第3話

 結局、あれからこっそりと期間外労働として、あの男が現れないか見張りをしていたが、襲撃者は誰一人と現れず、配属日の日となった。


「………………」


 夜の時は月明かりで少ししか見えなかったが、太陽が出ている今、その全貌は明らかになっている。


「……デケェなこれ……」


 この校門から見える景色だけでも分かる。でかい。デカすぎる。


 まず、校舎が5階建てってどういうことだよ。訳わかんねぇんだけど。


 ボーッと校舎を見上げながら、手紙の内容を思い出す。確か、もう少しで迎えの人が来てくれると書いてあったのだが……。


「や、君が噂の新人クンかな?」


 視線を元に戻すと、赤髪ポニーテールの人がいつの間にか目の前にたっていた。足音を消して、更には気配も消しての接近。二日前の襲撃者と同等――――いや、それ以上実力が感じ取れる。


 とりあえず、噂ってなんのこと?


「噂、ですか?」


「そうそう。歴代で二人目の偉業。入団試験で試験官の人を倒した優秀な新人クン」


「あぁ、それならば紛れもなく俺ですね」


 入団試験の時、やたらめったら俺や、他の田舎出身と思われる入団希望者に対して高圧的な態度を取ってきて、余りにもイラついたからボコボコにしたのだ。


「なんかやたら人を舐めたような態度をとる方でしたので、ちょっと現実見させようとボコボコに」


「彼、一応あれでもそこそこな実力者なんだけど………」


「またまた、ご冗談を」


 あの程度だったら俺が10歳の時とほとんど同じくらいの強さだぞ?さすがに冗談が過ぎるだろう。


 あれでそこそこの実力者とか、逆に騎士団の質を心配するのだが。


「………どうやら、とんでもない新人が来たようね。ここに配属されるのも当然かも……」


 と、目の前の人はウンウンと手を組んで頷いた後に、こちらに手を伸ばす。


「私の名前はアイシャ。王立アワレティア女学園所属、警備及び護衛騎士の団長を勤めているの」


「団長でしたか……。自分は、ユキナといいます。まだまだ若輩者ですが、足は引っ張らないと思いますので、よろしくお願いします」


「あぁ、別に無理とかして敬語使わないでいいのよ?ウチって結構緩いから」


「いえ、流石に団長なので………」


 これから俺の上司となる人にタメ口なんて絶対無理だ。俺はそこまで心臓に毛が生えている訳では無い。


「むぅ……本当に敬語使わなくていいんだけど……まぁいいや。よろしくね、新人クン!」


「はい、よろしくお願いします」


 俺も手を伸ばして握手をする。女性特有の柔らかさがあり、その中でもキチンと剣を振っている硬さもある。


「それじゃ着いておいで。これから、君の拠点となる場所に案内するわ」


「分かりました」


 くるりと背を向けた団長の後を追い、ついに俺は女学園の中に足を踏み入れた。


「手を握って思ったけど……君さ、どれだけ昔から剣を振ってたの?」


「そうですね……」


 俺がヴィクトリア様に救われたのが確か五歳の時だろ?


「五歳の時に、とある聖騎士に命を救われてから鍛錬を始めたのでもうすぐ10年ですね」


「10年も!?」


「はい」


 ヴィクトリア様の隣りに立って、一緒に戦う。それだけの夢を叶えるために、愚直にただ剣を振り続けた。


 師なんていない。たまに故郷の村に寄ってきた討伐者や、騎士の人達に手合わせをねだってはいたが、我流である。


 強いて言うならば、あの時、ヴィクトリア様が俺を助けてくれた時の一撃でが師匠だ。


「俺が今ここにいるのも、助けてくれた聖騎士に恩返しをするため、そして約束を果たすために俺は、騎士になりました」


「へぇ……いいわね!男の子してるね!少年!」


「団長、15歳は既に大人です」


「私からしてみれば、15歳なんて少年だよ」


 まぁそうでしょうね、とは言わなかった。


 団長であるアイシャさん。ものすごい美人で見た目はものすごく若く、まだまだ10代でも充分に通用する見た目はしている。


 だがしかし、実際の年齢は恐らく――――おっと、これ以上は殺される気がするから辞めておこう。


 アイシャさんは美人。これだけ認識しておけば充分だろう。容姿を褒められて嬉しくならない女性は居ないはずなのだから。多分。


「それで、聖騎士は今8人いるけど誰に助けられたの?マテウス様?それともエミール様?」


 先程挙げられた御二方は、今現在で一番長く聖騎士の座に着いている御人である。聖騎士になって30年で、歳ももう60代になるはずなのだが、歳の衰えを一切感じさせない力強い聖騎士である。


「いえ、俺が助けらたのは、当時19歳のヴィクトリア様です」


「へぇ、ヴィクトリア様………ヴィクトリア様!?」


 史上最年少で聖騎士に至った若き天才。


 その名前を出したら、アイシャさんがものすごく驚いた。

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