第5話
「えっと……その、ごめんね!」
「いえ……なったものは仕方ありません。ここは逆にポジティブにちょっと考えてみましょう」
「ポジティブに―――いえ、そういえば私の自己紹介がまだだったわね」
「そういえば、そうでしたね」
「私は王立アワレティア女学園所属、警備及び護衛騎士副団長を任されているアーディよ。よろしくね、新人クン」
「はい、よろしくお願いします」
アーディさんね。しっかりと覚えました。
「話を戻すけれど、具体的にどのようにポジティブに変えるつもり?」
「そうですね………」
まず……まず………。
……………。
まずいな。何も思いつかない。昔から、基本一人でやってたし、実力を測る手段は、たまに村に来る冒険者と、村の外にいるモンスター位でしか分からなかった。
あ、そうじゃん。
「まず、人がいることですね」
「うん、そうね……うん?」
アイシャさんが俺の言ったことに首を傾げた。お、なんか一つ出たら色々と思いつくな。
「手合わせを毎日してもらえる、他人の技を見ることが出来る、もしかしたら指導とかもつけてもらえるかもしれないですね、あとは―――」
「ちょ、ストップ。新人クン、一旦ストップよ」
アイシャさんがストップをかけたので、口をゆっくりと閉じる。
「確認だけれど………新人クン」
「はい」
「君、もしかして今まで独学で鍛えてきたの?」
「そうですね、村から出て騎士になろうとする珍人は俺ぐらいでしたし」
それに、両親も至って普通の農民だったからな。村の外に興味を持つ人はいたが、王都に興味を持ったのは俺だけである。と村長は言っていた。
勿論、そんな閉鎖的な空間に剣を教えてくれる人なんていない。村の近くにモンスターが現れることがあるが、その時の対処方はただただ囲って物理で押しつぶすだけ。技術的な何かを持っている人なんていなかった。
だから俺は、独学でやるしか無かった。体力を付けるために沢山走ったし、剣を早く振れるようにたくさん素振りもしたし、戦闘の勘を養うために、村の人達に黙って、外でモンスターを倒したりしていた。
彼女が来てから劇的に俺の鍛錬方法は変わったが、彼女も彼女で機嫌がいい時にしか指導をつけてくれないので、殆ど独学と言ってもいいだろう。
だから、あまり人との鍛錬をやったことの無い。………なんか今更ながら少しだけ楽しみになってきた。
「そう、だったんだ……ちなみに、村の名前はなんて言うの?」
「メリセーヌです。名前に特に深い意味はないですね」
「メリセーヌ……アーディ、知ってる?」
「名前だけなら聞いたことはありますが、正確な場所までは……」
「まぁ、めちゃくちゃ森の中で閉鎖的でしたからね。無理もないです」
ほんと、何も無いからねあの村。鍛錬をする場所としてはなかなかいい場所だったが、とても不便だ。
「…………あ」
「どうしたの?」
「いえ、ここで一番のポジティブが見つかったなーと」
本当に、なんで気づかなかったのだろうかって位には、自分が意外にも慌てていたことに気づく。
「団長も、アーディさんも、とてもお美しいということですね」
「あら」
「まぁ」
俺がそう言うと、二人が俺を見つめた。
「新人クン、これでも私たち、行き遅れなんて言われてるのよ?」
「こんなに美人なのに行き遅れ?世間の評価どうなってるんです?」
少なくとも、俺が産まれた村に行けば、子供からおじいさんにまで幅広くモッテモテになりますがお二人とも。
「ねぇ、団長……私、ユキナくんのこと気に入ったから、指導とか私がやっていい?」
「え、ずるいからダメ。それに、指導だったら団長の私が適任じゃない?」
「団長は肝心な所でズボラなのでダメです」
「なに?」
「なんなの?」
「ちょ、お二人とも?」
待って待って。なんでこんなに急にお二人の仲が悪くなってるんですか。そして、理由が俺の指導について?
俺的には、どちらでも構わない―――というより、お二人にお願いしたいです。是非、お二人の実力の方をこの目に焼き付けたいのですが。
「あの――――」
「「何っ!?」」
「ぴえっ!?」
と、ここでまた闖入者。扉を控えめに開けて、先程からいつ話しかけるかタイミングを伺っていた女性がいたのだが、勇気を持って声をかけたのに二人の剣幕にすぐ様意気消沈してしまった。
「―――ってあら!ナタリエ!?ご、ごめんなさい!急に怒鳴っちゃって!」
「大丈夫かしら……?それとごめんなさいナタリエさん……」
そして、慌てて先程の人に謝りに行ったアイシャさんとアーディさん。
とりあえず、俺はいつこの中に入れるんですか?
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