第10話

 セルシウスと、夢の中でやる訓練は、ただひたすらセルシウスの猛攻から逃げ続けるだけ。


 そう、ただそれだけなのに――――


「んぐっ!?」


「ほらほら、もっと頑張ってユキナ。夢の中ならどれだけやっても怪我はしないんだから。まぁ、精神的には疲れるけど」


 さすがは神、と言うべきなのかただ横に一振りするだけで、その威力で風が巻き起こり、防いでも腕がジンジンと痺れるくらい吹き飛んでしまう。


「んにゃろ………!」


「甘いよ」


 空中で体勢をとり、くるりと一回転して足に魔力を込めて空を蹴り、セルシウスへと肉薄するが、剣を掲げて防御される。


「今のはいい判断だね。僕じゃなかったら致命傷超えて即死だろう」


「その通りなんだけど、イラつくなぁ……!」


 ほんと、なんでこの神はそんなに戦いというものが上手いんだ。


「ん、そろそろ時間だね」


「うおっ………」


 セルシウスがパチン!と指を鳴らすと、俺とセルシウスが持っている剣が消える。そのせいでぐらりと体勢が崩れ、俺はそのままセルシウスの胸に突っ込んでしまう。


「んぶっ」


「おや?」


 視界が閉じられると同時に、顔に柔らかな感触が襲いかかってくる。


「す、すまん」


「気にしないでいいさ。君も男なのだから、私のこれに魅力を感じるのは仕方ないことだ」


 セルシウスの肩に手を置いて、自力で顔を退かし謝ったのだが、セルシウスは自分の胸を両手で持ち上げてゆさゆさとしていた。


 別に好きであそこに突っ込んだ訳では無いのだが、変な勘違いをされてしまった。まぁ、前なんてしょっちゅうセルシウスの胸に突っ込んでばかりだったから今更だろう。向こうもそれをわかって、わざと言っているのだ。


 まぁ、めちゃくちゃ恥ずかしいことは確かだが。


「とりあえず、戻してくれるか?」


「む?……いいのか?もうちょっと堪能しても、別に私は――――」


「いいから。あと神なんだからそこら辺はあんまり気にしないと思うが、俺も男だからな?」


 俺ももう15歳だからな?騎士になるためにそういう欲は多少コントロール出来るように訓練はしていたが、完全に抑えきれることなんて出来はしない。


「………まぁいいか。それじゃあユキナ、行ってらっしゃい」


「おう、ありがとうなセルシウス。訓練つけてくれて」


 セルシウスがニコリと笑い、手を振っているのを見た瞬間、景色が一瞬で変わった。


「……戻ってきたか」


 見慣れない天井、既に夜になったのか部屋は暗く、月光だけが部屋を照らしている。


 先程まで夢の中で暴れていた分、寝ていたという感覚はないが、眠気は感じない。あるとするならば、セルシウスに散々吹っ飛ばされた時の精神的疲労があるだけだ。


(このくらいの疲労なら、パフォーマンスになんの影響もないな)


 腕を回したり、首を回したりして体調を見るが、この程度だったら普段の動きと変わらないようにセルシウスにしこたま仕込まれているので大丈夫だ。


 ………こうして思うと、なんか色々とセルシウスから仕込まれているな本当に。気づかないうちに俺の体魔改造されてない?そこんとこどうなのよセルシウスさん。


 ――――知りたいかい?


 あ、ごめんなさい。一気に知りたくなくなりました。知らなくていいこともあるよね、この世には。


「さて……」


 机の上には、多分アイシャさんが置いてくれたであろう、この騎士団が身につける装備一式が置いてあったが、それ見事にスルーして、壁に立てかけた剣をとり、腰に差す。


 明日、ちゃんと団長に装備いりませんって伝えて置かないとな。


 部屋を出て静かに移動してから拠点からも出る。視界がくらいが問題は無い。すぐに右眼が熱くなると視界が昼間と同じように見える。セルシウスが魔法をかけてくれたようだ。


 交代の際は、担当している人がしっかりと拠点に戻ってきたのを確認してから交代しないと行けないらしいので、しばらく拠点前で待っていると、俺の前担当の人が現れた。


「それじゃユキナくん、よろしくね」


「はい、任せてください」


 パチンとハイタッチしてから先輩と交代して夜の学園の見回りを開始する。寮付近はアーディさん含めて10人程度の先輩方が警戒しているので、そちらの方は心配しなくても大丈夫。


 俺的に気になるところといえば、やはり校門前だろうか。三日前もそこから襲撃者は侵入しようとしていたからな。もしかしたらそこが一番侵入しやすい所なのかもしれない。


 俺は、少し小走りで校門前に移動した。

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