第6話
「な、ナタリエです!よろしくおねがいひまふ!」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
緊張プラス噛んだことにより、頭を下げててもナタリエさんの顔が赤くなっていることがわかるが、特に反応することもなく、普通にぺこりと俺もお辞儀をし返した。
それを見て、ナタリエさんが「いい人」と呟いたが、アイシャさんがコホンと咳払いを挟んだ。
「さて、色々とありまして―――まぁ半分は私たちのせいなんだけど……改めて!ようこそユキナくん『王立アワレティア女学園警備及び護衛騎士団』に!」
「名前、長くないですか?」
「うん!長い!」
あれから、俺はこれから仕事場となる拠点に入り、所属している人達に歓迎された。
なんか、俺が思っているよりも歓迎されていることに疑問を覚えたが、まぁあんまり気にしないことにする。嫌われていないだけでマシである。
軽く自己紹介をして、現在の俺はこれから寝食を共にする、分け与えられた部屋で少し体を休ませていた。部屋はなかなか大きく素振りをしても充分余裕がある。
日用品の方は、既に騎士団本部の方から支給されていたので、わざわざ買いに行く手間が省けた。
しかし、問題は暇である。この後呼びに行くからゆっくりしててとは言われたものの、暇すぎる。
「……そういえば、今日はランニングの方をしていなかったか……?」
なにか一つ、忘れていたものに気がつくと、芋づる式に忘れていたやらなければいけなかったことが思い出される。そういえばだったが、一度非公式に襲撃者を撤退させていたことを報告しないといけないだろう。
そうと決まれば、こんな所でひまひま言っている場合ではない。壁に先程立てかけた剣をもう一度手に取り、証拠品のナイフが胸元にあるのを確認してから部屋を出る――――
「ユキナくん?」
「………アーディさん?」
――――と、目の前にアーディさんがいた。どうやら、タイミング良くアーディさんが目の前にいるタイミングでドアを開けたようだった。
「すいません、怪我とかありませんでした?」
「え、えぇ。大丈夫よ。ユキナくんはどうしたの?これから私が呼ぼうとしていたのだけれど」
「実は――――」
アーディさんにも報告する予定だったので、特に隠すことなく喋る。実は三日前に、ここに侵入しようとした輩を撃退したこと、その時のナイフが今手元にあるので、それを団長に見せようとしていたこと。
「………なるほど。しかも、既に撃退済み」
「すみません、本当なら捕まえて、簀巻きにしてからここの校門前に吊るそうとしていたのですが、逃げられてしまって……」
「ユキナくん?別に無理して捕まえなくてもいいのよ?次は対策を取られるかもしれないけれど、私たちの目的は捕縛じゃなくて守ることなんだから」
「ですが、捕まえないとまた次も来るじゃないですか」
「あらユキナくん。また来ようと思う気も起きない程にボコボコにすれば来ないわよ?」
「――――!」
な、なるほど!俺はてっきり逃げられる=また来る=結局来るなら捕まえる方が楽みたいな考え方をしていたが、トラウマになるほどにボコボコにして戦意を喪失させれば少なくともそいつは役に立たないということか!
「流石です。勉強になります」
「……?え、えぇ……今のところになにか勉強するとこあったかしら?」
何故かアーディさんは首を傾げていたが、流石副団長まで上り詰めた人である。実力だけでなく、知力も俺では到底たどり着けないところまであるのだろう。
「……あ、所でこれが件のナイフですけど……」
「拝見するわね」
と、アーディさんは俺が差し出したナイフをゆっくりとつまみ上げる。全体的な見た目としては、大体全長が20センチ程で、真っ黒。柄部分に見えにくいが何かの紋章みたいなものが掘られていたのだが、生憎俺はそこまでの知識は無いため、判明することは無かった。
………知識についても身につけないとダメだな。
「これは………」
紋章を見てつぶやくアーディさん。
「分かりました?」
「分かりはしたけど……いえ、これは団長がいる時に一緒に喋りましょうか。二度手間ですし」
「分かりました」
そして、俺たちは少しばかり歩くスピードを早め、玄関前に移動する。この館に入ってすぐのエントランスは、かなりの大きさになっており、どでかいテーブルが真ん中にをあって、その上には色々と紙が乱雑して置いてある。
団長は基本、ここに陣取っており、仕事を騎士に振る。例えば見回りだったり、この学園に通っている生徒の悩みごとを解決したり、護衛に行ったり。
「団長」
「アーディ……と新人クン?まだ時間まで沢山余裕はあるけど」
「悪いけど、毎年恒例の新人歓迎イベントは中止よ。それどころではないわ」
新人歓迎イベント……?一体何をやるのだろうか。
「え、でも―――」
「これを見れば分かるわ。事態は一大事よ」
「え!?」
ちょちょ、アーディさん!いきなりナイフを投げるのはさすがに危ないのでは!?
しかし、そんな思いとは裏腹に、アイシャさんは綺麗に刃の部分を人差し指と中指できっちりとキャッチした。
……うっそー。
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