二つ名が着いてますけど何か?


 首を傾げたら、アイシャさんがはぁ―――と長いため息を吐いた。


「………あのね、新人クン。私たちや世界各国がそれほどに危険と総合判断したからSSSなのよ?」


「すいません、そのSSSのやばさが分からないですけど………」


 何せ、田舎からでてきたばっかりですし、危険度なんてあるのも初めて知った。犯罪とは無縁な村だったからな。


 俺がそんなこと言ったら、アイシャさんが頭を抱えた。なんかすみません……。


「……見回り以外のことは、新人クンの仕事は、まず知識を身につけることからしましょうね」


「分かりました」


 元々そのつもりだったので、教えてくれる人がいるというのはありがたいです。ありがとうございます、アイシャさん。


「とりあえず今は、ドラゴンスネイクという闇ギルドが、この学園の誰かをターゲットにしているから、それらの魔の手から守る必要があるということを最低限覚えて」


「分かりました」


 俺からしたら、そんなに危険に思えなかったが……まぁ、俺というもいるんだ。油断しないようにしよう。


 そう心に決めながら、徐々に集まってくる騎士の人達を見る。アーディさんが手招きしているので、とりあえずその隣に落ち着いた。


 少し、右眼が熱くなったような気がした。俺自身が俺のことを異端と表したことに、彼女が不満を持ったのだろう。心の中ですまないと謝っておく。


 配属されて三時間。いきなりの会議に参加である。


 勿論、指揮を執るのは団長であるアイシャさん。歓迎イベントが無くなったことを知らされると、「えぇ~?」と不満の声が出た。


 しかし、スネイクドラゴンの名前が出た途端に、みんなの顔がキリッ!と締まる。視界の端で先程知り合ったナタリエさんも、最初はあわあわしていたのだが、キリッとなった。


「襲撃者の名前は恐らく、小刀の魔術師ショートレンジの異名を持つ犯罪者、ザザ・クラークよ。新人クンのおかげで対策ができるわ」


「………ユキナくん?」


「いや……その、たまたまなんですよ」


 そう。たまたま外に出たら、なんか怪しいのがいて、追っかけて撃退したってだけで……って俺、なんでアーディさんに言い訳してんの?


「たまたま、配属される三日前にそのザザなんちゃらってやつと戦っただけで」


「………後で反省文ね。騎士団に配属されてはいないけど、危険な行動はダメよ?」


 でも、余裕だったんですよ。と言うと、また話がこじれそうだったので、分かりましたと頷いた後に謝った。


 美人に心配されて、釘を刺されたら黙って頷いて謝っておけと父さんから言われてるからな。それに、俺は新人なんだし、副団長であるアーディさんがそうしろと言ったのだ。


 ならば、新人の俺が逆らう訳にはいかないだろ?


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